#マーケティング #市場創造 #未顧客
未顧客に新しい選択肢を提案するには、どんなアプローチが必要でしょうか?
成熟し競争が激しくなっている市場で、次の成長を目指す企業にとって重要な問いです。
アサヒビールが2024年12月の年末に期間限定で開設した、ノンアルコール飲料だけの立ち飲みバーは、その答えを示す一例です。従来のアルコール市場の外側にいる 「未顧客層」 をターゲットにしたこの取り組みは、おもしろいマーケティング施策でした。
ぜひ一緒にマーケティングへの学びを深めていきましょう。
アサヒビールのノンアル立ち飲みバー
アサヒビールは2024年12月、ノンアルコール飲料 「アサヒスタイルバランス」 を中心とした期間限定の立ち飲みバーを東京・新橋にオープンしていました。
健康志向の新提案
ノンアルコール飲料だけがある立ち飲みバーの名前は、「サクッと 食生活サポート スタイルバランス亭」 です。忘年会シーズンに合わせて、健康志向の消費者に向けて新しい価値を提案する場として設計されました。
ノンアル立ち飲みバーは、アルコールを飲むことが中心だった飲酒文化において、ノンアルコール飲料の可能性を広げるアサヒビールの挑戦でもあります。
健康的な食事とノンアル飲料のペアリング体験
立ち飲みバーでは、管理栄養士が監修した料理と、ノンアルコール飲料3種類 (ハイボール, ゆずサワー, レモンサワー) の飲み比べセットが用意されました。
食生活が乱れやすい忘年会シーズンに、健康的でおいしい選択肢を提供することで、消費者に 「健康と楽しさを両立する新しい飲み方」 を提案しました。来場したお客さんからは 「ヘルシーでおいしい体験ができた」 「ノンアルでも楽しめる場が新鮮だった」 などのポジティブな反応が寄せられ、ノンアル飲料への関心を高める効果があったようです。
また、立ち飲み形式というカジュアルな体験を通じて、消費者が気軽にノンアルコール飲料を試せる環境にしたこともポイントです。ノンアル飲料を選ぶ理由として健康志向や気分転換などが挙げられますが、こうした選択をサポートする体験の場を設けたことによって、アサヒビールは商品の実際の利用シーンを想起させることを狙いました。
アサヒビールの立ち飲みバーは、商品プロモーションを超えたブランド価値の再定義を目指している点が興味深いです。
未顧客層へのリーチと新市場の開拓
アサヒビールの期間限定のノンアル立ち飲みバー 「サクッと 食生活サポート スタイルバランス亭」 の取り組みは、マーケティングの観点で興味深い戦略的な意義を持っています。
従来、アルコール飲料メーカーはお酒を飲む消費者を主なターゲットとしていました。一方、今回のアサヒビールの施策はその枠を超え、アルコールを飲まないという選択をする人々、つまり 「アルコールの未顧客層」 に向けたものです。
未顧客とは誰か?
未顧客層とは、ブランドや商品を利用していない人々を指します。
今回の事例に当てはめれば、ノンアルコール飲料を選択する層には、健康志向の若者、妊娠中や授乳中の女性、運転をするのでアルコールを飲めない人、あるいはアルコール飲料が苦手な人など、多様なニーズを持つ人々がアルコール飲料の未顧客に含まれます。
国内のノンアル市場は成長を遂げており、2024年には前年比 128% の成長が記録されています。こうした未顧客層に直接アプローチするための場として、アサヒビールは期間限定バーという形式をとったのです。
未顧客への価値提供
ノンアルコール飲料が提供するのは飲み物だけではありません。
それは 「飲むことの体験」 です。アルコールを飲む機会が限定される人にとっても、ノンアル飲料があれば飲み会や社交の場において、アルコールを飲まない自分も一緒になって参加できることも付加価値となります。
アサヒビールのノンアル立ち飲みバーは、未顧客を新たな顧客として取り込み、未顧客の生活シーンを豊かにすることを目指した施策です。
成長への長期的影響
未顧客を取り込むことは、短期的な売上増加だけでなく、企業の成長の持続性を高めます。
今回の場合で言えば、ノンアル市場が拡大基調にある中、アルコール飲料市場で従来は向き合ってこなかった未顧客層のニーズを満たすことは、新しい市場の形成につながります。
ブランド価値の再定義と利用シーンの提案
アサヒビールは、今回の取り組みによってブランド価値そのものを再定義しています。
「健康」 や 「バランスの取れた食生活」 といったテーマを軸に、ノンアル飲料を日常生活に取り入れる新しい利用シーンを提案しました。これによって、消費者からアサヒビールという企業や商品への価値イメージを新しくつくろうとしている意欲的な取り組みです。
料理とのペアリングからの飲食体験
ノンアル立ち飲みバー 「サクッと 食生活サポート スタイルバランス亭」 では、ノンアルコール飲料と料理とのペアリングを通じて、ノンアルコール飲料の可能性を広げています。
例えば、来場者がノンアル飲料と料理の新しい組み合わせを体験した際には、 「ノンアルでもここまで多様な楽しみ方ができるとは思わなかった」 という声が寄せられました。また、管理栄養士監修の料理とセットにした提案は、健康志向の来店者に好評でした。
商品の訴求だけとどまらず、消費者に新しい体験をもたらすことによって、ブランドの存在感を強化したのです。
顧客の状況とニーズを満たす
ブランド価値の再定義において重要なのは、お客さんの多様なニーズに応えるために、お客さんの置かれた 「状況」 と、その状況下で生じている 「顧客ニーズ」 を理解することです。
ノンアル飲料しか飲めない、あるいは飲みたくないと思う状況において、アサヒビールは、消費者が持つ 「飲み会でも酔わずに健康的に楽しみたい」 というニーズを捉え、ターゲット層を広げながらも一貫したメッセージで価値を訴求しました。
この施策は競合との差異化にもつながります。既存のノンアル市場では多くのプレイヤーが存在しますが、健康や食生活との結びつきを強調した提案は、アサヒビール独自のポジショニングを確立できることが期待できます。
お客さんの置かれた状況と、その状況下で発生している顧客ニーズをつかみ、ニーズを満たす利用シーンを提案することにより、アサヒビールはノンアル市場の中でも確固たる地位を築くための基盤をつくろうとしたわけです。
マーケティングへの示唆
今回のアサヒビールのノンアル立ち飲みバーという取り組みは、マーケティング活動において重要な示唆を与えてくれます。
示唆は主には次の3つに集約できます。
- 未顧客の獲得: 既存顧客ではなく、未顧客層を取り込むためのアプローチが必要なことを示しています。市場が成熟し競争が激しくなる中で、新たな顧客層を開拓することは企業の成長に欠かせません
- 価値提案: 健康志向や食生活の提案により、消費者に 「選ばれる理由」 をもたらすことで、ブランドとしての価値を明確化しています。これにより、ブランドとのつながりを深める施策として機能しています
- 体験型コミュニケーション: 実際に商品を体験できる場を提供することによって、消費者に直接的な価値を感じてもらえます。リアルな顧客接点から、商品の魅力を効果的に伝えることができます
アサヒビールのノンアル立ち飲みバーは、マーケティング戦略の事例として注目したい内容です。
体験型プロモーションの効果は、一過性のイベントにとどまらず、消費者の 「良い記憶」 として体験や感情が強く残ることから、長期的なブランド価値の向上にも貢献するでしょう。
未顧客の獲得やブランド価値の強化を狙ったアサヒビールのアプローチは、内容を抽象化すれば他の業界にも応用できます。顧客体験を中心に据えたプロモーションが持つ可能性をあらためて考えるきっかけとなります。
まとめ
今回は、アサヒビールがノンアル立ち飲みバー 「サクッと 食生活サポート スタイルバランス亭」 を期間限定で展開したという事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- アサヒビールのノンアル立ち飲みバーは、健康志向が高まる中で新たな価値を提供する場として期間限定で開設された。管理栄養士監修の料理とノンアル飲料を組み合わせたペアリング体験により、従来のアルコール中心の飲酒文化とは異なるアプローチで、消費者の興味と支持を引き出した
- 未顧客層の獲得を目指し、アルコールを飲まない層に向けた施策を展開し、新しい市場を生み出した。ノンアル飲料でアルコール飲料のような 「飲むことの体験」 を提供したことで、飲み会や社交の場での参加感を付加価値としてもたらした
- アサヒビールの取り組みは、商品のプロモーションにとどまらず、ブランド価値の再定義を目指したもの。お客さんの置かれた 「状況」 と、その状況で生じる 「ニーズ」 に応じた価値提案を行い、競合との差異化を図りながら、消費者からの 「選ばれる理由」 をつくる事例
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