#マーケティング #ジョブ理論 #顧客価値
なぜ、競合商品は売れているのに、自社の商品は思うように買ってもらえないのだろうか…?
こんな疑問を抱いたことはないでしょうか?
お客さんに買ってもらえ成功している商品には共通点があります。それは、お客さんの 「ジョブ」 を的確に理解し、解決しているということです。
ジョブとは、人が特定の状況で達成したい進歩のこと。ジョブを起点に商品開発とマーケティングを行うことで、お客さんに選ばれる商品を生み出せるのです。
では、具体的にどうすればジョブ起点のマーケティングを実践できるのでしょうか?
月桂冠の日本酒の新商品事例から、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
月桂冠の日本酒 「アルゴ」
月桂冠は2024年9月に、アルコール度数 5% の日本酒 「アルゴ」 を発売しました。
一般的な日本酒のアルコール度数が 15% といわれるなか、アルゴはその3分の1という低アルコールです。
月桂冠は、日本酒では数少ないアルコール度数の低いアルゴを新たに投入し、日本酒の日常的な飲用促進を狙います。
アルゴは鮮やかなブルーのボトルが特徴的で、コンビニやスーパーで気軽に購入できる商品として展開されています。価格も 300mL で380円、720mL で880円と、手に取りやすい価格設定です。
開発背景となった調査結果
月桂冠が2400人に行った消費者調査では、あらゆる酒類の中で日本酒がもっとも 「翌日まで残る」 「二日酔いになりやすい」 という回答が多かったとのことです (参考記事) 。
それゆえ、平日の月曜から木曜で、日本酒はもっとも敬遠されているという実態も判明しました。つまり、消費者は日本酒を 「気軽に日常的に飲む」 というよりも、「特別な機会に飲む」 という捉え方をしていたのです。
新商品の開発方針
調査からの発見を受け、月桂冠は、「日本酒をもっと日常的に飲んでもらうためにはどうすればよいか?」 という問いを立てました。消費者が日本酒に感じている負担感を軽減し、より手軽で気軽に楽しめる日本酒を作る必要があると考えたわけです。
こうして、低アルコールでありながらも日本酒の風味を損なわない新しい商品として、アルゴの開発が進められました。
日常的に飲んでもらう商品設計
アルゴの特徴は、アルコール度数 5% という低さにあります。一般的な日本酒の3分の1のアルコール度数に抑えつつも、それでいて味わいの薄さを感じさせないよう、原料となるお米の量を1.3倍に増やして旨味を担保しました。
また、アルゴは非炭酸の飲料なので、おなかにたまらず飲みやすく仕上げ、ビールやチューハイなどの炭酸飲料との違いを打ち出しています。フルーティーな香りのある甘口の味わいは、日本酒のライトユーザーや若年層に向けた飲みやすさを意識した設計です。
学べること
では、月桂冠のアルゴの事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
アルゴの商品開発には、マーケティングの 「ジョブ理論」 の観点で示唆があります。
ジョブ理論
ジョブ理論では、お客さんが商品やサービスを選ぶ背景には、「ジョブ」 が存在すると考えます。
ここでいうジョブの定義は 「人が特定の状況で遂げたい進歩 (progress) 」 です。
ジョブ理論で特徴的なのは、目指したい進歩を達成するために、お客さんは商品やサービスを 「雇う」 と捉えることにあります。商品・サービスを 「ワーカー」 として雇用するわけです。
ジョブ理論において重要なのは、お客さんの置かれた 「状況」 を理解することです。その状況下でどのような進歩を求めているか、つまりどんなジョブが存在するかを把握することが大事です。
状況とジョブを結びつけて捉えることで、「お客さんはこういう状況にあるから、こんなジョブを持っているのか」 という因果関係が見えてきます。
アルゴが狙ったジョブ
では、アルゴの事例にジョブ理論を当てはめてみましょう。
アルゴが狙ったジョブは、「日常的に気軽にアルコールを飲みたい」 というものです。
従来の日本酒は、アルコール度数が高く、どちらかというと 「特別な機会にしっかりと飲む」 というジョブを遂行するワーカーでした。これは、消費者が平日に日本酒を避ける傾向があるという月桂冠が実施した調査結果にも表れています。
アルゴは、日本酒を好んで飲む消費者の 「週末や特別なときにしっかりと飲む」 というジョブとは異なる、新しいジョブである 「日常的に気軽に飲む」 を遂行するワーカーになろうとしています。
そのため、従来の日本酒とは異なるジョブスペックを持たせる必要がありました。低アルコールで体に負担が少なく、軽い飲み口とフルーティーな香りが特徴のアルゴは、日常生活の中で平日でも気軽に楽しめるワーカーとしての役割を果たそうとしているのです。
ジョブ起点の商品開発とマーケティング
ジョブ理論の観点からアルゴの事例を汎用化すると、商品開発やマーケティングにおいて学びがあります。
まず重要なのは、お客さんを明確にすることです。
どのようなお客さんが、どんなジョブ (進歩) を求めているのかを把握することが大事です。そのためには、どういった状況下でお客さんが何を達成しようとしているのか、つまり 「状況」 と 「ジョブ」 をセットで捉え、お客さんの文脈を深く理解することが不可欠です。
次に、その状況やジョブを解決するためのプロダクトの 「ジョブスペック」 を定義します。
お客さんが抱えるジョブに対してどのように自社の商品やサービスが役立つかを考え、そのジョブを完了させるためのスペックを開発する、あるいは既にある機能を訴求するポイントとして打ち出します。
そして、お客さんにその商品・サービスを 「ワーカー」 として雇用してもらうためのマーケティングを展開します。お客さんがジョブを遂行するために、その商品を選び (雇い) 、使うことでジョブを完了させ、価値を実感してもらいます。
以上の流れを踏むことで、企業はより確実にお客さんに選ばれ、商品が効果的にお客さんにとって最適なワーカーとして雇用されることができるのです。
この一連のプロセスを取り入れることによって、商品開発からマーケティングに至るまで、より的確にお客さんのニーズを満たし、長く選ばれ続ける商品・サービスとなります。
ジョブ理論で実現する顧客起点
このように、お客さんの状況とジョブの変化を常に観察し、それに合わせて商品・サービスの機能を調整することが、長期的な成功につながります。
ジョブ理論によって、「うちのお客さんはこうだから」 「自社商品の強みはこれ」 という売り手視点での固定観念にとらわれることを防げます。商品のことを、特定のジョブに固定して考えるのではなく、お客さんの変化する状況とジョブに応じて柔軟に機能や訴求を変化させていく考え方が大事になるのです。
ジョブ理論を活用することで、企業は市場を単一の層として捉えるのではなく、お客さん一人ひとりの具体的な状況と求める進歩に応じた価値提供が可能となります。
さらに、現時点でのお客さんの多様なニーズに応えられるだけでなく、変化する市場環境にも柔軟に適応できます。より多くのお客さんに選ばれる存在となり、長期的な成功を収めることにつながるでしょう。
ジョブ理論の視点を取り入れることで、企業は自社商品・サービスが実際にどのような 「ワーカー」 として機能しているかを、より具体的かつ多面的に理解することができます。
ジョブ理論のメリットは、ターゲットとするお客さんの具体的な状況とジョブを理解することで、より具体的な顧客価値を提供できる点にあります。売り手が市場全体を漠然と捉えるのではなく、お客さんの個別の状況とジョブに焦点を当てることで、より精度の高いマーケティング活動になるのです。
まとめ
今回は、月桂冠の低アルコールの日本酒 「アルゴ」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- まずはお客さんを決める。誰のジョブを解決するのか
- そのお客さんが置かれた 「状況」 と、その状況下で遂げたい 「ジョブ (進歩) 」 は何かを見極める。状況とジョブをセットにして顧客理解を深める
- 見出した状況とジョブに対して、ワーカーとして雇用されるためのジョブスペックを用意する。開発またはすでに実装されていれば訴求ポイントにする
- お客さんにジョブ完了のために雇ってもらえるようにマーケティングを展開する
- お客さんに選ばれ (雇われ) 、使ってもらうことでジョブを完了させ、お客さんに価値をもたらす
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