#マーケティング #競争軸 #差異化
お客さんは、自社商品やサービスをどんな理由で選んでいるのでしょうか?
ご紹介するスケッチャーズの 「ハンズフリー・スリップインズ」 という靴は、これまでの靴選びの基準を変え、新たな価値を提供しました。
この事例から学べるのは、「競争軸」 を変えることでビジネスの可能性を広げられるということです。では、どのようにして新しいビジネス機会を生み出せるのか――。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
スケッチャーズの 「ハンズフリー・スリップインズ」
スケッチャーズの 「ハンズフリー・スリップインズ」 は、靴の世界に新たな風を吹き込みました。
かがまずに履ける靴
ハンズフリー・スリップインズの特徴は、靴べらを使わなくても 「かがまずに履けること」 です。
ハンズフリー・スリップインズはかかとの外側を硬く設計することで潰れにくくし、内側のクッション性を高めることにより脱げにくさを両立させました。手を使わずに足をスムーズに滑り込ませることができます。
特に足腰に不安を抱える高齢者層にとって、靴をかがまないで履けるというのはうれしい価値です。
靴を履く際に腰を曲げる動作が不要になるため、腰痛がある方にとっては身体的な負担が軽減されます。また、手を使わずに履けるため、例えば両手に荷物を持っているときや玄関先で急いでいるときなど、日常のちょっとしたストレスを解消する靴です。
ハンズフリー・スリップインズは、スニーカー型だけでなく、ビジネスシューズ型など300種類以上のバリエーションが展開されており、幅広いライフスタイルに対応しています。
「履きやすさ」 という新たな競争軸
ハンズフリー・スリップインズは、マーケティングの観点では 「競争軸」 を変えた事例として示唆的です。
競争軸とは顧客視点では選択基準とも言えますが、これまでの靴の選択基準といえば、サイズ、デザイン、履き心地、軽さ、耐久性、価格などが一般的でした。
一方のハンズフリー・スリップインズは 「履きやすさ」 という新たな競争軸を打ち出したわけです。履きやすさとは、靴を履くという一見シンプルな動作に対して、いかに手間を減らし快適に行えるかです。
競争軸が変わることの意味
履きやすさという競争軸が加わることによって、消費者が靴を選ぶ際の判断基準や優先項目が変わります。スケッチャーズは履きやすさという日常の動作に焦点を当てることで、新たな価値観を提示しました。
マーケティングの観点では、競争軸が変わるということは、お客さんから見た 「選ばれる理由」 が変わることを意味します。
これまで靴を選ぶ基準には、履いた後の履き心地やデザイン、軽さ、丈夫さ、値段などがありましたが、ハンズフリー・スリップインズは、ここに 「履きやすさ」 を新たに加わえました。消費者にとっての意味合いは 「使いやすい靴とはどういう靴か」 という定義において、履きやすい靴がほしいという気持ちが芽生えることを示しています。
スケッチャーズのハンズフリー・スリップインズは、履きやすさという新たな価値を打ち出すことによって、他の靴との差異化を図ろうとしています。
特に訴求したい層は、高齢者層や腰痛に悩む人々です。足腰の痛みでかがむことが難しい方や、日常的に立ったり座ったりする動作に負担を感じる方にとって、靴の履きやすさは魅力です。また、介護の現場などでも、履いてもらう手間が省けるため便利な存在になることでしょう。
学びの汎用化
では、ハンズフリー・スリップインズの事例からの学びを汎用化してみましょう。
お客さんの既存の選択基準を理解する
新たな競争軸を見つけるための第一歩は、お客さんの既存の選び方や判断基準を深く理解することです。お客さんが自社の商品や他社の商品をどのような理由で選んでいるのか、その選択基準を把握することが出発点です。
例えば、靴の場合、サイズ、デザイン、履き心地、価格などがこれまでの一般的な選択基準でした。このような基準を理解することで、現状の商品カテゴリーにおいてお客さんがどのように商品を評価し選んでいるのかを把握することができます。
別の例として洗剤の場合で考えてみましょう。
洗剤を選ぶ基準は洗浄力や香り、価格でしたが、P&G の 「ジェルボール」 の登場で 「毎回洗剤を測らず済むこと」 が洗濯洗剤の選ぶ基準に加わりました。1粒をポンと入れるだけで計量が不要という簡便さが新しい価値として打ち出され、消費者にとっての 「良い洗剤の定義」 が変わったのです。
既存の選択基準に新たな価値を加える
お客さんの既存の選択基準を理解したら、お客さんの潜在的なニーズを見つけることが重要です。潜在的なニーズとは、まだ表に出て顕在化していなく、お客さんが無意識に感じている不満や課題のことです。
次に考えるべきは、今の選択基準とは異なる新しい価値を打ち出すことです。お客さんにとっての 「選ばれる理由」 を増やすためには、これまで考えられていなかった視点からの新しい価値提案が必要になります。
例えば靴の履きやすさは、靴を選ぶ際にあまり意識されてこなかった観点でした。スケッチャーズはここに着目し、かがまずに楽に履けるという利便性を新たな競争軸として提案しました。
同様に、携帯電話では、かつての選択基準は 「通話品質」 や 「サイズ」 でしたが、Apple の iPhone は 「使いやすいインターフェース」 という新たな価値を加えることで、従来とは異なる競争軸を打ち出しました。
このように、既存の商品に新しい価値を加えることで、消費者にとっての選択基準を広げることができます。
新しい競争軸を訴求しての差異化
新たな競争軸を見つけたら、お客さんにいかに伝えるかが問われます。
スケッチャーズの例では、履きやすさという競争軸を持つハンズフリー・スリップインズは、テレビ CM などを通じて利便性を強くアピールしました。新たに見つけた価値を効果的に伝えることによって、市場における差異化につながり、消費者にとっての 「選ばれる理由」 を強化することができます。
他の事例では、ダイソンの掃除機も 「吸引力が変わらずいつまでも強い掃除機」 という特徴や、「コードレスなので、コンセントまわりでしか使えないという場所の制約がなく、どこでも使える」 という利便性を訴求、他社商品との差別化を図りました。
競争軸を再定義し続けることの重要性
市場環境は常に変化しています。そのため、一度見つけた競争軸に安住せず、常にお客さんのニーズや市場の変化に応じて競争軸を再定義していくことが大事です。
スケッチャーズのハンズフリー・スリップインズは、履きやすさという新たな競争軸を打ち出しましたが、次の段階ではさらに別の視点からの改良が求められるかもしれません。常にお客さんの声に耳を傾け、新しい価値を創造し続けることで、競争優位性を保てます。
まとめ
今回は、靴の履きやすさを重視したスケッチャーズの 「ハンズフリー・スリップインズ」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後に、事例から学べることのポイントです。
- お客さんが商品を選ぶ際の選択基準 (選ぶ理由) を理解する
- 選択基準に新たな価値を加えることで、新しい競争軸をつくり出せる (お客さんからの 「選ばれる理由」 をアップデートする)
- 市場環境は変化しているため、見つけた競争軸に固執せず、絶えず再定義し続ける
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