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入力ミスも相手に送る 「Jiffcy」 。バイアスブレイクから生まれたメッセージアプリ

#マーケティング #バイアスブレイク #価値創出

私たちは、無意識のうちに 「当たり前」 を受け入れています。しかし、時としてその当たり前が、新しい価値を生み出すことを妨げているかもしれません。

今回は、ユニークなメッセージアプリの事例から、常識を覆すような新しいアイデアをつくる方法を探ります。

バイアスを破り、新たな価値を創造するための秘訣、ぜひ一緒に紐解いていきましょう。

新時代のコミュニケーションアプリ 「Jiffcy」 


出典: PR TIMES

スタートアップ企業 「穴熊」 が開発したメッセージアプリの 「Jiffcy (ジフシー) 」 。Jiffcy は、LINE などの従来のメッセージアプリにはない、リアルタイムで入力中のメッセージを共有する新しいコミュニケーションを提供します。

リアルタイムで共有する新しいコミュニケーション

Jiffcy の特徴は、入力中の文字がリアルタイムで相手の画面に表示されるという独自の機能にあります。メッセージを送信する前の段階から相手と情報を共有できるため、これまでの 「完成した文章を送る」 というものではありません。

さらに、Jiffcy ではチャットを開始する際、電話のように相手を呼び出して応答してもらう必要があります。相手が確実に Jiffcy アプリを開いている状況でリアルタイムでのやり取りができます。

コミュニケーションが途切れることなく進行し、相手がすぐに返信するかわからない従来のメッセージアプリとは異なる、より対話感のあるユーザー体験をもたらします。

入力中のプロセスを共有するリアルタイム体験

例えば、友人と待ち合わせ場所を決める際、Jiffcy なら 「どこにする?」 と入力する前の 「ど」 の段階から相手の画面に表示されます。

入力中の文字がリアルタイムで相手に表示されるので、メッセージ相手はその瞬間から返信内容を考え始めることができ、テンポよく会話を進められるわけです。

音声通話を嫌う人にとっては、Jiffcy はスピーディなやり取りができます。

従来の 「非同期でメッセージをやり取りする」 という方法に満足できなかった若者層を中心に Jiffcy は支持を集めています。学生の利用者が多く、朝夕の通学時や夜のリラックスタイムに積極的に使われている点も特徴的です。

既存の 「当たり前」 を覆すことで生まれた新しいユーザー体験


Jiffcy で注目したいのは、テキストメッセージの新しい可能性を開き、これまでのコミュニケーションツールの 「当たり前」 を再定義していることです。

この事例から汎用的に学べるのは、マーケティングやプロダクト開発において、新しい価値を創出するためには、既存の当たり前を見直し、その反対の発想を探ることの重要性です。

Jiffcy の例で言えば、Jiffcy は LINE をはじめとする従来のメッセージアプリの 「当たり前」 を覆し、新しいユーザー体験を生み出しました。メッセージアプリで 「非同期でのやり取りが当たり前」 とされていることや、「メッセージは完成した形で送る」 という前提など、私たちが無意識に受け入れている常識を見直したことから示唆が得られます。

従来の非同期コミュニケーションを覆すリアルタイム性

今までのメッセージアプリは「メッセージのやり取りは非同期でもできる」 という前提になった設計で作れられています。ユーザーは相手のメッセージをいつでも確認し、都合の良いときに返信できる自由があります。メッセージのやり取りが煩わしさを伴わず、便利なコミュニケーション手段として広く受け入れられてきました。

一方の Jiffcy は非同期の当たり前を逆手に取り、電話のように相手を呼び出し、応答があって初めて会話が始まるという仕組みです。

やり取りはリアルタイムでの接続を前提とし、テンポ感のある疑似通話体験を可能にしました。既読スルーや返信待ちといった、非同期のコミュニケーションに付き物のストレスがなくなる点も新しい価値です。

 「完成した文章を送る」 常識を変える入力中の表示

これまでのメッセージアプリは 「メッセージは完成した文章を送る」 という方法でのコミュニケーションでした。送信する前に文章を推敲し、ミスを修正することによって、誤解を生まないよう、より正確で意図が伝わりやすいコミュニケーションを可能にしてきました。

Jiffcy はこれに対しても異なるスタンスをとり、入力中の文字がそのままリアルタイムで相手の画面に表示される仕組みを採用しました。

Jiffcy では入力の過程そのものがコミュニケーションの一部となり、相手はメッセージの意図や会話の方向性を瞬時に把握できるようになります。推敲や修正の様子も見えることで、やり取り全体にリアルタイム性と臨場感が生まれるのです。

既存の 「当たり前」 を覆し新しい価値を創る方法


Jiffcy の事例は、製品やサービスが持つ当たり前を可視化し、当たり前を意図的に逆転させることにより、新しいユーザー体験を創り出せることを示しています。

既存の製品やサービスに存在する当たり前とされている特徴を可視化し、それに対して反対の発想や視点を用いることによって、新たな価値を創造することができるのです。

具体的には次のような方法です。

  1. 既存の特徴を可視化する: どのような前提が当然とされているのかを明確にする。Jiffcy の例ではメッセージアプリの 「非同期」 「完成した文章の送信」 という特徴を抽出した

  2. 反対のアプローチを探る: 見出した前提を反対のアプローチで捉え直す。非同期で行うという当たり前を逆転させてリアルタイム接続に、また、完成したメッセージを送るのではなく、入力中の文章を相手にそのまま見せる設計に変えた

  3. バイアスを壊す (バイアスブレイク) : 人々が当たり前と考えることには無意識のバイアスが含まれている。強制的に反対の視点になることにより既存の常識やバイアスを壊し (バイアスブレイク) 、新たなアイデアや着想を実現する


このアプローチを取ることで、埋もれていたニーズを掘り起こし、従来の競争軸とは異なる次元で競争優位を確立することができます。

Jiffcy は 「バイアスブレイク」 による当たり前を疑うことで生まれた新しいコミュニケーションの形です。この事例は、マーケティングやプロダクト開発における 「逆転の発想」 の可能性をあらためて教えてくれます。

まとめ


今回は、新しいメッセージアプリ 「Jiffcy」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ 「当たり前」 を覆し新しい価値を創る方法
  1. 既存の特徴を可視化する: どのような前提が当然とされているのかを明確にする
  2. 反対のアプローチを探る: 見出した前提を逆転の発想で反対側から捉え直す
  3. バイアスを壊す (バイアスブレイク) : 強制的に反対の視点になることで、既存の常識やバイアスを壊し、新たなアイデアや着想を実現する


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。