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日清製粉ウェルナの 「お好み焼粉」 大作戦。トレードマーケティングのお手本例

#マーケティング #トレードマーケティング #店頭実現

今回のテーマは 「トレードマーケティング」 です。

トレードマーケティングでは、小売企業のバイヤーとショッパー (来店客) のニーズを理解し、売場全体の価値を高めることを目指します。売上を増加させ、メーカーと小売の間での長期的な信頼関係を築きます。

今回は、日清製粉ウェルナの事例から、トレードマーケティングの本質と効果的な実践方法を紐解きます。

日清製粉ウェルナの 「お好み焼粉」 営業



取り上げたいのは、日清製粉ウェルナが関東での 「お好み焼粉」 の販売を促進した事例です (参考記事) 。

商品のお店での配置見直しやショッパー (Shopper: お店への来店客) の購買行動にもとづいた施策を展開することによって、売上を大幅に伸ばしたという話です。

お菓子コーナーから調理用粉末コーナーへ

日清製粉ウェルナが着目したのは、関西とは違い 「関東ではお好み焼き粉が一般的に菓子関連の材料コーナーに配置されていたこと」 でした。これが関東でお好み焼き文化が定着しづらい原因のひとつであると考えたわけです。

そこで日清製粉ウェルナは、お好み焼き粉を天ぷら粉やから揚げ粉と同じカテゴリーに属する 「プレミックス」 として扱ってもらうことを小売に提案し、菓子材料コーナーから調理用の粉物コーナーへと配置を移すことを提案しました。

買い上げ点数を増やす提案

さらに、関西の人々にはお好み焼きがお昼ごはんや晩ごはんの一品として認識されている点を説明し、関東でも同じように料理メニューとしてお好み焼き粉を展開することで、買い上げ点数を増やす提案も行いました。

そのためには自社商品のお好み焼粉だけではなく、競合メーカーや関連商品を巻き込み、そしてキャベツやソースといった生鮮品も含めた買い物客の視点で理想的な棚割りを提示し、商品の組み合わせを考慮した陳列を実現しました。ショッパーがその売場だけで必要な材料を揃えやすくなり、購買意欲を高めコーナー全体の成長を図ったのです。

こうした日清製粉ウェルナの提案により、お好み焼粉の売上を伸ばす店舗が増えていき、バイヤーたちの信用を勝ち得ました。

多くの小売店舗が、お好み焼き粉を粉物コーナーの定番品として並べるようになりました。

トレードマーケティングのお手本例


日清製粉ウェルナの事例は、トレードマーケティングを実践するために学べる点が多くあります。

トレードマーケティングとは

トレードマーケティングとは、小売とショッパー (来店客) のニーズを理解し、それにもとづいた商品配荷、棚割り、価格設定、店頭販促などの施策により、商品とショッパーをつなげる取り組みのことです。

トレードマーケティングを進め、商品がショッパーにとって買いやすい環境を作り、売上拡大を目指します。

では、トレードマーケティングをキーワードに日清製粉ウェルナの事例を掘り下げていきましょう。

ショッパー視点を意識した売場

日清製粉ウェルナは、関東のスーパーマーケットなどのお店に来店するショッパーにとってお好み焼き粉が見つけづらい位置に置かれていることに問題意識を持ち、これを改善することで売上を増やしました。

商品をお店のどこのコーナーに置き、商品棚のどのあたりに置けば買われやすいかを見極め、商品がショッパーの視界に入りやすいよう工夫することは、「買いやすさ (フィジカルアベイラビリティ) 」 を最大化するために欠かせない要素です。

日清製粉ウェルナのアプローチは、ショッパーにとって自然で手に取りやすい棚割りを実現したものであり、商品とショッパーを直接結びつけるトレードマーケティングを体現しています。

フィジカルアベイラビリティ最大化をの店頭実現

フィジカルアベイラビリティ、すなわち 「お客さんにとっての物理的な買いやすさ」 を高めるには、店舗での視認性や陳列場所の重要性が大きいです。

日清製粉ウェルナは、関東でも実は家庭ではお好み焼きを作りやすい環境が既に整っている点に注目しました。その上でショッパーにとって手に取りやすいお店での陳列場所を提案しました。

具体的には、ホットプレートの普及率が8割程度あることを根拠に、家庭でのお好み焼きをお菓子としてではなく料理メニューとして食べる習慣が普及することが見込まれるとバイヤーに示しました。フィジカルアベイラビリティを最大化させ、商品がショッパーから手に取りやすくすることで、お客さんから選ばれやすい環境を整えたわけです。

ショッパー理解にもとづく売場実現

日清製粉ウェルナはショッパーへの認識 (無意識的にもそう思っているショッパーの心理) をもとに、関東でもご飯向けのメニューとして受け入れられるようなお店での売り方を小売に提案しました。

ショッパーが 「どんな状況で」 「どのようなニーズから」 「いつのタイミングで」 商品を選ぶかを理解し、文化的背景やショッパーの消費者心理に応じた戦略からです。トレードマーケティングではショッパー心理にもとづき、ショッパーがどのような意図で買い物をしているかを明らかにすることが大事です。

バイヤーとショッパーの双方のニーズを満たす提案

日清製粉ウェルナの小売への棚割提案は、自社商品の販売を拡大するだけではなく、競合商品も含めたカテゴリー全体の売上を底上げし、棚全体の価値を高めることを目指しています。

そもそもバイヤーは、メーカーごとの個別の商品よりもカテゴリー単位で考えるのが一般的です。だからこそ、自社商品だけではなく、カテゴリーの関連商材や競合商品も含めたカテゴリー全体の成長を目指す提案によって、バイヤーが 「売りたい」 と思えるような施策をつくることはトレードマーケティングの要になります。

メーカーは自社の利益のみを追求するのではなく、カテゴリー全体の成長や売場全体のパフォーマンスを向上させる視点が大事です。バイヤーからの信用を得るには、いかにそのバイヤーが担当しているカテゴリー全体の売上増加、関連商材との相乗効果を生み出せるかです。

日清製粉ウェルナが他のメーカー商品まで巻き込み、小売とショッパーの関係を築いたことは、バイヤーとショッパーのニーズを同時に満たす提案力の高さを示しています。

データと実例によるバイヤーへの説得

日清製粉ウェルナは実績データを用いて、例えば特定コーナーの売上が 120% 以上伸びたという具体例を示し、バイヤーへの営業で説得力を持たせました。

トレードマーケティングでは、購買データなどにもとづいてショッパーの購買パターンを分析し、バイヤーに 「この施策なら売れる (担当カテゴリーを扱う商品棚の売上が増加する) 」 と期待を持ってもらえる実績やデータに裏打ちされた提案が重要です。


信頼構築による長期的な関係づくり

トレードマーケティングを成功させるために土台になるのは、小売とメーカーとの信頼構築です。解像度を上げれば、小売のバイヤーとメーカーの営業担当者との人と人との信頼です。

メーカー営業担当者は自社商品だけが売れればいいという考えではなく、バイヤーにとってもメリットのある提案を繰り返し行うことによって、信用と信頼を獲得していくのです。

相手との信頼関係が構築されていることで、バイヤーのほうからメーカーの営業担当者に自発的に相談を持ちかけ、新たな商談の機会につながるという好循環が生まれることもあるでしょう。

トレードマーケティングの実践においては重要なポイントは、バイヤーと良好な関係を築き、小売とメーカーの双方にメリットがあり、そして何よりもショッパーへ恩恵をもらたす提案によって長期的な取引関係を育むことです。

日清製粉ウェルナの事例はトレードマーケティングの実践例であり、来店客の消費者心理や購買心理を捉え、バイヤーと信頼関係を築きながら、売上拡大を目指すヒントを与えてくれます。

まとめ


今回は、日清製粉ウェルナの小売への営業事例を取り上げ、トレードマーケティングの観点で学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • トレードマーケティングとは、小売業者とショッパーのニーズを理解し、商品配荷や棚割り、価格設定、店頭販促などの施策により商品とショッパーをつなげる取り組み。売場全体の価値を高めることを目指す

  • 売上を増加するためには、ショッパーの視点に立ち、商品を見つけやすく 「買いやすさ (フィジカルアベイラビリティ) 」 を最大化させる。ショッパーの行動と心理にもとづいて店頭での棚割りや売り方を小売に提案する

  • 魅力的な提案のために、顧客文脈や無意識的な購買心理 (ショッパーインサイト) 、小売のバイヤーのことも深く理解する。バイヤーが 「売りたい」 と思えるようなカテゴリー全体の成長を目指す施策と、ショッパーの 「買いたい」 という気持ちを同時に満たす提案をする

  • メーカーは自社の利益だけでなく、カテゴリー全体の成長を目指す視点が重要。バイヤーとショッパーの Win-Win を実現することでバイヤーや小売店との信頼関係を構築する

  • マーケティング活動で大事なのは、人と人との信頼関係。データや洞察からの提案、誠実な向き合いが長期的な成功と良好な関係性を生み出す


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。