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日常の 「重要な瞬間 (モーメント) 」 を捉える!P&G に学ぶビジネスチャンスの見つけ方

#マーケティング #顧客理解 #モーメント

日々の生活での、たとえば、平日の朝の忙しいとき、仕事帰り、買い物で思わぬ良い商品を見つけたとき――。

こうした瞬間を 「モーメント」 と呼びますが、生活者の日常の 「ちょっとした瞬間」 は、実は消費者とつながるチャンスになります。

今回は、P&G のヘアケア商品 「オールドスパイス」 の広告事例をもとに、モーメントを活用してブランド価値を高める方法を掘り下げます。

ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

モーメント


マーケティングでは、日々の生活に潜む生活者の 「瞬間」 に着目することが重要です。

日常の瞬間を捉える

たとえば、朝の忙しい時間に髪が決まらない瞬間や、仕事終わりにリフレッシュしたいと感じる瞬間など、誰もが経験する日常のワンシーンがブランドにとってのチャンスとなり得ます。

こうした瞬間のことを、マーケティングでは 「モーメント」 と呼びます。

状況や状態までを理解する

モーメントは 「瞬間」 を意味するので、瞬間と聞くと、モーメントのことを 「点」 というイメージするかもしれません。

しかし、マーケティングにおいてモーメントは単なる点ではなく、その時のお客さんの背景として置かれた 「状況」 や 「状態」 までを含む、顧客文脈として立体的に理解することが大事です。

今回取り上げたい、P&G のヘアケア商品 「オールドスパイス」 の動画広告は、消費者のモーメントを的確に捉え、活用することによりブランドの成長につなげた事例です。


この動画は 「最悪な寝ぐせがついた朝」 という消費者の日常でのモーメントから始まります。

この瞬間そのものはよくある日常のワンシーンのように見えますが、解像度を上げると、次のような文脈が見えてきます。

  • 状況: 朝の準備で忙しい中、髪型が決まらない
  • 状態: 髪型が思い通りにならず朝からストレスを感じる。自分への自信を失いかけている
  • ニーズ: この状況を簡単に解決し、1日の始まりを晴れやかな気持ちになって出かけたい


このように、モーメントを活用するには、消費者やお客さんの 「状況」 と 「状態」 を前提として理解し、その瞬間で発生している 「ニーズ」 を把握することが大切です。

モーメントを捉えるための3つのステップ


P&G は、ブランドの成長を促すために、モーメントを活用する次のような3つのステップを提唱しています。

  1. 重要な瞬間 (モーメント) を見つける
  2. ブランドの価値を定義する
  3. その瞬間に応えるブランド価値を訴求する


では、順番に見ていきましょう。

重要な瞬間 (モーメント) を見つける

オールドスパイスの動画では 「寝ぐせ」 という日常的でありながら多くの人が共感できる瞬間を選びました。

この 「重要な瞬間」 の解釈には、髪が乱れているという事象でとどめず、「その髪型の状態で外に出られない」 「大切なデートに向けて準備が間に合わないかもしれずやばい」 といった心理的な文脈も含んでいます。

マーケティングの第一歩は、どこに消費者にとって、お客さんにとっての 「意味のある瞬間」 が存在するのかを見極め、その瞬間での顧客文脈 (状況や状態) を理解することにあります。

ブランドの価値を定義する

次にやることは、お客さんのモーメントにおけるブランドの提供価値と役割を定義することです。

P&G のオールドスパイスの場合、「最悪な寝ぐせを救うヒーロー」 という役割をブランドに持たせました。商品が提供する髪型を整えるという機能だけにとどまらず、ブランドが心理的な安心感や自信を取り戻すサポートを果たすことを目指したわけです。

ブランドからの価値定義において、お客さんの文脈を理解した洞察を入れることが大事です。

髪型が乱れている朝の状況では、「ゆっくり整えている時間がない」 や 「手軽に解決したい」 という心理が隠れていることでしょう。売り手はこうした消費者・顧客の文脈を理解し、その瞬間に最も求められる便益や顧客価値を打ち出せるかが、お客さんから選ばれることに直結します。

その瞬間に応えるブランド価値を訴求する

3つ目のステップは、ブランドがその瞬間を特別なものに変える訴求アイデアを形にします。

P&G のオールドスパイスの動画広告では、ブランドを擬人化したヒーローのような消防士が登場し、寝ぐせのついた男性を救うというストーリーを展開しました。ユーモアを交えながら、消費者のニーズに応える商品価値を自然に伝えています。

注目したいのは、動画では製品の機能説明だけに終始せず、消費者の 「置かれた状況」 (忙しい朝, 寝ぐせが気になっている状況) と、「その時の状態」 (自信を失いかけている心理的な不安) をより良く変えるというストーリーを描いている点です。

動画では男性の髪型が整った結果、男性は自分への自信を取り戻し、デートが成功するという未来を描写し、広告の視聴者にもポジティブな感情を持ってもらうことを狙っています。

顧客の状況を起点にするマーケティング


以上の3つのステップである、

  1. モーメント (重要な瞬間) の発見
  2. ブランド価値の定義
  3. 価値訴求

を効果的に実行するためには、消費者文脈や顧客文脈を深く理解することが欠かせません。

顧客文脈を理解する重要性

顧客文脈とは、モーメントが発生している状況と、その瞬間にお客さんがどのような状態でいるのかという背景です。

今回の P&G の例で言えば、「朝置きて寝ぐせを直す」 という機能的な便益を打ち出すとともに、その瞬間にお客さんが持つ 「不安を解消し、自信を取り戻したい」 という感情を理解していることが重要なのです。

顧客文脈を理解することは、商品やサービスが本当に必要とされる形でお客さんに寄り添うための土台になります。

モーメントに合致する価値訴求

モーメントを活用したマーケティングとは、たとえるなら 「顧客文脈という鍵穴を発見し、それにぴったり合う鍵 (顧客価値) を提供する」 というプロセスです。

鍵穴にぴったり合う鍵とは、消費者の状況において生じているニーズや望みを満たす商品やサービスのことです。そして、鍵を開けるという行為は、お客さんが実際に価値を得たことを意味します。

P&G のオールドスパイスの動画では 「寝ぐせを直す」 という商品の解決策を通じて、鍵穴 (お客さんの不安やストレスが発生している顧客文脈) にフィットする鍵 (お客さんに価値のある自社商品) を提供しました。その結果として、商品が日常のお客さんの困りごとを解決し、価値をもたらすことができるのです。

P&G のオールドスパイス事例は、日常のモーメントに着目し、その瞬間にお客さんの文脈を理解して商品価値を提案することの重要性を示しています。

モーメントを点としてではなく立体的に捉え、その背景や文脈を深掘りすることで、ブランドとお客さんが真に共感し合える瞬間をつくり出すことができるでしょう。

まとめ


今回は、マーケティングの概念のひとつである 「モーメント」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • モーメントは消費者や顧客の具体的な状況、心理的状態、潜在的ニーズを包括的に捉える概念。「点」 ではなく 「状況」 や 「状態」 までを含む顧客文脈がモーメント。日常生活の中で消費者・顧客が直面する 「意味のある瞬間」 を理解する

  • モーメントを活用したマーケティングの3つのステップは、① 重要な瞬間の発見 (例: 朝の寝ぐせを直す時間がとれないという共感できる日常場面) 、② ブランドの価値定義 (髪型を整える機能と自信を高める支援) 、③ 消費者・顧客の状況・感情・ニーズに応える価値の訴求 (ユーモアを交えた寝癖を救うヒーローによる物語) 

  • モーメントにもとづくマーケティングは、顧客文脈という 「鍵穴」 に対し、適切な商品価値という 「ぴったり合う鍵」 を提供することを目指す


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。