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サイクルベースあさひの 「COOSA」 。顧客のジョブを完了させる一番のワーカーになる戦略

#マーケティング #ジョブ理論

顧客ニーズを捉えることの重要性はよく見聞きすると思いますが、では具体的にどうすればいいのでしょうか?

ヒントは 「ジョブ理論」 にあります。お客さんが商品やサービスに求めているのは 「ジョブ」 であって、モノそのものではないのです。ジョブという視点を持つだけで、顧客理解への見方が大きく変わります。

今回は、サイクルベースあさひの自転車ブランド 「COOSA (コーサ) 」 の事例から、ジョブ理論の活用方法を紐解きます。

ジョブ理論


マーケティングにおけるジョブの定義は 「ある特定の状況において人が成し遂げたい進歩 (progress) 」 です。達成したい目的や解決したい問題、対処したい課題を指す概念です。

ジョブとワーカー

ジョブ理論では商品やサービスのことを、ジョブを完了させるために雇われる 「働き手 (ワーカー) 」 と捉えます。

お客さんは自身が抱えるジョブを終わらせるために、最適だと感じた商品・サービスをワーカーとしてを雇用し、ワーカーが仕事を遂行し、その結果として状況の進歩が実現するするわけです。

ジョブの3つの側面

ジョブには主に機能的、感情的、社会的な側面があります。

機能的なジョブとは 「何かを移動させる」 「問題を解決する」 といった実利的な目的、感情的側面は 「心地よさ」 や 「満足感」 を求めること、社会的側面は 「他人からの評価や承認欲求」 を満たすことに関連します。

これらが複合的に絡み合い、人の進歩したいジョブをつくり出します。

見出したジョブからの価値創出へ

お客さんのジョブをとらえることは重要ですが、片づけるべきジョブを明らかにすることは、最初の一歩にすぎません。

というのは、お客さんが商品を買って期待するのは進歩 (progress) であって、商品そのものではないからです。この認識が大事です。

お客さんが心から雇いたいと思い、しかも繰り返し雇用したくなる働き手である 「ワーカー」 となるために、つまりジョブの解決策を生むには、お客さんの片づけるべき 「ジョブの文脈」 まで深く理解し、また、遂行を妨げる障害も把握しなければなりません。

競合商品を "解雇" してもらう

お客さんがある商品を雇う (買う) ということは、同時に別の代替手段を解雇するということです。

たとえば、移動手段として車を雇う人は、電車やタクシーあるいは自転車を解雇するでしょう。車を雇用したその裏で、選ばなかった選択肢は解雇しているわけです。

ジョブ理論を活用する際は、お客さんに自社の商品を雇ってもらえるためには、既存のどんな手段が解雇されるであろうかを見出し、競合商品との比較でどう優位性を提供できるかを考えることが大事です。

ジョブを活用するマーケティングを

お客さんの状況とジョブの変化を常に捉え、それに合わせて商品やサービスの機能を適応していくことが、ビジネスでの成功につながります。

ジョブ理論という視点を持つことで、「うちのお客さんはこうだから」 「自社商品の強みはこれ」 という固定観念にとらわれることを防げます。商品・サービスを特定のジョブに固定して考えるのではなく、お客さんの変化する状況と、その状況下で生じているジョブに応じて柔軟にジョブスペックを変化させていくことが大事になるのです

さらに、現時点でのお客さんの色々なニーズに応えられるだけでなく、変化する市場環境にも柔軟に対応できます。より多くのお客さんに選ばれる存在となり、長期的な成功を収めることにつながるでしょう。

ジョブ理論を活用するメリットは、ターゲットとするお客さんの具体的な状況とジョブを理解することで、より的確な顧客価値を提供できる点にあります。

サイクルベースあさひの 「COOSA」 



では後半のパートでは、ジョブ理論を 「サイクルベースあさひ」 が開発した新ブランド 「COOSA (コーサ) 」 に当てはめて、具体的に見ていきましょう。

自転車 COOSA の特徴



COOSA は、全国に530以上の店舗を展開する 「サイクルベースあさひ」 が、20代の若手スタッフたちの意見をもとに1年間かけて開発した自転車ブランドです。特徴は、自転車を 「自分らしさを演出するための脇役」 として位置づけている点にあります。

COOSA は、あえてフレームに表示させるブランドロゴを小さくし、アースカラーをメインにして主張しすぎない見た目としています。自分を表現したいという若者の心理にフィットすることを狙いました。

若者が捉えるジョブ

COOSA の開発の背景をジョブの視点で見ましょう。

Z 世代と言われる若者が自転車に期待すること、今回の文脈で言えばジョブが変化してきたことが背景にあります。

自転車は移動手段としてだけにとどまらず、SNS に投稿する写真の対象、友だちと時間を共有するライフスタイルの一部としての存在でもあります。ジョブ理論で言えば、移動をするという機能的なジョブだけではなく、感情的・社会的な進歩を求めているわけです。

  • 機能的ジョブ: 気軽に早く自由に移動したい
  • 感情的ジョブ: お気に入りの服やアクセサリーと同じように、自分らしいおしゃれな自転車を保有し、乗りたい
  • 社会的ジョブ: SNS 上で 「いいね!」 がほしい (まわりからの承認欲求) 、友人と一緒に走りに行くなどの楽しい日常を満喫したい


ジョブを生み出している状況

こうした若者のジョブを生み出す前提としての 「置かれた状況」 も掘り下げてみましょう。状況を捉えることで、なぜそのジョブが生じているかの因果関係が見えてきます。

若者たちは、SNS が日常生活の中に普通にあり、オンラインでの自己表現が自分らしさをつくる大事な要素となっています。

例えば、投稿する写真や動画により、自分の好きなことや価値観をまわりに共有し、つながりを生む場となっているというふうにです。自ずと、自分が選ぶモノや使うアイテムには、他者とのコミュニケーションを補完する役割が求めらます。

また、都市部に住んでいれば、公共交通機関が便利な一方で、柔軟な移動手段を求める心理もあることでしょう。週末や放課後の 「ちょっと遠くへ行ってみたい」 という気持ちや、「近場でも特別感のある体験をしたい」 という欲求です。

他には、環境意識の高まりやミニマリズムのトレンドも価値観の形成や選択に影響を与えています。大量消費に反発する気持ちや、自分の価値観に合う必要十分な商品を求める中、目立ちすぎず自然体で使えるモノやデザインが支持されます。

これらの状況が絡み合い、「自分らしさを表現しながら、手頃でおしゃれな移動手段にしたい」 というジョブが生じているのです。

COOSA が満たすジョブスペック

COOSA は、若者が抱えるジョブとして 「日常をちょっとだけ楽しみたい」 や 「自分らしさを演出したい」 をサポートすることを目指しています。ただ目的地に行くのではなく、自転車に乗る時間や保有していることが 「ちょっとしたワクワク」 になるようなワーカーとしての役割を持たせているわけです。

ジョブ理論の観点から COOSA の特徴を 「ジョブスペック」 で整理してみると、次のようなポイントが挙げられます。

  • 機能面: 十分な耐久性と走行性能。通学や通勤にも使える軽快さがある

  • 感情面: 自分らしいと思える、所有欲を満たすデザイン性。ロゴを小さくしつつも 「COOSA」 のブランドストーリーを持つことで、知る人ぞ知るイメージを持ってもらえる

  • 社会面: SNS や友人との交流で 「かっこいい・かわいい」 と言われる喜びを与えられる

状況とジョブに寄り添うワーカーに

ここまで見てきたように、ジョブ理論を当てはめると COOSA という自転車ブランドは、若者が持つ 「自分らしさを表現しながら、日常にちょっとした楽しさをプラスしたい」 というジョブを遂げるために、最適な雇用されるワーカーとなることを目指しています。

このジョブを完了させるワーカーは自転車以外にも様々な候補がありますが、サイクルベースあさひは注力顧客の価値観や置かれた状況に寄り添いました。

自転車を 「名脇役」 となるようとワーカーに仕立てる開発とマーケティングの方針によって、お客さんが抱える 「その状況で遂げたい進歩」 というジョブをしっかりと支えているのです。

まとめ


今回は、サイクルベースあさひの COOSA を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • マーケティングでのジョブとは、「ある特定の状況において人が成し遂げたい進歩 (progress) 」 

  • 商品やサービスのことは、ジョブを完了させるために雇われる 「働き手 (ワーカー) 」 と捉える。お客さんは、ジョブを終わらせるために最適だと感じた商品・サービスをワーカーとして雇用し、ワーカーが状況を進歩させる

  • お客さんのジョブを明らかにするのは第一歩であり、実現すべきはお客さん 「進歩 (プログレス) 」 。ジョブのために雇われる条件であるジョブスペックを打ち出し、お客さんのジョブのための最適なワーカーになることを狙う

  • 常識や固定観念にとらわれず、変化するお客さんの状況、その状況下で生じているジョブに柔軟に対応することが重要。お客さんの状況とジョブの変化を捉え、商品やサービスを適応させることが長期的な成功につながる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。