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マイクポップコーンの 「食物繊維」 押し。価値の再定義からのパーセプションチェンジ

#マーケティング #パーセプションチェンジ #価値の再定義

マーケティングにおいて 「パーセプションチェンジ」 は重要なキーワードのひとつです。

パーセプションという、お客さんが持つ商品やカテゴリーに対するイメージや価値認識を変えられれば、お客さんの購買行動も変わります。

今回は、ジャパンフリトレーが展開する 「マイクポップコーン」 を取り上げ、実際にどのようにパーセプションチェンジを狙った施策を行い、どんな成果を得たのかを見ていきます。

そして、得られる学びとして、パーセプションチェンジを実現するためのマーケティングのポイントを解説します。

マイクポップコーン



背景と課題

ジャパンフリトレーの 「マイクポップコーン」 は、長年の課題を抱えていました。売上が横ばいで停滞しているという状況で、これを打破したいというブランド課題です。

ポップコーンそのものに対する消費者からの認識について、消費者調査では 「軽くて空気みたいで食べた気がしない」 や 「映画館やテーマパークで食べる非日常的なおやつ」 といった声が目立ちました。

マイクポップコーンは日常的に手に取ってもらう理由がなかなか見いだせず、売上拡大の障壁になっていわけです。

日常のおやつとしての再定義し、ポップコーンの 「食物繊維」 を訴求

ジャパンフリトレーは、ポップコーンを映画館やお祭りで食べる特別なおやつという立ち位置にとどめるのではなく、もっと気軽に楽しめる日常のおやつとして定着させることを目指しました。

日頃から多くのスナック菓子が店頭に並ぶ中で、あえてポップコーンを選んでもらうためには 「新たな価値づけ」 が必須と考えたわけです。

そこでジャパンフリトレーは方向転換を図ります。

注目したのは、健康志向の高まりという消費者トレンドでした。スナック菓子に対して 「健康に良くない」 というイメージを持つ消費者に対して、ポップコーンならではの特徴を活かした新たな価値提案として 「食物繊維」 に光を当てました。トウモロコシの外皮を丸ごと使って作られるポップコーンには、食物繊維が含まれているからです。


そこで2018年からマイクポップコーンのパッケージの前面に 「食物繊維たっぷり」 という文言を大きく表示しました。マイクポップコーンの健康的なおやつとしての新たな価値を前面に打ち出したのです。

テレビ CM など様々なメディアを通じて 「おやつで手軽に食物繊維が摂れる」 というメッセージを積極的に発信しました。

ジャパンフリトレーは自社での研究開発や大学研究者との連携から、ポップコーンの健康価値に関する科学的根拠を蓄積していました。これらの知見をマイクポップコーンのパッケージでの食物繊維の強調に活かしました。

ポップコーンはヘルシーなお菓子という新たなイメージを消費者だけでなく、小売企業にも理解してもらい、売場での露出を増やすよう働きかけました。

消費者からの 「ポップコーンには食物繊維が豊富」 という認知も高まっていきました。食物繊維の訴求は着実に成果を上げ、売上は数字は非公開ですが右肩上がりに転換したとのことです (参考記事) 。

手作り体験の導入

さらに2024年12月には、ジャパンフリトレーは新たな価値提案として 「マイクポップコーン屋さん てづくりキット」 を期間限定で発売しました。


鍋で作れるポップコーンキットという形で、親子で楽しめる手作り体験ができるというものです。

従来の袋入り商品とは異なる箱型のパッケージを採用したことによって、スナック菓子売場以外での展開も可能になり、新たな顧客層へのアプローチを図りました。

ポップコーンをイベント的に楽しむだけでなく、家でのクッキング体験を通じてマイクポップコーンへのイメージを 「日常的なおやつ」 や 「家族向け」 に強化するという狙いです。

パーセプションチェンジの学び


では、マイクポップコーンの事例から学べることを掘り下げていきましょう。

マーケティングにおける 「パーセプションチェンジ (perception change) 」 に示唆があります。

パーセプションチェンジとは

パーセプションは、日本語に訳すと認識や知覚を意味しますが、マーケティングの文脈では 「お客さんが商品やサービスに対して抱く価値イメージ」 のことです。

商品への価値イメージをお客さんにとってどんな価値があるのかという切り口で再定義し、打ち出していくことが 「パーセプションチェンジ」 です。価値イメージをより良い方向へ書き換えていくわけです。

お客さんにとって魅力的なイメージを持ってもらうには、機能説明で終わらせず、商品・サービスがお客さんの生活やビジネスにどんな意味があるのかを具体的に伝えることが大事です。意味合いや価値を伝えるにあたって、顧客目線での価値提案が重要になります。

マイクポップコーンのパーセプションチェンジ

ジャパンフリトレーは、従来は映画館で食べるという非日常的なお菓子だったポップコーンを、家で手軽に食べる健康的なおやつへとイメージを変えることを目指しました。

ポップコーンが食物繊維を含んでいる点を強調し、またバターしょうゆ味などのおいしさも訴求しました。健康面とおいしさが両立しているイメージを打ち出したわけです。

消費者からの 「スナック菓子 = 体に良くない」 という従来のイメージを変えるべく、おやつ選びの際に食物繊維がどれくらい含まれているかを気にするという新しい行動変容を促しました。

ポップコーンが映画館のお供としてだけでなく、「健康価値のある日常的に食べたいおやつ」 という認識が浸透すると、他のスナック菓子との違いが現れます。新しいカテゴリー価値が生まれることで、ポップコーン市場全体が活性化する追い風にもなります。

流通サイドへのパーセプションチェンジもポイントです。パーセプションチェンジを狙うことで消費者だけでなく、小売店や流通企業の認識にも変化が生じます。ポップコーンを健康や日常的な家族向けのお菓子として捉えてもらえばれば、スーパーなどのお店の店頭では今までとは異なる棚や特設コーナーでの展開が期待できます。

限定商品だった 「マイクポップコーン屋さん てづくりキット」 が箱型商品として投入されたのも、流通サイドのポップコーンは袋型菓子という既存イメージを変え、店頭での売り方に新しい風を吹き込み、来店客のパーセプションチェンジや買い物体験を書き換える試みです。

パーセプションチェンジの本質

お客さんの持つ価値イメージが変わると、購買基準もアップデートされます。つまり、お客さんにとっての 「良い商品とは何か」 という定義が変わるわけです。

マイクポップコーンの場合は 「食物繊維」 という新しい要素を提示することによって、消費者がスナック菓子を選ぶときに 「健康的で食べても罪悪感が少ないかどうか」 が新たな基準として加わります。こうした選択基準の変化が需要に構造的な変化を生みます。

お客さんの文脈に合わせる

とはいえ、ポップアップはいくら食物繊維が豊富と言っても、それがお客さんにとってどんなメリットをもたらすのかが伝わらなければ自分ごと化されず相手に響きません。

ジャパンフリトレーは 「罪悪感なく食べられる」 や 「子どもにも喜ばれる」 、「家族みんなが楽しめる」 といった打ち出し方を織り交ぜてアピールすることで、想定するお客さんの文脈に合い、消費者が自分の生活と結びつけやすい形に落とし込みました。

継続的な提案

パーセプションチェンジは一度の施策で終わるものではありません。

ジャパンフリトレーの事例では、バターしょうゆ味のヒットに続く新フレーバーの開発や、てづくりキットなどの新たな商品形態の提示により、ポップコーンの健康面や日常的に楽しめるお菓子というイメージを一貫性を持って強固にしていこうとしています。

こうした継続的なコミュニケーションへのアプローチが、パーセプションチェンジでは重要です。

マーケティングの役割は、お客さんが持つカテゴリーや自社商品への価値イメージをより良いものに変え、「お客さんから選ばれる理由」 をつくり出すことです。

マイクポップコーンの事例は、既存商品の新たな価値を再解釈し、消費者目線で効果的に伝えることによって、パーセプションチェンジを実現していくために示唆を与えてくれます。

まとめ


今回は、マイクポップコーンの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • パーセプションチェンジとは、消費者やお客さんが商品やサービスに対して抱く価値イメージを再定義し、より魅力的な方向へ書き換えていくこと。新たな選択基準をつくることを目指す

  • 価値イメージが変わると、消費者や企業の購買基準も変わり、新たな市場機会が生まれる。「良い商品とは何か」 の定義が変化することで、需要に構造的な変化をもたらす

  • パーセプションチェンジを狙う新たな価値提案が、消費者や顧客自身の状況、価値観やニーズと結びつかなければ響かない。自分ごととして捉えられるストーリーや利用シーンを示すことで、受け入れられやすくなる

  • パーセプションチェンジは一度の施策で終わるものではなく、新商品開発や新しいデザインなどで一貫性を持った継続的なコミュニケーションが重要。長期的な視点で価値イメージの強化・定着を図る


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。