#地政学と経済安全保障 #戦略と実践 #本
最近よくニュースなどで見聞きする 「地政学リスク」 や 「経済安全保障」 。なんだか難しそう… と感じていませんか?
でも実は、グローバルに事業を展開していなくても、今やビジネスにおいても避けては通れない重要なテーマなのです。
今回は、そんな地政学や経済安全保障とビジネスとの関係を、単なる知識・教養で終わらせず、実践的な 「戦略思考」 へと高められる一冊をご紹介します。
本のタイトルは、ビジネスと地政学・経済安全保障 - 「教養」 から実践で使える 「戦略思考」 へ (羽生田慶介) です。
アメリカと中国の米中対立やサプライチェーンの混乱など、世界は今、大きなうねりの中にあります。もはや他人事ではなく、地政学や経済安全保障の観点から、企業は経営戦略・事業戦略の前提を見直す 「パラダイムシフト」 が求められています。
では、経営企画から営業・調達まで、どう全社でリスクに向き合い、ピンチをチャンスに変える 「戦略思考」 を実践すれば良いのでしょうか?
ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
本書の概要
なぜ今、地政学・経済安全保障なのか?
ここ数年のビジネス環境は、地政学リスクや経済安全保障上の懸念によって大きく揺らいでいます。
米中間の技術覇権争い、ロシアによるウクライナ侵攻、サプライチェーンの脆弱性、各国の規制強化――。こうした動きは、もはや他人事ではありません。企業は従来の延長線上にあるリスク管理だけでは対応しきれず、企業戦略そのものを見直す必要に迫られています。
本書の特徴
本書で書かれている内容は、こうした複雑な状況を乗り切るために、地政学や経済安全保障を知っている状態の 「知識」 だけにとどまりません。知識を具体的なビジネス戦略に落とし込み、経営から実務までのビジネスの場で使える 「実践」 へと転換することの重要性を説いています。
この本の構成は、地政学・経済安全保障の基本知識や世界情勢のトレンド解説 (前半) から、企業が直面する具体的なリスクと実践的な対応策 (後半) へと、スムーズに理解が進みます。
- 地政学と経済安全保障の統合的視点: これらを別々のテーマではなく、相互に関連する経営課題として統合的に捉える。企業戦略全体の中でどう位置づけるべきかを示す
- 網羅性と具体性のバランス: マクロなトレンド分析からミクロな部門別対応策まで論じる。各論点で具体的なビジネスでの実践方法を示し、自社での検討を進める示唆を提供する
- 「実践」 への追求: 地政学・経済安全保障の知識を、部門レベルでの具体的なアクションプランに落とし込んで解説
この本には、これまでの日本企業の強みであった 「カイゼン」 や 「現場力」 だけでは乗り越えられない、ビジネスにおける経済安保への新たな課題に対し、経営層から各部門の担当者まで、具体的なアクションを考えるヒントが散りばめられています。
本書の主要テーマ
本書が目指すのは、地政学と経済安全保障を、知識として知っておくだけでなく、ビジネスの現場で使える 「戦略思考」 へと発展させることにあります。
最新の地政学リスクの動向と、それがビジネスにどう影響するのかを体系的に学べます。
顕在化するリスクの実例
近年実際に企業活動を揺るがした具体的な事例が提示されます。
- 米国による対中半導体規制 (デカップリング)
- ロシアによるウクライナ軍事侵攻
- 台湾有事リスク
- 欧州の気候変動規制 (環境を名目とした経済措置)
- トランプ政権による関税引き上げと、各国との報復合戦
これらの事例から、国際政治と経済がいかに複雑に絡み合い、企業活動が外部環境の影響を直接的に受けるかを理解できます。
各国・地域の地政学と経済安保リスクへの対応状況
本書を読み進めると、こうしたリスクの背景にある構造的な要因も理解できます。
地政学とは何か、経済安全保障とは何かという基本的な論点から、主要国・地域 (日米欧中など) やグローバルサウスと呼ばれる新興国が経済と安全保障を結びつけてどのような戦略を展開しているかです。米国の安全保障優先、中国の経済覇権、欧州のグリーン戦略、日本の対応も詳しく紹介されます。
世界の経済が自由貿易を追求し、その恩恵を享受していた状況から一変しました。各国が自国の国益を巡るパワーゲームの様相を呈している現実が見えてきます。
3つのメガトレンド
2025年現在の世界を動かす大きな潮流として、本書では3つのメガトレンドが提示されます。
- 分断: ブロック化やデカップリングの進行
- 動揺: 国際秩序の不安定化
- 衝突: 経済・軍事両面での衝突リスク (不確実性) 増大
これらのメガトレンドが、サプライチェーン再編、各国の内政不安、同盟関係の変化、軍事衝突や経済制裁の発動など、具体的に国や企業にどのような影響を与えうるのかを学べます。そこから未来を見通す視座を得ることができます。
企業が直面するリスクと部門別対応
本書は、地政学や経済安保の抽象論では終わらせていません。一般的な企業の部門別の影響や対策への示唆が共有され、第5章と第6章で詳しく書かれています。
企業が実際に直面しうる 「10大リスク」 を具体的に示し、それらに対する部門別対応策を詳しく解説します。
経営企画、法務、経理、調達、研究開発 (R&D) 、生産、営業、情報システム、IR や広報といった各部門が、それぞれの業務で地政学・経済安全保障リスクにどう向き合い、どんな対策を講じるべきかという具体的な指針が示されます。自部門に関連するリスクと、取るべき行動をイメージできます。
リスクをチャンスに変える戦略思考
本書の副題にもある 「戦略思考」 。不確実な未来へのリスクをただ恐れるのではなく、適切な準備を通じてピンチをチャンスに変えるという前向きな発想です。
例えば、「材料の輸入元の国での情勢不安や懸念からサプライチェーンをいかに再構築するか?」 や 「主要輸出先に高い関税が突然に課されても自社の利益を確保するには?」 といった問いに対し、取引先や供給網の多元化、代替市場の開拓といった戦略的な選択肢を示唆します。
地政学や経済安保へのリスクに対する備えを、後手にまわってその場しのぎで対応するのでは望ましくありません。いつ有事が自社に突きつけられても冷静に対処できるよう、そしてピンチをチャンスに変えて競争優位につなげるかという視点を身につけられます。
実務やビジネスに応用できるポイント
本書は、読んで終わりではなく、読んだ後に実践へとつなげることが強く意識されています。
実務に応用するためのポイントをいくつか見ていきましょう。
自社の地政学リスクの洗い出しと脆弱性評価
この本を読むことにより、自社がどのような地政学・経済安全保障のリスクにさらされているかを具体的に考えるきっかけになります。
例えば 「主要原材料を特定の国に依存しているが、その国と政治的な対立が起こったら自社のビジネスはどうなるか」 、「自社サーバーへのサイバー攻撃が発生したら」 、「従業員が海外出張で不当に拘束されないためにはどうすればいいか」 などです。本書で提示されるリスク一覧や事例は、自社のリスクマネジメントにおけるチェックリストとしても活用できます。
著者が強調するように、自社にどのような地政学・経済安全保障リスクが潜んでいるのかについて、自社の事業領域を主語にしてあらかじめ精査しておき、現実的に起こりそうならすみやかに対策する必要があります。
全社横断での対応 (サイロ化の回避)
地政学・経済安全保障リスクは、会社の中での特定の部署だけの問題ではありません。
第6章では、各部門で取るべきアクションが具体的に示されていますが、本書を通して企業のあらゆる部門が何らかの形で関わっていることがわかります。
経営企画や海外事業部だけでなく、調達 (サプライチェーン多元化) 、研究開発 (重要技術の流出防止) 、情報システム (サイバーセキュリティ強化) 、さらには営業やマーケティング、人事、法務、経理に至るまで、全社で連携して地政学と経済安全保障のリスク低減に取り組むことが不可欠です。
経営者のリーダーシップと組織文化の重要性
最終章 (第7章) では、経営者の役割と心構えが強調されています。
- 経営トップが明確な方針を示し、組織全体のリスク感度を高める
- 全社的な情報収集・分析機能の部門を立ち上げる
- 部門間の連携を促進する
- 従業員のリテラシー向上のための研修を行う
これら組織的な取り組みを進めることが、持続的な経済安保リスクへの対応力の強化につながります。
一時しのぎのような表面的な対策の導入ではなく、組織文化として地政学・経済安全保障への意識を根付かせることが重要です。
読んでの所感 - ビジネスの前提が変わる時代へ
では最後のパートでは、本書 「ビジネスと地政学・経済安全保障」 を読んでの私の所感を共有させてください。
パラダイムシフトの自分ごと化
本書が突きつけるのは、地政学・経済安保のリスクが、これまで日本企業が得意としてきた現場力やカイゼンではもはや対応しきれない、次元の異なる全く新しい性質の経営課題であるという現実です。
自由貿易が絶対視された時代は終わり、権威主義や保護主義、国家間のパワーバランスがビジネスを大きく左右する時代になりました。
こうした変化が 「会社にとって何を意味するのか」 「自分の仕事にどう影響するのか」 という自分ごと化が否応なく促されます。
ビジネス環境が変わる前の時代での過去の成功体験にとらわれず、現在進行で進んでいる外部環境の変化を前提にする戦略へと舵を切る、「ビジネス環境認識のパラダイムシフト」 が求められます。
コストとリスクへの認識転換
経済安全保障リスクへの対応コストはより必要になるという認識転換も重要です。
従来のコスト削減至上主義だけでは、サプライチェーンの突然の寸断といった自社にとって致命的なリスクを増大させることになりかねません。
安定供給の確保や技術流出防止のためには、たとえコストが増加しても今から戦略的に投資し、事業の持続可能性とレジリエンス (回復力・しなやかさ) を高めることが不可欠です。
短期的な効率性やコスト低減だけでなく、長期的な予算配分とリスク管理、事業継続を重視し、そのための投資は惜しまないという考え方への転換が必要です。
顧客から 「選ばれる理由」 の変化
特に BtoB ビジネスにおいては、企業がサプライヤーを選ぶ基準が変化している点も見逃せません。
QCD (品質・コスト・納期) において、D の Deliverly に直結する地政学リスクや経済安全保障への対応によるプライチェーンの強靭性や安定供給能力の向上が、取引先から自社が 「選ばれる理由」 として存在感を高めています。
自社のことを経済安全保障への備えが不十分だと顧客から見なされれば、いくら技術力や価格競争力があっても取引先の候補から外され、競争の土俵にすら上がれない可能性すらあるわけです。
経済安保へのリスク対応が 「守り」 だけではなく、顧客からの信頼獲得や事業機会の確保に直結する 「攻め」 の要素でもあるのです。
まとめ
今回は、書籍 ビジネスと地政学・経済安全保障 - 「教養」 から実践で使える 「戦略思考」 へ (羽生田慶介) を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 地政学リスクと経済安全保障は今や全ての企業にとって避けられない課題である。単なる知識・教養としてだけでなく、具体的な企業戦略に取り入れ実践することが重要
- 世界は 「分断」 「動揺」 「衝突」 という3つのメガトレンドに直面。米中対立や保護主義の台頭など、従来の自由貿易前提の世界が根本から変わりつつある。企業は地政学や経済安全保障のリスクを前提としたパラダイムシフトへの自分ごと化が必要
- 経営企画、研究開発、調達から営業や広報、情報システムまで全社横断的な対応が必要。部門ごとの具体的なリスク対応策を講じることで、危機をチャンスに変える戦略思考の実践が求められる
- コスト削減至上主義を見直し、安定供給確保や技術保護のため 「コストとリスクへの認識転換」 を受け入れる。経済安全保障対応にはコストがかかるという認識転換も必須。サプライチェーンの強靭性が取引先から 「選ばれる理由」 につながる
- 経営トップのリーダーシップの下、リスク感度を高め、全社的な情報収集・分析機能を強化し、地政学や経済安保への対応を組織文化として根付かせることが持続的な事業継続と成長に貢献する
この本は、企業経営者やビジネスパーソンにとって、避けては通れない経済安全保障の課題に対して、実践的に向き合うための羅針盤となる一冊です。よかったらぜひ読んでみてください。
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