#マーケティング #顧客理解 #価値設計
自社の商品やサービスは、どういった理由でお客さんに選ばれているでしょうか?
意外にも、売り手が思い込んでいる 「顧客から選ばれる理由」 と、お客さんが 「実際に価値を感じている価値」 にはズレがあるものです。そこで本当に注目すべきは、お客さん自身が感じている価値のほうです。
森永乳業のヨーグルト 「パルテノ」 は、競合ひしめく市場で一度は迷走しながらも、消費者の声に立ち返ることで成功につなげたブランドです。
今回はパルテノの事例をもとに、マーケティングの本質や顧客理解の重要性について考えていきます。
森永乳業のヨーグルト 「パルテノ」
スーパーやコンビニには数多くのヨーグルト製品が並んでいますが、その中に 「ギリシャヨーグルト」 というカテゴリーがあります。森永乳業が展開する 「パルテノ」 もギリシャヨーグルトのひとつです。
パルテノが世に出たのは2011年。日本ではまだ耳慣れなかったギリシャヨーグルトという言葉を広めるきっかけになりました。パルテノは一般的なヨーグルトと比べて水分が少なく、クリーミーで濃厚な口当たりを味わえることから、まるでチーズのような新鮮な食感が特徴です。
もともとデザート感覚で親しまれていたパルテノでしたが、たんぱく質が多く入ったヨーグルトという機能訴求への転換していました。
しかし、2017年以降、健康志向の高まりに合わせてたんぱく質の豊富さを前面に出す戦略に切り替えたものの、競合商品の台頭やプロテイン市場の盛り上がりにより、パルテノは独自性を打ち出せず売上は伸び悩む状況に陥りました。
その後、パルテノは見事に売上を伸ばす転機をつかみました。カギとなったのは、消費者を深く理解するための取り組みでした。
学べること
では、パルテノの事例から学べることを掘り下げていきましょう。
マーケティングの本質
あたらめてマーケティングとは何かについて考えてみます。
マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 です。活動全般と言っているように、マーケティングを広く捉えています。
お客さんに選ばれるとは、商品を買ってもらえる、使ってもらえる、来店してくれる、指名されることです。こうした 「選ばれる理由」 をつくり、商品やサービスがお客さんから選ばれ続けることによって、商品は生き残っていけます。ひいては自分たちのビジネスも存続できます。
企業側の視点で 「こんなにすごい機能がある」 「最先端のすばらしい技術を使っている」 と主張しても、消費者目線での 「選ぶ理由」 や 「買う理由」 に直結しなければ意味がありません。
大事なのは、消費者や顧客を深く理解し、どんな状況で、どんなニーズが生まれ、どういう便益を求めているかをつかむことです。そして、見出した顧客文脈に沿って商品・サービスの魅力がしっかり伝わるように訴求するのがマーケティングです。
お客さんから自分たちが選ばれるのを偶然に頼るのではなく、ビジネスの文脈では自社商品やサービスが意図的に選ばれる確率を高めるのがマーケティングの役割です。選ぶという行為の主体者はお客さんです。誰に、なぜ選ばれるのかを解像度高く理解することが重要になります。
ヘビーユーザーからの発見
では、今回の森永乳業のパルテノの事例に話をつなげます。
パルテノが取ったステップは、まずパルテノのコアなファンの声に耳を傾けることでした。ヘビーユーザーに焦点を当て、なぜパルテノが選ばれるかを徹底的に理解しようと努めたのです。
日常的に購入しているお客さんほど、その商品を選び続ける明確な理由を持っている可能性が高いものです。そして、その選ぶ理由こそが商品の最も強いセールスポイントであることが少なくありません。
普段からパルテノを食べているヘビーユーザーが、パルテノのどこに魅力を感じているのかを探るために、森永乳業はデプスインタビューから一人ひとりの声をじっくり聞き取りました。
調査からわかったのは、パルテノの魅力が 「濃厚なおいしさ」 にあるということでした。もちろんプロテインの量を評価する声もありましたが、実際にパルテノを口に入れた瞬間の濃いまったり感が、他のヨーグルトにはない独自の魅力として支持されていたわけです。
デプスインタビューの中で、ヘビーユーザーから 「ヨーグルトのイメージが変わった」 や 「まるでスイーツのような特別感がある」 という発言が聞かれました。パルテノのおいしさへの評価は、それまで森永乳業があまり際立ったアピールをしていなかったにもかかわらず、ユーザーの心の奥でしっかりと根付いていました。
定量調査からの確信
そこで森永乳業は、さらに広くユーザーを対象にアンケート調査を実施し、定量的なデータを収集して購入理由をランキング化しました。すると、トップはたんぱく質が豊富だったものの、それに次いで 「おいしさ」 や 「濃厚さ」 が多くの人で2位や3位に挙がりました (参考情報) 。
この結果から森永乳業が確信したのは、パルテノに求められているのはプロテイン機能だけではなく、パルテノにしかない独特のおいしさだということです。濃厚さや味わい深さもパルテノが選ばれる理由として消費者の中に存在することが、数字でも裏づけられました。
二段階の価値設計
これらの顧客理解にもとづき、森永乳業はパルテノへの位置づけをおいしさを強化して訴求する方針へ舵を切りました。
具体的には、パッケージデザインを刷新し、クリーミーで贅沢な味わいが伝わるようなビジュアルに変えました。さらに CM のメッセージでも 「おいしいのに、プロテイン 10.2g」 というキャッチコピーを導入。濃厚でリッチな味わいと高い栄養価の両立を強調しました。
こうして、食べ物の基本価値であるおいしさを軸にしながら、付加価値としてのプロテインもしっかり摂れるヨーグルトという 「二段階の価値設計」 が完成したのです。
多くの消費者は、ヨーグルトを健康維持のために仕方なく食べるというよりも、どうせ食べるならおいしいものを選びたいと考えているはずです。そこに対してパルテノからの 「しっかり栄養をとれるうえにおいしさへの満足度も高いヨーグルトです」 というメッセージが響くことでしょう。
実際に、この方針転換を境にしてパルテノの売上は伸び、刷新後1年間の売上が前年同期比約 130% にまでになりました (参考情報) 。
起点になったのは顧客理解
パルテノの事例を振り返ると、ポイントは顧客理解に行き着きます。
当初、パルテノはたんぱく質を多く含むヨーグルトとしての機能性のアピールに力を注いでいました。しかし、実際のヘビーユーザー調査やアンケート結果からは、パルテノのおいしさが欠かせない要素として浮かび上がってきました。
このように、企業が想定しているお客さんへの提供価値と、実際にお客さんが感じている商品価値がずれているケースはめずらしくありません。重要なのは、そのズレをいかに察知し、顧客理解によって修正できるかです。
森永乳業がパルテノで実践したように、デプスインタビューなどで消費者や顧客が語る声を拾い上げ、そこから見えてきた仮説を広範なアンケートによって定量的に検証することによって、価値認識のギャップを埋めることができます。
パルテノの事例は、顧客理解を軸にブランドコンセプトを組み立て、コンセプトから生まれるアイデアをパッケージデザインやマーケティングコミュニケーションに落とし込むことで売上を伸ばしたお手本となるケースです。
自社商品を買ってくれるお客さんが本当にどこに魅力を感じているのか、ヘビーユーザーへのインタビューをきっかけにして発見した顧客理解への洞察が、ブランドの戦略を変えるパワーを持っていました。
マーケティングの役割は、お客さんが選ぶ理由を深く理解し、顧客理解にもとづき戦略と実行を行い、お客さんから選ばれ続ける状態をつくることにあります。
まとめ
今回は、森永乳業のヨーグルト 「パルテノ」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 。消費者や企業が 「なぜその商品を選ぶのか」 を理解し、意図的に選ばれる確率を高めることが重要
- 企業の想定する価値と、お客さんが感じる価値にはズレがあることが多い
- ヘビーユーザーへの深掘りインタビューや広範な定量調査を組み合わせることで、企業の想定と顧客が実際に感じている価値のギャップを発見できる
- 二段階の価値設計。商品の基本価値 (おいしさなど) をしっかり満たし、その上で付加価値 (高い栄養価など) を組み合わせることによって、より強いブランドコンセプトになる
- 顧客の求める本質的な価値と、プラスアルファの魅力を両立させ、説得力のある選択理由を提供する
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