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明治おいしいミルクコーヒーに学ぶ、カニバリを起こさないブランド拡張の成功ポイント

#マーケティング #ブランド拡張 #新商品開発

自社の顔とも言える主力ブランド。ブランドの力を、新商品開発やさらなる売上アップにもっと活かせるとしたら、新たな成長の可能性が開けます。

既存ブランドの知名度や信頼は財産ですが、下手に手を広げると長年かけて築き上げてきたブランドイメージを壊しかねない危険性もあります。

今回のテーマは 「ブランド拡張」 です。計画比2倍以上というヒットを記録した 「明治おいしいミルクコーヒー」 の事例から、成功するブランド拡張の秘訣、そして注意すべき落とし穴について解説します。

明治おいしいミルクコーヒー


出典: 明治

明治の 「明治おいしいミルクコーヒー」 が好調です。主力ブランド 「明治おいしい牛乳」 で初の新しい味として2024年秋に発売され、計画の2倍以上で売れました (参考情報) 。

コーヒー感や甘みの強い既存商品との違いを打ち出し、人工甘味料や香料などの添加物を使用せず生乳 50% 以上でミルクのコクにこだわっているのが特徴です。

購入者の5割以上が30代以下の若年層とのことで、少子高齢化などで減りがちなミルクの消費に一石を投じています。

* * *

では、明治おいしいミルクコーヒーの事例から学べることを掘り下げていきましょう。

ブランドとブランド拡張


今回の話は、従来からある主力製品のブランド力を引き継ぎながら、新規顧客層や新たな利用シーンをつくるという観点で学びが得られます。

まずは、そもそものブランドとは何かから入っていきましょう。

ブランドとは

ブランドとは、商品やサービスが持つ独自の価値観やイメージ、ストーリー、体験の総体を指します。ブランドは長年にわたる一貫した品質と信用の積み重ねによってつくられ、お客さんの頭や心の中に根付いた信頼の証のような存在となります。

ブランドが持つ特有の "らしさ" は、ブランドが体現するブランドの理念や価値観、品質や価値へのイメージ、感情的な結びつき (例: 共感, 憧れ, 誇りなど) などで形作られます。

ブランドは特有のらしさを持つことで他とは違うものだと認識され、かつその違いがお客さんにとって価値となります。だからこそブランドはお客さんから 「これでいいかな」 というよりも、もっと能動的に 「これ "が" いい」 と選ばれる存在となるわけです。

ブランド拡張とは

ブランド拡張 (ブランドエクステンション) とは、既存のブランド資産、具体的には知名度や信用を新しいカテゴリーでの商品やサービスに適用するアプローチのことです。

すでにお客さんが知っていて信用しているので、そのブランドから新しいカテゴリーやジャンルの新商品が出たら、期待値が自然と高まり買ってもらえることを期待するわけです。

たとえば 「明治おいしい牛乳」 は、牛乳市場でトップクラスのシェアと認知度を誇る強いブランド資産を持っています。おいしい牛乳の名を冠する新しい商品が出れば、消費者は買って失敗することはないだろうという安心感を持てることでしょう。

ブランド拡張では認知と信用を横展開できることがメリットです。今回の明治おいしいミルクコーヒーの事例で言えば、おいしい牛乳のあの味の延長線上にあるなら、きっとミルクコーヒーもおいしいはずという期待の醸成です。これはブランド拡張による恩恵です。

ブランド拡張が成功すれば、既存の商品はそのままに、新商品が新たな売上を生む相乗効果が期待できます。

ブランド拡張の注意点

ただし、ブランド拡張には注意点があります。

ブランド拡張を目指した新商品が既存のブランドイメージから逸脱しすぎると、ブランドを毀損するリスクがあります。

例えば、高級車メーカーが突如としてあまりに廉価な自動車を出した場合です。低価格によって確かに売れますが、それは一時的で、長い目で見れば今まで積み上げてきた高級でラグジュアリーなブランドイメージは崩れてしまうでしょう。

ブランドとは本質的にはお客さんの頭や心の中にある商品やサービスへの価値イメージです。

ブランドにとって最大の資産は 「お客さんからの信頼感」 です。やみくもにブランドイメージを拡げすぎると、既存のファンが離れてしまいます。たとえ新規顧客を獲得できても、ブランド全体が曖昧になってしまい、中長期的には市場での存在感を薄める結果になりかねません。ブランドのイメージが大きく変わると、これまで積み重ねてきたブランド資産を一気に失うことすらあるのです。

ブランド拡張では、カニバリゼーション (自社商品同士の食い合い) にも要注意です。

既存の商品と新商品が同じ顧客層を取り合ってしまうと、ブランド拡張のはずが単なる置き換えになってしまいます。拡張の先に新規層をうまく取り込めるよう戦略的に顧客設定を分けることが大事です。

明治おいしいミルクコーヒーに学ぶブランド拡張


では、明治おいしいミルクコーヒーの事例をケーススタディとして、ブランド拡張のポイントを整理してみましょう。

製品としての近しい関係を維持

明治おいしいミルクコーヒーで注目したいのは、既存製品である明治おいしい牛乳のイメージをそのまま引き継いでいることです。

パッケージデザインは兄弟商品のように統一感を持たせながら、明治おいしいミルクコーヒーは味の面でも生乳 50% 以上使用という、おいしい牛乳と近い存在のコーヒー飲料です。見た目と味でおいしい牛乳らしさを保っています。

注力顧客と利用シーンを離し、カニバリを防ぐ

一方、「明治おいしいミルクコーヒー」 は 「明治おいしい牛乳」 とは異なる注力顧客、また、飲まれる時間帯や消費シーンを想定したことにより、カニバリを回避しました。

一般的に牛乳は主に朝食時や子どものおやつの時間、学校給食というシーンで飲まれるものですが、ミルクコーヒーの場合はリラックスしたい時や休憩タイムなどです。明治おいしいミルクコーヒーは、牛乳の消費が少ない 20 ~ 40 代のリラックスシーンなどを想定して開発されました。

実際に、発売から2ヶ月の購入者層は30代以下が 50% 以上を占め、新しい顧客の開拓につながりました。若年層向けの飲み物として新たな選択肢になったことがわかります。

新規顧客を取り込むことでブランド全体の顧客基盤を強化

明治おいしい牛乳は2002年に発売されて以来、長く消費者から愛されている牛乳です。すでに家庭の定番として根付いている商品ですが、消費者の年齢層は特に子どもがいるファミリー層やシニア層の利用が中心とのことです。

そこに新たにミルクコーヒーを追加し、若年層のリラックスしたいときに飲みたいドリンクという市場に打って出たことによって、おいしい牛乳とは異なる顧客層からの支持を獲得し、ブランド全体を活性化できる可能性を秘めています。たとえば、若者が 「おいしいミルクコーヒー」 をきっかけに、将来的に牛乳も明治の 「おいしい牛乳」 を買ってくれることが期待できるからです。

ブランド拡張での距離感のバランス

ブランド拡張を成功させるポイントは距離感のバランスにあります。

ブランドのコアイメージを守り、一体感を持たせつつ、注力顧客層やお客さんの利用用途は一定の距離感で離すことにより、ブランド内の既存製品やサービスとのカニバリを防ぐというふうにです。

近さと遠さという二律背反の要素をどうバランスよく取り入れるかにかかっています。明治おいしいミルクコーヒーは、おいしい牛乳の味と雰囲気をしっかり踏襲する一方で、異なる利用シーンを打ち出すことで新たな需要を生み出しました。

ブランド拡張では、新製品にただブランド名をつけるだけではなく、ブランドのコアバリューからのブランドイメージを損なわずに、従来製品が持っていなかった領域へと攻め入る絶妙なさじ加減が大事です。

まとめ


今回は、明治おいしいミルクコーヒーを取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ブランドは、商品やサービスが持つ独自の価値観やイメージの総体。長年の信用によってお客さんの頭や心の中に築かれる 「信頼の証」 。ブランドが構築されると 「これがいい」 と能動的に選ばれる存在となる

  • ブランド拡張とは、既存ブランドが持つ知名度や信用といった資産を、新しいカテゴリーの商品やサービス展開に活用する方法

  • ブランド拡張のメリットは、既存の認知度や信頼感を活用し新商品の市場導入をスムーズにできる

  • 注意点は、拡張先のイメージが既存ブランドと乖離しすぎるとブランド価値を損なったり、既存商品と顧客を奪い合いカニバリゼーションが起こる可能性があること

  • 成功ポイントの1つ目は一貫性の維持。新商品は、既存ブランドの核となるイメージや価値観や "らしさ" から逸脱せず、デザインや品質において一貫性を保つことが重要

  • 成功ポイントの2つ目は戦略的な差異化と距離感。ブランドイメージの一貫性を保ちつつ、注力顧客層や利用シーンを既存商品と戦略的にずらすしカニバリを防ぎ、ブランド全体の顧客基盤を拡大する。近さと遠さのバランス感覚が成功のカギとなる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。