#マーケティング #PLG
今回は 「PLG (Product-Led Growth) 型マーケティング」 について、実例を交えながら詳しく見ていきます。
従来の営業主導型とは一線を画すプロダクトリード型の PLG 。PLG では、ユーザーがプロダクトを通じて直接価値を感じる仕組みをいかに構築できるかポイントです。
トヨクモの事例を踏まえた実践のヒントを、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
PLG 型マーケティングとは
今回のキーワードは PLG です。まずは、PLG とは何かを整理しておきましょう。
PLG と SLG
PLG は 「Product-Led Growth」 の略語です。
日本語に直訳するとプロダクトが成長を導くという意味ですが、PLG は、ユーザーがプロダクトに触れる中でプロダクトの価値を実感し、そのまま導入や購入へと進むモデルを指します。プロダクトそのものが営業マンの役割を果たすようなイメージです。
PLG と対比となるアプローチが、SLG (Sales-Led Growth) です。
SLG は従来型の営業活動を中心としたモデルです。営業担当が直接訪問や電話をかけてお客さんとの関係性をつくり、受注を狙う方法です。営業主導のため、売上を拡大するには営業要員や代理店の拡充が前提となります。
PLG と SLG の2つのモデルは、ユーザーが価値を認識するプロセスと、企業が成長のために注力するポイントがそれぞれ異なります。PLG では 「見込み顧客にプロダクトに触れて価値を感じてもらうか」 を優先し、SLG は 「営業や見込み顧客をどう動かすか」 を中心に考えます。
日本企業には、代理店との結びつきや、強固な営業組織を武器にした SLG 型が主流でした。
しかし近年、ユーザーがリサーチから導入までオンラインで完結させるケースが増え、世界的にも PLG のアプローチが注目を浴びています。実際に海外の急成長スタートアップや SaaS 企業の多くが、いち早く PLG を取り入れています。
PLG の本質
PLG の肝は、見込み顧客が 「このプロダクトで問題が解決できそうだ」 と体感するまでのハードルをなるべく下げ、自然と導入意欲が高まる仕組みを設計することにあります。
具体的には、簡単なオンラインでの製品・サービスのデモ紹介、お試しプランやフリーミアムプランといった方法で、見込み顧客が使ってみることに躊躇せずプロダクト体験をスタートできるようにします。
大事なのは 「短期的な売上を急ぐよりも、プロダクト価値をまずは体感してもらう」 という発想を優先することです。その結果として、見込み顧客からのプロダクトへの適切な期待値、価値と価格のバランスを伴った状態で購入や本契約へ進んでもらいやすくなります。
PLG を成功させるポイント
では、ここまでの PLG とは何かを踏まえ、PLG を成功させるポイントについて考えてみます。
- プロダクトの価値体験を中心に据える
- ブランド認知とプロダクト認知の両輪
- 長期的な視点で設計する
順番に詳しく見ていきましょう。
PLG を導入する上で重視したいことは、プロダクトの価値体験を中心に据えることです。
いかにユーザーにプロダクトの価値を実感してもらうできるかが PLG では大事です。
もし導入初期段階でつまずいてしまうと、その時点で離脱が起こり、二度と戻ってきてもらえない可能性もあります。逆に、早いタイミングで 「このプロダクトは自分たちにとって価値がある」 と感じてもらえれば、購入への道が開けます。
PLG を成功させるためにはプロダクトの認知やブランディングによるブランドイメージの向上に投資することが重要です。
広告や大規模なキャンペーンなどから、長期的には 「プロダクトを知ったり触れるきっかけづくり」 や 「企業・製品への好意度の醸成」 に効果を発揮すれば、PLG というプロダクト主導型のビジネスの成功に寄与します。
PLG を実践するうえでもうひとつ欠かせないのが、長期的視点です。
PLG の成功は、特に最初の段階ではユーザーが少しずつ増えていく後に訪れます。
口コミやユーザーコミュニティなどで自社プロダクトが知られて知名度が上がり、ブランドとなることで継続率の高いファンを抱えるビジネスへと成長できます。四半期や年度末の売上目標だけを追うのではなく、時間をかけて顧客増を目指すという PLG の根幹を崩さないことが重要です。
では、ここからの後半のパートでは、具体的な事例に当てはめて PLG を見ていきましょう。
トヨクモに学ぶ PLG の実践
トヨクモは 「安否確認サービス2」 「kintone 連携サービス」 「トヨクモ スケジューラー」 など、法人向けクラウドサービスを展開する企業です。
特に最近の防災意識の高まりを背景に 「安否確認サービス2」 で大きくシェアを獲得。その後、売上高成長率 125% 、解約率 0.7% という数字を記録しています (参考記事) 。
トヨクモが採用しているのが PLG 型のマーケティングです。
見込み顧客がプロダクトを直接触り、価値を実感しやすい環境を提供しながら、同時にブランディング活動やメディア露出で認知を高めています。短期的な売上にとらわれることなく、長期的にユーザー数と MRR (月次経常収益 (毎月継続的に得られる収益のこと) ) を伸ばしています。
では、トヨクモの事例をケーススタディとして PLG の成功ポイントを紐解いていきましょう。
プロダクトの価値体験を中心に据える
トヨクモの各サービスは簡単でシンプルであることを特徴としています。特に 「安否確認サービス2」 は、災害時に社員や関係者の無事を速やかに確認できるシステムとして、操作がわかりやすいものです。
PLG の観点で見ると、お試しプロセスの最適化がされています。
見込み顧客が公式サイトから資料請求や無料トライアルを申し込む流れがスムーズになる設計です。最初にサービスに触れてもらう体験をなるべく迷いのないものにしていることによって、低い解約率を実現します。
また、小さな成功体験を実感できる工夫がされています。サービスの体験開始の段階で 「こうすれば緊急時に社員への一斉連絡を簡単に送れる」 「この設定だけで、状況の共有がリアルタイムにわかる」 などの具体的なメリットが体感できます。
ブランド認知とプロダクト認知の両輪
トヨクモはテレビ CM をはじめとするブランディング広告に注力し、「簡単、トヨクモ」 というマーケティングコンセプトを打ち出しています。
トヨクモのコミュニケーションでは 「安否確認」 や 「トヨクモスケジューラー」 などのサービス名だけではなく、簡単というキーワードを一貫して発信しています。
CM を見たことがあり、トヨクモのことを聞いたことある会社だという認知が上がり、知っていることで購入検討時の安心感を生む。そしてトライアルへの申し込みへ誘導するという流れが期待できます。
ブランディング広告に投資している点は長期視点に根ざしたやり方です。MRR という月次経常収益から逆算し、焦らずにテレビ CM を流せるほどの有名企業へと立ち位置を確立することを狙っています。
長期的な視点で設計する
トヨクモは、売上 (MRR) 成長を見ながら、じっくりと PLG を継続しています。
投資家から大きな資金を調達して営業をガンガン増やすのではなく、無理なく広告を出稿して企業認知度を上げ、サービスの UI/UX の改善にリソースを注ぎ、解約率を最小限に抑えるというふうにです。
実績として、解約率が 0.7% という安定的な顧客基盤を築きました。ユーザーの解約率が低いということは、ユーザーがそれだけサービスを長く使い続けたいと感じている証拠です。
短期的に広告費をかけてお客さんを大規模に獲得しても、すぐに解約されては意味がありません。PLG というプロダクト主導のアプローチがうまくまわることによって、顧客満足度を保ち持続可能なビジネスを築けます。
まとめ
今回は、トヨクモの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- PLG (Product-Led Growth) とは、製品やサービスなどのプロダクトからお客さんに価値を直接体験してもらい、導入・購入につなげるビジネスモデル。プロダクトそのものが営業の役割を果たす
- [ポイント 1] プロダクトの価値体験を中心に設計する。無料トライアルや簡易デモで導入ハードルを下げ、小さくても早いタイミングでの成功体験を通じてユーザーの納得感を醸成する
- [ポイント 2] ブランド全体の認知とプロダクト認知の両輪を回す。マーケティングから見込み顧客の親近感や興味を引き出し、プロダクトへの心理的ハードルを下げる
- [ポイント 3] 長期的な視点で戦略を描く。短期的な売上にとらわれすぎず、解約率の低減と継続的な利用維持を目指して、じっくりと顧客基盤を育てていく
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