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最新シリーズ 「たまごっちパラダイス」 に学ぶブランド構築。ブランドコンセプトを体験してもらう一貫した戦略

#マーケティング #ブランディング #ブランドコンセプト

なぜ、そのブランドは世代を超えて愛され続けるのでしょうか?

多くの商品が生まれては消えていく中で、何十年にもわたってファンの心を掴み続けるブランドには、明確な理由が存在します。

今回は、バンダイの 「たまごっち」 を事例に、顧客の心に深く根付くブランドをいかに構築するかを紐解いていきます。そこには、商品開発からコミュニケーションまで、すべてを貫く一本の 「軸」 がありました。

たまごっちパラダイス



まずは、たまごっち最新作の概要から見ていきましょう。

バンダイのたまごっちは、小さい卵形デバイスの中で、様々な進化を見せる生物を世話して育てる電子ゲームです。

1996年に最初の製品がリリースされて社会ブームを巻き起こしました。これまでの累計出荷数は全世界で9,810万個 (2025年3月時点) という人気シリーズの携帯型育成玩具です。

たまごっちシリーズの最新作 「Tamagotchi Paradise (たまごっちパラダイス)」 が2025年7月12日に発売されました。価格は6,380円 (税込み) です。

ズームダイヤル

最新のたまごっちの特徴は、新たに追加された 「ズームダイヤル」 です。

出典: BANDAI TOYS

宇宙空間からたまごっちの体内の細胞レベルまで、4段階で視点を切り替えながら育成を楽しむことができます。

宇宙モードの 「たまうちゅー」 では、舞台となる 「にゅーたまごっち星」 の様子が見られます。ゲームは、この星が生まれるところから始まります。にゅーたまごっち星に名前を付けたり、様々なアクセサリーでデコレーションしたりすることもできます。

ズームダイヤルを切り替えた先の2つ目の 「たまふぃーるど」 は、たまごっちたちが暮らすフィールド (生態系) です。「りく」 「みず」 「そら」 の3つがあり、購入する製品によって最初に遊べるフィールドが異なります。遊具を設置して、たまごっちがそれで遊ぶ様子を観察したり、たまごっちのご飯を入手します。

3つ目の 「たまごっち」 はこれまでのシリーズでおなじみの育成画面です。ご飯やおやつを与えたり、ミニゲームを遊んで機嫌をよくします。世話の仕方によってどんなたまごっちに育つのかに影響します。

4つ目の視点は 「たまさいぼー」 で、たまごっちの体内の細胞です。ステータス画面を開いて状態をチェックしたり、病気になったときに治療をしたりします。育て方によって細胞の中の構成が変化し、そこから成長後の種類が見えてきます。

他の特徴

最新作では遺伝システムが導入されました。たまごっち同士をブリード (繁殖) させることにより、体の形や目の色などが異なる5万種類以上の個性豊かなたまごっちが生まれます。

デバイス同士をドッキングさせる通信機能 「ツーしん」 もユニークです。

出典: @Press

ツーしんでは、他のプレイヤーのたまごっちと交流させたり、繁殖させたりすることもできます。

さらに、お店の玩具コーナーなどに設置される端末 「Lab Tama (ラボたま) 」 で、ダウンロードコンテンツやミニゲームを入手することも可能です。

想定している主なユーザーは α 世代の子どもとその親世代です。生物多様性や SDGs (持続可能な開発目標) といった現代的なテーマも取り入れ、親子で楽しめるよう設計されています。

* * *

では、たまごっちの事例から学べることを掘り下げていきましょう。

たまごっちからはマーケティングでのブランド構築に示唆があります。

ブランドとブランディング


まずは、ブランドについてです。

ブランド

ブランドとは 「お客さんからの好ましい感情が伴った商品やサービス、あるいは企業」 です。

好ましいとは、好き、満足、共感、誇り、憧れ、応援したい気持ちで、こうした感情が深いほど商品やサービスは強いブランドです。

ブランドは商品やサービスを超えた、独自の価値観やイメージ、ストーリー、体験の総体を指します。ブランドは長年にわたる一貫した品質と信用の積み重ねが土台となり、商品体験からつくれます。そして、お客さんの心の中に根付いた信頼の証のような存在となります。

ブランドは特有の "らしさ" を持つことで他とは違うものだと認識され、かつその違いがお客さんにとって価値となります。だからこそブランドはお客さんから 「これ “が” いい」 と選ばれる存在となるわけです。

ブランドが持つ "らしさ" とは、ブランドが体現するブランドの理念や価値観、品質や価値へのイメージ、感情的な結びつき (例: 共感, 憧れ, 誇りなど) などで形づくられます。

ブランドが持つ固有の "らしさ" は、競合他社には簡単に真似のできない、ブランド独自の資産です。

ブランドコンセプト

ブランドコンセプトとは、消費者に持ってほしい商品・サービスのイメージや、顧客価値を端的に言語化したものです。

ブランドコンセプトは、ブランディングによってつくりたい自社商品や自社企業へのイメージになります。消費者自身が脳内に形成する意味づけです。マーケティングで目指すゴールとなるものです。

たまごっちに学ぶブランド構築


たまごっちの事例は、ブランドコンセプトを起点に、いかにして顧客に愛される体験を設計するかの見本です。

ブランドコンセプトは 「世話のやけるよろこび」 

たまごっちのブランドコンセプトは、頭の中に宿る 「世話のやけるよろこび」 です。

ユーザーの世話が必要で、手が掛かるからこそ愛おしく、育てた分だけ感情的な充実感や満足というリターンが返ってくるというものです。ユーザーが感じるコアバリュー (中核的な顧客価値) は、命を預かるという体験に加え、キャラクターとの成長物語が得られることにあります。

ブランドの定義は 「お客さんからの好ましい感情が伴った商品やサービス」 でしたが、たまごっちのユーザーに抱いてほしい好ましい感情は、愛着、共感、ワクワク、応援したい気持ち、誇りなどです。

コンセプトを具現化する製品と機能

こうしたブランドコンセプトを具現化するために、たまごっちの最新作の開発では、生物多様性、宇宙やラボへの回帰が掲げられました。

ブランドの “らしさ” を形づくる要素は、製品の細部にまで貫かれています。

1つ目の要素は 「たまごっちのデバイスの形状とデザイン」 です。

卵型のボディに小窓というミニマルなデザインは、命が宿る殻ということを直感的に訴求します。ストラップで常に一緒に持ち歩ける仕様は、物理的な "寄り添い" を感じさせ、ユーザーとの距離を縮めます。

2つ目のたまごっちの "らしさ" につながるのは、「ズームダイヤルによる世界観の体験」 です。

新機能のズームダイヤルは、世話の対象を 「マクロ (にゅーたまごっち星) 」 から 「ミクロ (細胞) 」 まで見せることにより、「命 = 生態系でつながる存在」 という壮大な世界観を体感させてくれます。視点を変える世話遊びは、他にはないたまごっちならではの独自性です。

3つ目の "らしさ" は 「遺伝システムによる多様性と愛着の醸成」 にあります。

遺伝によって5万種類以上のたまごっちが生まれるシステムは、生物多様性というコンセプトを直接的に体験させます。ブリード結果が唯一無二であるため、ユーザーは自分だけのたまごっちとの物語を紡ぎ、「私のたまごっち」 という特別な愛着や誇りを抱くようになることでしょう。

4つ目の要素は 「コミュニティ機能が生むつながり」 です。

たまごっち同士をドッキングさせる機能である 「ツーしん」 は、まるで自分の子どもを紹介するかのような社交の場を生み出します。他には、お店に設置された端末の 「Lab Tama」 は、たまごっちの世界をデバイスの外にも広げ、ユーザー同士のコミュニティ感を強化します。

ブランディング施策

たまごっちの顧客価値を思い出してもらったり、愛着を高めるブランディングの仕掛けも、多層的に設計されています。

1つ目は 「日常に溶け込むリマインダー」 。たまごっちのデバイスからの呼びかけ、おねだり、病気といったユーザーへの通知は、スマホのプッシュ通知のように機能します。たまごっちの生き物を世話する行為そのものが忘却を防ぐリマインダーの役割を果たします。

2つ目のブランディングの要素は 「継続的なタッチポイントの創出」 です。店頭端末の Lab Tama では、ダウンロードコンテンツや限定ミニゲームを定期的に配信するので、ユーザーがお店に足を運ぶきっかけになることが期待できます。イベントや記念施策はメディア露出にもつながり、休眠ユーザーの掘り起こしにも貢献するでしょう。

3つ目のブランディングは 「ユーザーを巻き込む情報拡散」 です。SNS やアプリで、ユーザーが自分のたまごっちの育成状況を自慢したくなるような投稿を促します。これが UGC (ユーザー生成コンテンツ) となって自然に拡散し、感情共有のサイクルを加速させます。

たまごっちから学べるブランド構築のヒント

今回のたまごっちの事例から、私たちがビジネスに活かせるポイントを5つにまとめます。

  • ブランドコンセプトを磨く: たまごっちの 「世話のやけるよろこび」 というコンセプトは、シンプルかつ様々なたまごっち体験に拡張できる力を持つ
  • 世界観と機能を一本の軸で貫く: ズームダイヤルや遺伝システムなど、全てが 「命を育む」 という中心的な体験価値に直結させている
  • ユーザーが "物語の共創者" になれる設計をする: ブリードによって唯一無二のたまごっちが生まれる体験は、ユーザー自身がブランドの物語を生み出す
  • リマインダーを多層的に設置し忘却を防ぐ: デバイス通知、店頭端末、記念イベントなど、さらには SNS が立体的に機能し、ブランドとの接点を保ち続ける
  • 世代連鎖をつなぐ: たまごっち親世代が持つ懐かしさと、子ども世代の新鮮な体験を掛け合わせた。家族というユニット単位でブランドとの関係性を深めている


最新作の 「たまごっちパラダイス」 は、ブランドコンセプトを軸に、機能、デザイン、ストーリー、そして顧客との接点 (ブランディング活動) までが一貫して設計されています。

たまごっちはこれらを一直線につなげ、お客さんの好ましい感情というブランドを増幅しています。たまごっちならではの "らしさ" を機能そのものに埋め込み、簡単に模倣できない競争優位を確立。忘れさせない、愛着を高めるブランディングによって世代を超えてブランド価値を伝承しているのです。

まとめ


今回は、たまごっちパラダイスを取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ブランドとは、お客さんからの好ましい感情が伴った商品やサービス、あるいは企業。好ましいとは、好き、満足、共感、誇り、憧れ、応援したい気持ち

  • 強いブランドは、他社にはない特有の 「らしさ」 を持っている。らしさが顧客にとっての価値となり 「これがいい」 と選ばれる理由になる

  • ブランドコンセプトは、企業が顧客に持ってほしい商品やサービスのイメージや価値を言語化したもの

  • ブランド構築では、ブランドコンセプトを軸に、商品やサービスの顧客体験を通じてブランドの 「らしさ」 を一貫して提供する。結果としてお客さんの頭の中にブランドイメージが定着する


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。