#マーケティング #組織開発 #広告
マーケティングと聞くと、広告を打ったり SNS を運用したりと、専門部署が担当する華やかな仕事というイメージがあるかもしれません。
しかし、本当に強いブランドは、マーケティングを特定部門の仕事に閉じ込めていません。
今回取り上げるのは、24時間営業の無人ジム 「chocoZAP (チョコザップ) 」 です。RIZAP グループが手がける chocoZAP は、わずか2年足らずで会員数135万人、店舗数1799店という成長を遂げました。
chocoZAP の躍進の裏側には、広告代理店に頼りきりだった体制から脱却し、マーケティングを自社で主導する 「セルフ化」 への挑戦がありました。
なぜ chocoZAP はマーケティングを内製化 (インハウス化) し、どのように成功につながったのか――。chocoZAP の事例から、ドラッカーも指摘する 「全社で取り組むマーケティング」 の本質を紐解いていきましょう。
マーケティングは 「顧客の観点から見た全事業」 である
マーケティングとは何か――。
この問いに対して、経営学者の P・F・ドラッカーは 「マーケティングは専門化されるべき活動ではなく、全事業に関わる活動である。まさにマーケティングは、事業の最終成果、すなわち顧客の観点から見た全事業である」 と述べました。
マーケティングの役割を販売促進にとどめず、お客さんにとっての価値を創造する企業活動のすべてだと捉える考え方です。ここに私自身の解釈も含めれば、マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 です。
この視点に立つと、RIZAP が chocoZAP で断行した 「セルフ化」 の狙いが見えてきます。
もともと RIZAP のマーケティング業務は、その大半を広告代理店に依存していました。
しかし、それでは自社でマーケティングの全体像を把握し、事業戦略と緻密に連携させることが難しい。特に chocoZAP のような新しいサービスをスピーディーに展開する上では、外部に主導権がある状態は足かせになりかねません。
そこで RIZAP は、マーケティングのセルフ化へと舵を切ります。コスト削減のためだけに限らず、お客さんから 「選ばれる理由」 を自社の手で、そして全社を挙げてつくり上げるという経営判断でした。
全社横断でマーケティングを担う体制づくり
RIZAP が着手したのは、広告代理店に依存していた4つの領域を社内に取り込むことでした。
マーケティング戦略の策定・評価
1つ目は、マーケティングの全体像を見渡し、集客プランを策定・評価する役割です。
代理店に任せていると、例えば CPA (顧客獲得単価) のような中間指標に目が行きがちです。しかし RIZAP は、単純なリード数や CPA だけでなく 「どのような属性の人が成約に至りやすいか」 という本質的な指標に着目しました。
お客さんが本当に求めているものは何か。どんな人が長く通い続けてくれるのか。これらの問いに、自社のデータを使って向き合える体制を整えました。
広告運用
2つ目は広告運用です。
テレビ CM の枠買い付けのような、代理店の専門性が活きる部分は引き続き任せる一方、制作プロダクションやキャスティング会社とは直接取引を開始しました。
これにより、クリエイティブに込める想いをダイレクトに伝えられるようになり、制作のスピードも向上したと言います。
また、チラシや屋外広告 (OOH) では、RIZAP は直接媒体とやり取りするようになりました。Web 広告の運用も社内で専門性を高め、コストを抑えながらの内製での実行を可能にしています。
クリエイティブの企画・制作
3つ目は、クリエイティブそのものを生み出す力です。
企画やデザインができる人材をマーケティング部門内に抱えることで、代理店と対等なパートナーとして、より魅力的なクリエイティブを共創できる体制を築きました。
自社コンテンツの運用
4つ目が、Web サイトや SNS などの自社コンテンツ制作です。例えば、インフルエンサーへの依頼も、間に代理店を挟まずに直接行うことで、より密なコミュニケーションを実現しています。
これら4つの役割を社内に持つことによって、RIZAP はどこにコストがかかり、どこに手間がかかるのかを理解し、代理店と適切な関係を築けるようになりました。
「選ばれる仕組み」 を育てる組織体制と文化
chocoZAP の急成長を支えているのは、ここまで見てきた役割の移管だけではありません。内製後に機能させるための独自の組織体制や組織文化があります。
事業横断でノウハウを循環させる
RIZAP のマーケティング担当者は、chocoZAP だけ、あるいは RIZAP だけという事業専属ではありません。SNS 担当であれば、グループ内の複数の事業の SNS をまとめて担当します。
これにより、ある事業で得た成功の知見やノウハウはすみやかに他の事業にも共有されます。
かつては、1人の担当者が複数事業を見ることにより、各事業への理解が浅くなるという解決すべき問題もありました。そこで、週1回、事業ごとに成果を共有するミーティングを徹底し、各担当者が事業の全体像を常に把握できる仕組みを整えています。
他部署も巻き込み顧客体験を磨く
RIZAP グループの新卒採用の約半数はエンジニア職だと言います。エンジニアのメンバーは chocoZAP のアプリ開発などを担い、顧客体験の向上に技術面から貢献します。
このように RIZAP ではマーケティングとテクノロジーを切り離さず、お客さんとのあらゆる接点を全社で磨き上げています。
小さく始め、成功体験から学ぶ
chocoZAP のマーケティングは、最初から大きなチームで動いていたわけではありません。テストマーケティングの段階では、マーケティング本部のメンバーと新卒社員のわずか2人で担当していました。
投資判断もまだ下りていない中、少額の Web 広告を自分たちで運用することから始めたそうです。小さな成功体験こそが、「セルフ化は可能だ」 という自信を社内にもたらし、後の飛躍につながりました。
chocoZAP がピラティスやカラオケなどの新サービスを次々と展開できたのも、マーケティングのセルフ化があってこそです。
サービスが実現する前のアイデア段階から、インタビュー調査を行ってサービスの実現性を探り、広告のビジュアルまでつくってみていたとのことです。マーケターが企画段階から関与することによって、売れるものを起点にサービスを具体化できるようになりました。
実際にサービスを開発する前に、仮想的なキャンペーンでお客さんの反応を検証するアプローチをとっています。顧客ニーズが確認できてから本格的にアクセルを踏み込むので、失敗のリスクを最小限に抑えながら新しい施策を実行し続けているのです。
マーケティングが事業成長のエンジンになる
今回の RIZAP の事例が示すのは、マーケティングのセルフ化は単にコスト削減策ではないということです。
ドラッカーが説く 「マーケティングは企業の全領域に浸透させるべき」 という考え方を実践し、部門を超えた横断体制により全社でお客さんと向き合う仕組みをつくりました。データとクリエイティブを自社で磨き上げ、価値提供の PDCA サイクルを高速で回し続ける文化を定着させています。
chocoZAP の躍進は、マーケティングを 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 と捉え、経営そのものと不可分に設計したことの成果です。新規事業のアイデア出しから、サービス開発、プロモーション、顧客関係構築までのすべてを一貫した思想で推進できる体制が、持続的な成長を可能にしました。
chocoZAP が 「既存のお客さまも大切だという前提はあるが、そこだけを見ていると守りに入ってしまう。期待感を高め続けるためにも、新規顧客に目を向けている」 とするように、現状に満足せず常に新しい価値を生み出し続ける姿勢を見て取れます。
これこそが、全社でマーケティングに取り組むことの実践です。
まとめ
今回は、無人ジムの chocoZAP を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- マーケティングを全社的な活動として位置づける。マーケティングの目的は 「お客さんから選ばれる理由」 を自ら設計しつくり出し、事業成長に直結させること
- 戦略立案から実行・評価まで自社で主導権を持つ。外部任せにせず、顧客データの分析、効果測定、改善サイクルを自社でコントロールできる体制を構築する
- 部門横断でノウハウを共有し循環させる。マーケティング担当者を特定事業に固定せず、社内を横断する体制を築くことで、ある事業で得た成功の知見が組織全体の資産となる
- 全社的なマーケティング文化を醸成させる。マーケティングを専門部署だけの仕事とせず、他部門も巻き込み、全社で 「顧客体験の向上」 に取り組む文化を育てたい。マーケティングが会社のインフラとして機能し、持続的な成長のエンジンとなる
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