#マーケティング #ブランディング #軸
ブランドを強くするために、「何を絶対に変えないか」 を明確にできているでしょうか?
変えるべき部分ばかりに目を向けてしまうと、本来守るべき価値まで揺らぎ、お客さんから信頼を失う危険性があります。一方で、変えない軸がはっきりしていれば、その他の部分は大胆に変え、新しい挑戦を積み重ねることができます。
今回は、ロングセラーのお菓子ブランドを持つ 「ギンビス」 の事例を取り上げ、「変えないことを知っているから、全てを変えられる」 というブランドづくりの秘訣を解説します。
「変えないこと」 と 「変えられること」
お菓子の 「アスパラガスビスケット」 や 「たべっ子どうぶつ」 など、ロングセラー商品を手がける老舗のお菓子メーカーが 「ギンビス」 です。
ギンビスが定めた 「変えてはいけない軸」
1930年の創業から95年。常に 「味と品質が第一」 という姿勢を大切に守ってきました。
ここ最近では、有名企業とのコラボレーションやお菓子の世界観の映画化など、挑戦的な取り組みでも注目されています。
味と品質というこの2つこそが、ギンビスが絶対に譲らない経営の軸です。
60年近く前に生まれた 「アスパラガスビスケット」 は、原材料や設備が変わる中でも、深焼きの技術と絶妙な塩加減という、レシピの根幹を決して変えません。
濃すぎず、甘すぎない、毎日食べられる味。カリッとした食感。まるで白米のように飽きのこない味わいを守り続けています。
変わらぬ味を支えているのが、徹底した品質管理です。
宮本周治社長自らが毎日、前日に工場で製造されたアスパラガスビスケットやたべっ子どうぶつなどの製品を毎日欠かさず食べ、少しでも違和感を覚えた場合は、すぐに工場へ確認しているとのことです (参考情報) 。
工場で作られた製品だけではなく、実際に消費者が手にするお店でも自社商品を買い食べ比べるという徹底ぶりです。ギンビスは味と品質に妥協のない姿勢を貫いています。
大胆に変えられること
絶対に変えないという強固な土台があるからこそ、ギンビスはそれ以外の部分で、大胆かつ柔軟な変化を次々と仕掛けることができます。
ギンビスは変えない軸以外は、時代に合わせて柔軟に変化させています。
例えば、販売形態では、かつては一斗缶での量り売りから巾着タイプのパッケージに変更しました。
実店舗のみだった販売も、2023年にはオンラインショップを開設。ポップアップショップやオンラインストアの開設は、顧客接点を時代に合わせて、出会う場所を変えています。
大胆なコラボレーション (マクドナルドや GU など) や、たべっ子どうぶつの映画化という挑戦にも打って出ました。
体験価値も変える部分です。
イベント 「たべっ子どうぶつ LAND」 はこれまでに3回開催し、累計25万人を動員しました。
他には、動物園・水族館とコラボレーションした体験型イベントとしてのスタンプラリーの実施、無料ゲームアプリのリリース、さらにはキッズユニット 「たべっ子キッズ」 のシングルをリリースするなど、さまざまな形でお菓子の魅力を提案し続けています。
なぜギンビスは 「全てを変える」 ことができるのか
ギンビスの事例を、「変えないことを知っているから、全てを変えることができる」 という視点でまとめてみましょう。
ギンビスは、いつ食べても変わらない味と品質という、企業の生命線ともいえる 「変えてはいけない軸」 を、社長自ら先頭に立って守り抜いています。
こうした絶対的とも言える土台があるからこそ、経営陣や現場メンバーはマーケティングやプロモーション、商品の見せ方といった 「変えるべき部分」 で、例えば映画化のような大胆な冒険ができるわけです。
消費者もまた、どんなに新しいことをしても、いつもの味は変わらないという信頼を寄せているため、新しい挑戦を好意的に受け入れ、一緒になって楽しむことができているのでしょう。
ギンビスは変えない土台を知っているからこそ、その上で展開する全てを自由自在に変えることができるのです。
ブランドとは
ギンビスの事例は、ブランディングという観点からも示唆に富みます。
まずは、そもそものブランドとは何かです。
ブランドは商品やサービスを超えた、独自の価値観やイメージ、ストーリー、体験の総体を指します。
ブランドは長年にわたる一貫した品質と信用の積み重ねによってつくられ、商品体験からつくれます。そして、お客さんの心の中に根付いた信頼の証のような存在となります。
ブランドは特有の "らしさ" を持つことで他とは違うものだと認識され、かつその違いがお客さんにとって価値となります。だからこそブランドはお客さんから 「これ “が” いい」 と選ばれる存在となるわけです。
ブランドが持つ固有の "らしさ" は、競合他社には簡単に真似のできない、ブランド独自の資産です。
ギンビスのブランディング
では、ギンビスがどのようにして強いブランドを築いているのか、詳しく見ていきましょう。
「変えないこと」 がつくり出す、一貫したブランド体験
ブランドの土台となる 「一貫したブランド体験」 。ギンビスの事例では 「変えないこと」 、すなわち、いつ食べても変わらない味と品質によってつくり出されています。
例えば 「たべっ子どうぶつ」 を食べる時、消費者は五感を通して次のような一貫した体験をします。
味覚と嗅覚では、バターの香ばしい風味と、やさしい甘さ。触覚や聴覚では 「カリッ」 「ポリポリ」 という軽快な食感。視覚では、動物の形を見て 「これはライオンだ!」 と楽しむ体験です。
こうした五感でのブランド体験は、人の心においしい・楽しい・安心する・懐かしいといった好ましい感情を伴う 「気持ちのいい記憶」 として刻み込まれます。
気持ちのいい記憶が何度も繰り返されることで、人の頭の中には 「ギンビスのお菓子 = いつでも裏切らない、安心と楽しさをくれる存在」 という価値イメージが形成されます。これがブランドの中核となり、ギンビスというブランドが持つ他社には真似のできない 「らしさ」 を形づくります。
「変えていくこと」 が実現する、ブランド体験の継続的な積み重ね
軸となるブランドの核がある上で、ギンビスは 「変えていくこと」 という新しい挑戦を次々と行います。
これがお客さんにブランドを忘れさせず、体験を積み重ねさせるというブランディング活動になります。
映画化、GU とのコラボ、体験型イベント 「たべっ子どうぶつ LAND」 といった次々に打ち出す新しい施策は、消費者が持つ過去の 「気持ちのいい記憶」 を呼び覚ますトリガーとして機能します。
例えば、GU で 「たべっ子どうぶつ」 のコラボ T シャツを見つけたとします。
かわいい T シャツに出会い、記憶の想起が起こります。ロゴやキャラクターを見た瞬間、脳裏には 「子どもの頃、動物の名前を覚えながら食べたな…」 「あの香ばしい味、好きだったな」 という気持ちのいい記憶がよみがえることでしょう。
そして、「T シャツも可愛いし、久しぶりにたべっ子どうぶつのお菓子も買ってみようかな」 と購買につながるかもしれません。さらに 「イベントもやっているらしいから行ってみよう」 となれば、そこでの新しく楽しい体験が、既存の 「気持ちのいい記憶」 の上にさらに積み重なっていきます。
顧客の頭の中にブランドが形成される
ブランドができる流れは、五感でのユーザー体験から始まり、五感を通した体験からの感情移入を経て、価値のイメージが形成されます。
ギンビスは以下のような流れでブランドをつくっています。
「変えないこと」 として味と品質という一貫した体験を提供し続け、消費者やお客さんの中においしい・楽しいという 「気持ちのいい記憶」 を刻みます。
同時に、「変えていくこと」 において、コラボや映画化といった新しい挑戦によって、その 「気持ちのいい記憶」 を繰り返し思い出してもらい、さらに新しくて楽しい体験を継続的に積み重ねていくという流れです。
一貫性と継続性を続けることで、ギンビスはお客さん一人ひとりにとって 「自分の人生に寄り添ってくれる、安心と楽しさの信頼」 という、好ましい感情を伴う強いブランドとして頭の中につくられるのです。
ブランドは、商品・サービスのユーザー体験による価値評価があって初めて成り立ちます。ブランディングによってお客さんがプロダクトの価値を思い出すきっかけを提供するのであって、ユーザー体験がない中でブランディングを行っても、それは機能しないわけです。
ギンビスの95年の歴史が教えてくれるのは、変えてはいけないものを明確にすることの大切さです。それを知っているからこそ、時代に合わせて大胆に変化し続けることができる。この一見矛盾する経営哲学こそが、世代を超えて愛される強いブランドを生み出す秘訣です。
まとめ
今回は、老舗お菓子メーカーの 「ギンビス」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 変えないことを知っているから、全てを変えることができる。まず 「変えないこと」 を明確にする。変えない軸が中心に通っているからこそ、思い切った挑戦や変更ができる
- ブランドとは、お客さんからの好ましい感情が伴った商品やサービス、あるいは企業。好ましいとは、好き、満足、共感、誇り、憧れ、応援したい気持ち
- 軸を守り続ける一貫性はお客さんに安心や信頼を与え、変わらない価値を五感で繰り返し体験することで 「気持ちのいい記憶」 として蓄積される
- 強いブランドは、他社にはない特有の 「らしさ」 を持っている。らしさが顧客にとっての価値となり 「これがいい」 と選ばれる理由になる
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