#マネジメント #組織 #失敗の本質
フジテレビに対する第三者委員会の報告書を読んで、ある本が頭に浮かびました。それは、『失敗の本質』 ── 80 年前の日本軍の組織的失敗を分析した書籍です。
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この本に書かれた失敗のパターンが、現代の大企業の不祥事と驚くほど重なっていました。
今回は、フジテレビの不祥事の 「失敗の本質」 と、そこから得られる教訓を考えます。
フジテレビ不祥事 第三者委員会報告書
2024 年に発覚したフジテレビの不祥事をめぐり、第三者委員会は調査報告書を発表しました (報告書詳細版はこちら) 。
報告書は、2023 年に番組出演タレントと女性社員との間で生じた事案をめぐり、2024 年 12 月以降の報道が相次いだことを受けて調査をした内容です。
フジ・メディア・ホールディングス (FMH) とフジテレビ (CX) が 2025 年 1 月 23 日に第三者委員会を設置。事実関係、事後対応、グループガバナンスや人権対応の有効性を検証し、原因分析と再発防止提言を行いました。全役職員を対象としたアンケート (回答率約 9 割規模) も実施されています。
第三者委員会は、本件を 「私的な問題」 と矮小化すべきではなく、関係性や権力格差、会食をめぐる業務実態等から 「業務の延長線上」 における性暴力と認定しました。
会社側のハラスメント意識の欠如、経営陣の対応の遅れとガバナンス不全、類似事案の存在などを厳しく批判。一部社員の関与は否定しつつも、組織全体の人権意識の低さや、取引先との関係における不適切な実態 (性別・年齢・容姿で判断され、利用された) も明らかにしました。
日本軍の 「失敗の本質」
書籍『失敗の本質』は、戸部良一氏や野中郁次郎氏などの 6 名の研究者が第二次世界大戦における日本軍の敗戦を組織論の視点から分析し、その原因を解明、現代の企業や組織の教訓とすることを目的とした本です。
ノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ沖海戦、沖縄戦の 6 つの事例を分析。戦略の不在、形式主義、情報共有不足、組織学習の欠如といった、日本軍の組織的な弱点を明らかにしています。
現在のビジネスや組織運営にもそのまま当てはまる、失敗パターン (教訓) は次の通りです。
- 全体像と、目的と戦略の不在
- 耳障りな真実を避ける 「隠蔽体質」 と 「裸の王様」 の構造
- 場の 「空気」 で決まる無責任体制
- 計画は絶対、現実は無視の 「完璧主義の罠」
- 気合と根性で突き進む泥沼化
- 現実と失敗を直視せず、同じ過ちを繰り返す体質
これらの教訓は、フジテレビの第三者委員会報告書が指摘した問題構造と驚くほど似ています。
フジテレビの失敗の本質
書籍『失敗の本質』で描かれた組織的な失敗の型が、フジテレビの不祥事の調査報告書のどこに具体的に現れているかを、当てはめていきましょう。
ここでは、特に一致度合いの高い 4 つについて詳しく見ていきます。
全体像を描けず、目的と戦略の不在
レイテ沖海戦では、日本軍の各部隊が全体戦略を共有できないまま、目の前の状況判断だけで行動し、作戦の本来目的が達成されませんでした。
今回のフジテレビの報告書でも、危機管理の局面で本来やるべき 「縦割り (階層) を外し、現場情報と最終決定者が一堂に会して全情報を共有し、迅速に最適解を出す」 という常道から外れ、縦の階層のみで意思決定が進んだことが、危機管理失敗の一因だと明記されています。
業界内で噂が広がり報道の可能性が高まった段階で、外部に報道することを前提とした危機管理体制に入るべきだったのに、そこに入れなかったと総括されました。これは目的と戦略を早期に定めて全社で動くべき局面で、編成・現場・経営がそれぞれの都合で動き、全体としての統合が起きなかった典型例です。
フジテレビの報告書が指摘する 「被害者ケアがアナウンス室や産業医に分散され、人事部門など必要な横連携が排除された」 という事実は、「被害者の救済と人権保護」 という全体目的のもとで統合的に動けなかったことを示しています。
耳障りな真実を避ける 「隠蔽体質」 と 「裸の王様」 の構造
ミッドウェー海戦では、自分たちにとって不都合な情報の兆候があるにもかかわらず、それらを軽視し、希望的観測がまかり通りました。
書籍『失敗の本質』が見出したのは、不都合な情報が上に上がらない、あるいは上がっても正面から受け取らないことで、意思決定が現実から乖離していく構図です。
第三者報告書は、フジテレビでは従来から、現場が協議した内容を上程しても、「××階」 (本社オフィスタワー ×× 階にある、日枝久氏や会長、社長らが個室を与えられる役員フロアのこと) というブラックボックスの中で意思決定され、結果だけが下命されるプロセスが常態化していたと述べています。
社長・会長・特定個人など、最終意思決定者が誰なのかが不明確で、変更理由も不透明だったと明示しています。
第三者委員会が実施した役職員へのアンケートでは、人事権を掌握していると感じるが約 82% という結果が示され、「役員がその人の方ばかり見て行動している」 「気に入られた人物が出世する」 といった選択肢が過半数に選ばれました。
経営陣が事案を 「私的な問題」 と矮小化し、「女性 A のプライバシー保護」 を理由に中居氏への事実確認を回避したことを、委員会は 「思考停止」 と断じ、実際にはタレントと番組を守るための判断だったと結論付けています。
この実態は、情報が共有されない隠蔽体質と、現場の実態を正しく知らされない裸の王様の状態です。
場の「空気」で決まる無責任体制
ガダルカナル作戦では、「いまさら引くわけにはいかない」 という場の空気に支配され、合理的な撤退判断が致命的に遅れました。
フジテレビの報告書は、噂の拡大を確認してから社内共有・会議検討までに 20 日以上を要しました。しかもその間に詳細調査も反省も行わなかった経緯を述べたうえで、危機への認識が甘く、対応の責任者も決まっていなかったと断じています。
この 「危機なのに危機として動けない」 「責任者不在」 という状態は、社内の空気が支配する前提条件です。誰が旗を立てるか不明確だから、結局 「波風を立てない」 「従来のやり方を崩さない」 という場の都合が勝つわけです。
具体例として、報告書はコンプライアンス (2 線) への情報共有がなかった点を挙げ、その理由 (情報漏えいリスク等) について 「説得力を欠く」 としています。合理よりも、内輪で抱える空気を優先したように見える── この構図は空気で決まる無責任体制の典型です。
報告書の別冊アンケートでも 「相談しなかった理由」 として、職場にいづらくなる、レッテルを貼られる、周囲の目が怖いといった回答が見られました。これは、異論・相談が空気に逆らう行為になってしまう土壌の存在を示唆します。
現実と失敗を直視せず、同じ過ちを繰り返す学習不全
ノモンハン事件での教訓は、組織内で十分に情報や経験が共有されず、その後のガダルカナルでの補給軽視の失敗が、後のインパール作戦でさらに大規模な悲劇として繰り返されました。
第三者報告書も、噂を確認してからの 20 日超の間に、何ら本事案の詳細調査等を行わず、これまでの対応への反省を行ってこなかったことが、その後の対応の鈍さにつながっていると、学習不全を因果関係で書いています。「現実を直視しない → 反省が起きない → 次の局面でも動けない」 というメカニズムです。
報告書は、経営トップ・役員・幹部が適正な経営判断を行うための知識や意識が不足しており、本来は外部専門家やコンプライアンス部門の助力を得ればより適正に意思決定できたはずなのに、そうした意識を欠いていたと述べます。ビジネスと人権、ハラスメント、リスクマネジメント、性暴力被害者支援などの専門家助言も受けなかったと具体的に指摘しています。
これは専門知の取り込みが働いておらず、学習の仕組みがないことを意味し、失敗が教訓化されず再発する温床をつくります。報告書が 「過去にも類似の会合でセクハラ被害が発生していた」 と指摘している点は、組織として過去の失敗から学習できていなかったことを示します。
得られる教訓
では最後のパートでは、企業の実務で『失敗の本質』を繰り返さないための教訓を考えます。
全体像を捉え、目的と戦略を明確にする
何のために、誰のために動いているのかを全員が言える状態をつくります。
各部署が自部門の最適化だけを追求すると、組織全体の目的を見失います。
重要なのは、定期的に私たちは今、何を達成しようとしているのかという、目的を確認し合う場を設けることです。
特に危機対応では、初動で 「責任者」 「目的」 「各部署の役割」 を明文化し、全体を俯瞰できるリーダーを立てる。部分最適ではなく全体最適を常に問い続け、目的から戦略をつくることが、組織力を高めます。
耳の痛い不都合な真実を直視し、悪い情報ほど早く共有する
悪いニュースこそ、最初に聞きたいと組織の責任者やトップが明言し、実際に受け止めるようにするべきです。
組織が意思決定を誤るのは、都合の悪い情報が上に届かないときです。
それを防ぐには、経営層自らが早く知りたい、隠さないでほしいというメッセージを発信し続けることが有効です。
具体的には、定期的に現場と直接対話する場を設ける、悪い報告をした社員を評価する仕組みをつくる、外部の専門家や第三者の目を積極的に入れるなど、希望的観測ではなく最悪のシナリオを先に検討することが重要です。
場の 「空気」 だけで決めず、意思決定の責任をはっきりさせる
誰が、何を根拠に、いつ決めたかを記録に残し、検証可能にするといいです。
なんとなく決まった、誰が決めたかわからないという状態は、無責任体制にほかなりません。
これを起こさないためには、重要な意思決定について 「決定者」 「判断の根拠」 「決定日時」 を記録することです。会議では発言者の名前と意見を議事録に残し、後から検証できるようにします。
密室での意思決定を避け、なぜその判断に至ったかを説明できる透明性が、組織の信頼を守ります。
現実と失敗に向き合い、個人も組織も学習をして次につなげる
失敗を隠すべきものから学ぶべきものに変える仕組みをつくるようにします。
同じ過ちを繰り返す組織は、失敗を直視し、糧にする習慣がありません。
失敗が起きたとき、犯人探しではなくなぜ起きたか、どうすれば防げたかを冷静に分析する場を設けます。ヒヤリハット報告や失敗事例の共有会を定期的に開催し、報告者を処罰せずむしろ称賛する文化をつくる。過去の失敗事例をデータベース化し、新入社員研修や意思決定の場で参照できるようにする。
失敗したことから学ぶ組織が、持続的に成長します。
まとめ
今回は、書籍『失敗の本質』とフジテレビ不祥事の構造的な共通点を見出し、そこから学べることを考えました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 組織の失敗は個人の問題ではなく、構造的な問題として捉える
- 全体最適を見失い部分最適に陥ると、危機対応で組織力が分散する。全体像を捉え、目的と戦略を明確にする
- 不都合な情報が上に届かない仕組みが、裸の王様を作り出す。悪い情報ほど早く共有される仕組みや文化をつくる。リーダーは悪い報告を歓迎し、外部の視点も取り入れるといい
- 責任者不在で場の空気が支配すると、合理的な判断ができなくなる。なんとなくの決定を避け、「誰が・いつ・どう決めたか」 を記録に残す。論理的なプロセスと責任の所在を明確にする
- 失敗から学ぶ仕組みがない組織は、同じ過ちを繰り返し続ける。失敗を隠蔽せず、直視して原因を分析する。過去の失敗を教訓として組織全体で共有し、同じ過ちを繰り返さない