#マーケティング #利用シーン #顧客文脈
「晩ごはんになるわ、これ。」
そんなコピーを掲げて、明星食品がインスタント袋麺で 「家庭の夕食」 に踏み込んでいます。
この事例から、利用シーンを変えることでマーケティングのあらゆる要素が変わるという、普遍的な示唆を読み解いていきましょう。
明星食品 「主食麺宣言」
あなたにとって、インスタント袋麺はいつ食べるものですか?
おそらく多くの方が 「週末の昼ごはん」 や 「夜食」 を思い浮かべるのではないでしょうか。
明星食品の豊留 (とよとめ) 昭浩社長も自ら 「これまで休日の昼食というイメージが強かった」 と認めています。しかし、その常識に、明星食品が真正面から向き合いました。
背景にあるのは、コメ価格の高騰
2025 年に入ってコメの価格高騰が続いたことで、代替として即席麺を選ぶ動きが実際に起きています。
これを数字で裏付けるように、日経 POS データによると、明星食品の主力ブランドが属するカテゴリー 「即席袋中華そば」 の 1 ~ 8 月の販売金額は前年比 2.5% 増、個数は 3.4% 増と伸びています (参考情報) 。
3 つのブランドで 「主食麺シリーズ」 を展開
こうした流れを受けて、明星食品が 2025 年秋冬に打ち出したのが 「麺の明星 主食麺宣言!」 です。中心となるのは以下の 3 ブランドです。
- 麺神 (めがみ) — 「生めん風 3 層極太製法」 ともち小麦配合で実現した、もっちり食感の極太麺
- 中華三昧 — 本格中国料理店が監修したノンフライ麺。なめらかでスープとの絡みが抜群
- チャルメラ — 北海道産ホタテ 100% のエキスを麺にねり込んだ、麺自体においしさがある中細麺
主食麺を打ち出す訴求
「主食麺宣言」 では、明星食品は主食になる条件を 4 つの軸として明確に定義しています。
- 美味しさ — 毎日でも食べたくなる麺の品質
- 栄養 — 野菜やたんぱく質をプラスすることで 1 食が完結できる
- ボリューム — 食べ応えがあり、見た目にも満足感がある
- 価格 — 1 食 300 円前後というコスパの良さ
テレビ CM では俳優の仲野太賀さんが 「麺バサダー」 として登場し、「袋麺なんて、どこも一緒だと思ってません?」 と問いかけながら明星の麺クオリティを熱弁します。
主食麺宣言の特設サイトでは 「野菜たっぷりスタミナ麺神」 や 「親子丼風チャルメラ」 といった夕食向けアレンジレシピを公開。スーパーでの店頭リーフレット配布や、キッチンカーによる試食展開も実施しています。
利用シーンが変わると、マーケティングが変わる
では、明星食品の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
この事例でおもしろいのは、商品そのものを大きく変えたわけではなく、「使ってもらう場面」 を変えようとしている点です。
マーケティングを考えるとき、「何と比べて選ばれるか」 を決めるのは、スペックや価格に加え 「お客さんにどんな場面で使われるか」 です。
利用シーンが変わると、お客さんの文脈が変わる
同じ人が袋麺を食べるにしても、「昼ごはん」 と 「夕食」 では、状況もニーズも同じではありません。
昼ごはんなら 「手軽に済ませたい」 「一人でさっと食べたい」 というニーズが強いでしょう。でも夕食なら 「家族が満足できるか」 「栄養のバランスはどうか」 「食卓に出せるちゃんとした食事に見えるか」 という気持ちが加わります。
明星食品がスープの完成度だけでなく 「野菜や肉をたっぷり加えたレシピ」 を前面に出しているのは、こうした文脈の違いを踏まえているからです。夕食として食卓に出せる 「絵」 を見せることで、「これなら夕食になる」 という心理的なハードルを下げようとしているわけです。
また、外食で人気の麻辣湯 (マーラータン) をインスタントに落とし込んだ新商品 「中華三昧 重慶飯店 麻辣湯麺」 を新たに発売したのも同じ発想です。「外食で食べるような体験を、家庭の夕食で低コストに」 という夕食シーンへの価値提案です。この商品は当初の販売計画を上回って推移しているとのことです。
競合が変わる
お客さんの文脈が変わると、当然ながら 「誰と戦うか」 も変わってきます。
袋麺が 「昼ごはん」 として使われるとき、競合はカップ麺や冷凍うどんといった 「手軽な昼食」 全般です。しかし消費者が頭の中で 「夕食の主食」 として位置づけた瞬間、競合は主食としてのコメや麺だけではなく、メインのおかずなど 「夕食に何を食べるか」 という選択肢へと広がるのです。
競合はモノの種類では決まりません。利用シーンが同じかどうかで決まるのです。
選ばれる理由も変わる
夕食の主食という戦場での競合がコメになり、消費者がコメと比べたとき、袋麺の強みは何でしょうか。
- コストの安さ — 1 食 300 円前後で、家族分の食事が揃う
- 調理の手軽さ — 鍋一つで麺・スープ・具材が 1 杯に完結する
- バリエーション — 麻辣湯麺や酸辣湯麺など、外食で人気のメニューが家で楽しめる
これらは、カップ麺と比べる 「昼ごはん」 における競合では、さほど際立たないかもしれません。しかし 「夕食の主食」 という利用シーンに入ろうとすると、意味を持ち始める優位性です。
利用シーンが決まることにより、何と戦うか、どんな価値を届けるか、なぜ選ばれるのか—— この 3 つが連動して決まっていくのです。
この構造は、あらゆる業界で起き得る
ここまで見てきた 「利用シーンが変われば、モノが違っても競合になる」 という構造は、袋麺に限った話ではありません。
コンビニが 「缶コーヒーの代替」 から 「カフェの代替」 へとポジションを変えていった流れ、金属製の建設資材を軽量な樹脂製品が代替しようとする動き——。どれも利用シーン (= 使われる場面) が変われば、これまでとは争っていなかった環境に身を置くことになります。
新しい利用シーンに入ることは、そのまま新しい市場への参入を意味します。しかもその市場では、従来の同業種との戦いとは異なる土俵で勝負することになり、既存の競争とは別の顧客文脈に対して、競合にはない独自の価値によって差異化を図ることが大事です。
まとめ
明星食品の 「主食麺宣言」 の事例を取り上げ、自社商品の利用シーンを変えると、マーケティングのあらゆる要素が変わることへの示唆を掘り下げました。
学びのポイントをまとめておきます。
- 利用シーンが変わると、お客さんの置かれた状況・心理・期待する価値が変わる。同じ商品でも、使われる文脈によって求められるものが異なる
- 連動して、競合として意識される商品・サービスも変わる。モノが異なっていても、同じ場面で使われるなら競合関係になる
- さらに、競合との比較における自社の強みと、選ばれる理由が変わる。強みは固定されたものではなく、どの場面で使われるかによって意味が決まる
- 新しい利用シーンへの参入は、新しい市場の開拓でもある。同業種との価格競争とは異なる土俵で勝負できる可能性がある
- マーケティングの役割は 「誰のどんな場面と文脈でいかに選ばれる存在になるか」 を設計し、実現すること。戦う場所・お客さんの文脈とニーズ・競合・選ばれる理由は、お客さん利用シーンを起点に連動して決まっていく