
ロングテールやフリーミアムの概念を提唱したのはクリス・アンダーソンです。クリス・アンダーソンが次に注目しているのが 「ものづくり革命」 です。
ものづくり革命を紹介する本
Web の世界で起こった革命がモノづくりでも起こる、と言います。
関連する以前のエントリーはこちらです。
「MAKERS」 書評:Web世界で起こった革命がモノづくりでも起こる未来は明るいのか?
クリス・アンダーソンの著書 MAKERS - 21世紀の産業革命が始まる は概念の説明が主でしたが、FabLife - デジタルファブリケーションから生まれる 「つくりかたの未来」 という本は、事例が中心です。MIT メディアラボの人気授業 「 (ほぼ) なんでもつくる方法」 体験記、世界各地のファブラボの活動など、ムーブメントの最前線が紹介されています。
ファブラボの4つの進化構想
Fablife という本が興味深いのは、未来のものづくりの進化構想について書かれているからでした。
本書のキーワードは 「ファブラボ」 です。ファブラボとは、デジタル工作機械をシェアし実際に顔をあわせてつくるための知識・スキルの交換・共有を行なう工房のことです。
このファブラボの進化構想の段階として、1.0 から 4.0 までの四段階があります。
- ファブラボ 1.0:現在、取り組まれている 3D プリンタなどからものをつくる。素材があり、自分たちで加工しつくる
- ファブラボ 2.0:2.0 では 3D プリンタなどの工作機械そのものを自分たちでつくれる段階 (1.0 では 3D プリンタなどは市販のものを買う) 。ファブラボは工作機械を使う場所から工作機械をつくる場所へ
- ファブラボ 3.0:つくったものの分解・組み立てができる。つくったものでも不要になれば自分たちで簡単に分解し部品に戻す。部品から、他のものにまた組み立てられるようになる。本書では 「人工物の循環」 と呼んでいる
- ファブラボ 4.0:
- もの自身が自律的に動き自らを変形させ 、分解し、組み立てるようになる
- ものを構成する最小単位にコンピューターと動力装置 (アクチュエーター) が組み込まれて実現される。ブログラムできる物質 (Program Matter) とも呼ばれる
- 人工物が知能と駆動系を持つことでまるで生物のようになる
ファブラボ 4.0 とは
興味深いと思ったのは、最後のファブラボ 4.0 です。
生物のような人工物とはどのようなものなのでしょうか。
イメージしやすいのは人工物が自らの色や形を、自らの意思で変えることです。カメレオンのように、建造物が景観に合わせて自ら変わります。完全に自らの意思ではなくとも、人の指示により色を変えることができます。車であれば通常は白色、日によっては黒や青になります。
色が変わる以上にインパクトがあるのは、形状そのものが変わることです。自動車を例に取れば、乗車人数に合わせて軽自動車サイズから、SUV に自由に変えられます。
走行する道路に合わせて、普通車からスポーツカータイプ、オフロードでは 4WD になります。人間が変更するようにコントロールできたり、車が自らの判断で変わることもできます。
形が物体自らの意思で変えられることが何を意味するかと言うと、自己修復や再生ができるということです。
人間は怪我をしても、ある程度の損傷であれば細胞が再生し、一定時間後に元通りの身体になります。ひざを擦りむいても放っておいたらかさぶたを経ていつの間にか傷が治ります。
このようにファブラボ 4.0 であれば、モノでも多少の損傷や故障であれば自らの判断で直せるようになります。もし自己回復できない損傷であれば死を迎えます。
以上が、「人工物が生物のようになる」 ということです。
表面的には損傷がわからないようなレベルでも、私たちが新陳代謝を経て日々細胞が新しく生まれ変わるように、物体も人間には見えない範囲で時々刻々で構成要素を新しくできるようになるかもしれません。
プログラムのバグで人間でいう悪性ガンが出現し、物体に悪影響を及ぼす構成要素が突然変異で生まれることが起こるかもしれません。
最後に
ファブラボの進化構想で説明された4つの段階で、3.0 までは容易にイメージができました。
4.0 は上記で見たように、3.0 までとは別次元の世界です。知能と動力を与えられたモノがあたかも生物のように振る舞います。
そもそも技術的に実現可能かもあるし、仮にできたとしてそれは社会に受け入れられるのでしょうか。技術の議論よりも、生物とは何か、人間とは何かという倫理的な議論を呼びそうです。
FabLife という本に書かれていたファブラボの進化構想は考えさせられることが多く、興味深く読めました。