
IT ビジネスの原理 は、タイトル通り、IT やネットの世界の根本部分がまとまっている本です。
難しいことを複雑に説明することはできても、難しいことをわかりやすく簡単に表現し、かつ本質を捉えることはなかなかできることではありません。
この本では、著者の尾原さんが、根本を平易な書き方で説明されていて、IT ビジネスの原理がよく理解できます。
ハイコンテクストがキーワード
本書のキーワードの一つがハイコンテクストです。おそらく尾原さんが最も言いたかったことです。前職のグーグルを辞め、アマゾンではなく楽天に転職された理由でもあります。
ハイコンテクスト (high context) の意味は 「文脈や背景を高いレベルで共有できていること」 です。
例えば、家族や仲の良い友人、共通の趣味を持っている同士では、ハイコンテクストなコミュニケーションが成り立ちます。「これヤバくない?」 「そうそう、マジやばい」 のような会話でも、お互いが相手の言わんとすることをほぼ理解しています。
なぜなら、会話の背景やこれまでの文脈の共通理解があるからです。「これ」 が何を指しているか理解し、「ヤバい」 の使い方に齟齬はないでしょう。
もし、文脈を理解していない同士であれば、もっと背景や感情、考えを丁寧に説明する必要があります。「この最近発売されたアイスの新しい味を食べてみたんだけど、他の味に比べて自分に合っていて、自分が予想した以上においしかったよ」 「そうそう、私も先日同じ味のアイスを食べてみて、本当においしいと思ったよ」 という会話です。
このようなローコンテクストな関係だと、前提や背景を詳細に伝えないとコミュニケーションが成立しないのです。
ブランディング広告とダイレクトレスポンス広告
日本のインターネット広告で今後さらにネット広告市場が大きくなるかどうかのポイントの1つは、ブランディング広告が浸透するかです。
ブランディング広告とは、その広告によって消費者が持つ商品やサービスへの認知、イメージ向上、興味喚起、購入意向、実際の購入に結びつけるような広告です。
これまでのネットの広告は、いかに広告をクリックしてもらうかが大事とされました。これをダイレクトレスポンス広告と言います。課金指標や目標達成指標はクリック数でした。だから、例えばバナー広告は、いかに目立たせるか、そしてクリックしてもらうかという方向性でつくられていました。
一方のブランディング広告は、その広告がクリックされるよりも、広告を見てもらった人にいかにポジティブな印象を残せるかに焦点を合わせます。表現方法も、クリック重視のつくりとは一線を画すものです。
ブランディング広告とハイコンテクスト
IT ビジネスの原理 を読んで思ったのは、ブランディング広告は、ハイコンテクストな世界を目指すものではということです。
その商品やサービス、あるいはブランドが目指す世界に、消費者にも共感してもらうためには、ある程度の文脈や背景を共有していないと難しいように思うからです。
ダイレクトレスポンス広告は、「この最近発売されたアイスの新しい味を食べてみたら、他の味に比べて、あなた好みでおいしいですよ」 とわかりやすく訴求して、その場でクリックをしてもらうものです。クリック重視の広告です。
一方のブランディング広告は、相手と共通の文脈があるので 「これヤバくない?」 と言うだけに留めるものです。あるいは、「これヤバくない?」 と言うだけでわかってもらえるくらいのハイコンテクストな関係性を築くことを目指すことです。
先ほど、日本のネット広告においてブランディング広告が浸透するかと書きました。別の表現をすれば、ハイコンテクストなネット広告が普及するかです。
最後に
ローコンテクストとハイコンテクストのどちらが優れているかの優劣はありません。どちらも存在し共存するものです。
だからこそ、ネット広告においては、コンテクストがハイなのかローなのかを意識して、広告によって何を目指すのかをはっきりさせる設計が大事です。