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Facebook が動画広告効果調査を発表 (2015年3月) 。興味深い結果と発表スタンスへの疑問




フェイスブックと調査会社ニールセンが共同で、フェイスブック動画広告の効果測定調査を実施しました。結果は以下で発表されています (2015年3月) 。

The Value of Video for Brands | Facebook for Business


調査手法


調査の方法は以下の通りです。

  • 調査対象の動画広告は 173 本
  • 対象の広告を見せる接触者グループ (Exposed group) と、対照群の非接触者グループ (Control group) を比較
  • 広告に効果があったかどうかの評価指標は3つ
    • 広告想起 (Ad recall) 
    • ブランド認知 (Brand awareness) 
    • 購入意向 (Purchase intent)
  • さらに、動画広告の視聴時間長さによって、広告効果の違いを分析
  • 2014年12月 - 2015年2月に実施 (参考: この調査についてのインタビュー記事)


要注意: 発表は3つの指標全てで効果があった広告のみ


調査対象の動画広告について、注意点があります。

発表ページには書かれていなかったのですが、この調査へのインタビュー記事には、次のように言及されていました。3つの指標 (広告想起・ブランド認知・購入意向) を見たのは、3つともで有意な増加があった動画広告に絞ったとのことです。

Since we wanted to understand successful campaigns, we then filtered the selected studies for those campaigns that had lift across Ad Recall, Brand Awareness and Purchase Consideration; for example, we used only studies with statistically significant lift in Brand Awareness for the Brand Awareness portion of our analysis.

つまり、結果で発表されたのは、対象とした 173 本の全ての広告における結果ではなく、173 本の中から結果が良かったもの (statistically significant lift: 統計的に有意なアップリフト) のみなのです。この点は注意が必要です。

重要な前提にもかかわらず、発表のページにはその点が全く触れられていません。少なくとも結果が 173 本の全てではなく、広告効果があったものに絞ったことは書くべきです。そして、173 本のうち、対象とした有意に増加した広告が何本あったかの言及も必要でしょう。

この前提情報がない発表は、読み手にミスリードを招きます。誠実な調査発表結果とは言えません。


調査手法の補足: 広告視聴時間での非接触者グループの扱い


調査結果をご紹介します。動画広告を見た時間 (秒数) によって、広告効果に違いがあったかどうかです。

調査手法に補足があります。比較方法についてです。

この調査は、動画広告を接触させる接触者グループ (exposed group) と、比較対照の非接触者グループ (control group) を構築する設計です。広告視聴時間まで分解して見る場合、接触者グループと非接触者グループも同じ視聴時間の人同士で比べる必要があります。

ここで問題になるのは、非接触者グループの人の視聴時間をどう割り出すかです。なぜなら、非接触者グループは広告に接触しない人たちなので、そもそもとして対象広告を何秒見るかがわかりません。

フェイスブックとニールセンが工夫したのは、非接触者グループの人たちが 「仮に調査対象広告を見たとすれば、何秒見たであろうか」 をモデルから予測したことです。

例えば、A さんは 5 秒見るであろう人、B さんは 25 秒見るであろうと予測し、A さんを、接触者の 5 秒広告視聴者グループとの比較対照として 「5 秒 非接触者グループ」 と扱ったのです。

なお予測モデルには、各ユーザーのフェイスブック上のデータを使ったとのことです (参考: 上記インタビュー記事) 。このモデルがどこまで精緻なのかは気になりますが、これ以上は公開情報からは判断のしようがないのも事実です。

ここからは、広告視聴時間ごとの広告効果を比較するために、広告視聴秒数ごとの接触者グループ と 非接触者グループが、正しく作られている (Apple to Apple) という前提で見ていきます。


調査結果: 動画広告を見た時間長さ (秒数) による広告効果の違い


動画広告を見た時間長さ (秒数) による広告効果の違いの結果です。以下のグラフのようになりました。

グラフは左から、広告想起・ブランド認知・購入意向のアップリフトです。緑がアップリフトで、緑の上下にある線はエラーバー (統計的な誤差) です。


引用:The Value of Video for Brands | Facebook for Business


以下のような興味深い結果が出ています。

  • 広告想起 (Ad recall) :
    • 動画広告を長く見るほど、アップリフトが高くなる (緑のグラフが増加傾向) 
    • わずかな時間の動画広告接触でも 15% 程度のアップリフトが見られ (他の2つに比べて緑線のスタート地点が高い) 
  • ブランド認知 (Brand awareness) : 15 秒程度までは増加しているが、15 秒以上はアップリフトはほぼ同水準
  • 購入意向 (Purchase intent) : 他の 2 つに比べ視聴時間長さによるアップリフトの違いは少ない

次に、以下のグラフは、広告効果が確認できた人を 100 とし、x 軸の秒数だけ動画広告を見た人が広告を見た人全体の中で何 % いたかを表しています。


引用:The Value of Video for Brands | Facebook for Business


グラフの見方を一番左の広告想起 (Ad recall) で説明します。

グラフでは x 軸が 3 秒のところで 47% がハイライトされています。これは、広告を 3 秒以内までしか見なかったのは、広告効果があった人のうちの 47% (半分弱) いたということです。x 軸を10 秒以内に拡げると、広告効果があった人の 74% (4 人のうち 3 人) まで増えます。

フェイスブックが使っていた表現をすると、10 秒以内で広告想起の効果の 74% に寄与した、となります。

興味深いのは、横軸 x (視聴時間) が増えるごとに y はまず急激に大きくなり、視聴秒数が大きくなるほどグラフはなだらかな増加を示しています。グラフの形状が y = x^1/2 のような増え方です。

個人的には、y = x^2 のような指数関数、もしくは、ある点がティッピングポイントで急激に増加し、その後にまた増加が鈍化する S 字を寝かせたようなカーブを描くのではと思っていました。

広告視聴が 3 秒以内で、ブランド認知に効果があったのは効果があった人全体の 32% 、購入意向では 44% だったあったようです。10 秒では、広告想起・ブランド認知・購入意向のそれぞれのうち、いずれも7割前後の人が該当しました。


動画広告を何秒まで見せるとよいか?への示唆


では、動画広告を最低何秒を見てもらうと効果が期待できるでしょうか。

1つ目のグラフ (下記に再掲) と併せて考えると、30 秒動画広告であれば 1/3 に相当する 10 秒は見てもらうべきと言えます。10 秒以内に、広告内で言いたいメッセージを入れるとよいでしょう。

また、動画広告の最初の 3 秒から 5 秒で、いかに視聴者の関心を惹きつけられるか (アテンション) も大事であると、フェイスブックの調査結果は示唆しています。


引用:The Value of Video for Brands | Facebook for Business


所感 1: 発表姿勢への疑問


最後に、調査手法および結果について所感です。

1つ目は、結果が統計的な有意があった広告のみを発表している姿勢は疑問です。

この前提を知る前に発表結果を見た段階では、広告想起・ブランド認知・購入意向の 3 つ全ての指標で広告効果が見られたことは注目に値すると思いました。特に、興味深かったのは、購入意向まで効果が見られた点です。

というのも、一般的には 「広告想起 → ブランド認知 → 購入意向」 とファネルが深くなる分、広告からその商品やサービスを買いたいと思う態度変容が起こすのは簡単ではないからです。

私自身も、業務でフェイスブックの調査と同じような広告効果測定調査の経験があります。広告想起やブランド認知まではアップリフトがあっても、態度変容の深い指標である購入意向までは広告効果が見られないケースが多くありました。だからこそ、フェイスブックの動画広告効果測定調査で、購入意向まで効果が見られたことは驚きでした。

しかし、購入意向が上がった結果であったのは、そもそもとして 173 本のキャンペーン広告から、増加したものだけに絞られていたからでした。3つの指標で有意にアップリフトがあったことは当たり前、という話です。


所感 2: さらに知りたいこと


知りたいと思うのは、173 本のうち、購入意向まで効果があったのは何本あったのかです。購入意向と効果ありか無しにはどういった違いが傾向として見られるかです。

あるいは、同じ動画素材でも、広告を出す場所 (メディア) の違いで広告効果に差が出るのかも興味深い分析視点です。

例えば、同じ動画広告でも、広告フォーマットの違いにより広告効果 (ブランドインパクト) に違いがあるかというリサーチができれば、興味があります。例えば、以下のようなフォーマット間の効果の違いです。

  • フィード内自動再生広告 (フェイスブック動画広告) 
  • プレロール動画広告 (YouTube の TrueView 広告)
  • Web 上のバナー面やコンテンツ内に表示される自動再生動画広告

購入意向などの広告効果 (ブランドインパクト) に寄与する要因として、クリエイティブとメディアのそれぞれの要因でどうなるのかです。これらを深掘りした結果が知りたいと思いました。

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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。