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誰が音楽をタダにした? - 巨大産業をぶっ潰した男たち という本をご紹介します。
エントリー内容です。
- 本書の内容。なぜ音楽はタダになったのか?
- 音楽産業の今後
- 本書がおもしろく読める視点 (3つ)
本書の内容
以下は本書の内容紹介からの引用です。
田舎の工場で発売前の CD を盗んでいた労働者、mp3 を発明したオタク技術者、業界を牛耳る大手レコード会社の CEO 。
CD が売れない時代を作った張本人たちの強欲と悪知恵、才能と友情の物語がいま明らかになる。誰も語ろうとしなかった群像ノンフィクション。
なぜ音楽はタダになったのか?
この本では、CD が売れなくなり音楽は無料になっていった経緯が、ノンフィクション小説として詳細に書かれています。
ネットには自分の聞きたい曲はほぼ全てあり、無料で簡単に手に入ります。わざわざお金を出して CD を買う必要はなくなってしまいました。著作権のない違法コピーされた曲 (海賊版) です。
海賊版の音楽が出回り、音楽が無料になった要因をまとめると次の通りです。
- ネットの普及。通信速度が向上し、音楽ファイルのアップロードとダウンロードがしやすくなった
- 音楽ファイルの圧縮技術 mp3 が発明された。CD という物理的な音楽保存媒体が不要になり、音楽はデータファイルのままコピーや保存が可能に
- 音楽ファイル保存先として、サーバーやハードディスク容量が増加、価格は低下
- 音楽レーベル会社の寡占化。CD 生産工場も集約された。1つの工場に有名アーティストやヒット曲が集まり、工場から発売前の CD が盗まれ海賊版としてリークされた
- 海賊版違法リーク組織が巨大化し、高度に組織化
この本には小説の形式で、音楽産業が転換点を迎えた経緯が書かれています。主要なプレイヤーは4者です。
- 音声圧縮技術である mp3 の開発者
- 世界的な大手音楽レーベルの CEO
- 工場から CD を盗み続けた工場労働者、音楽や映画などの海賊版違法リーク組織
- 違法組織を取り締まる FBI などの操作担当者
大きな歴史的な流れで、音楽はレコードや CD などの物理媒体に保存されて流通するものから、音楽ファイルとしてデータでやりとりされるものになったトレンドがあります。
音楽が CD などの物理メディアから、音楽ファイルデータでハードディスクやパソコンに保存されるものになったとしても、音楽自体の価値は変わらないはずです。音楽データを手に入れるために、mp3 にフォーマットが変わっても、本来なら CD 等と同様に音楽への対価が支払われるべきでした。
しかし、違法な海賊版の音楽が普及してしまい、音楽はタダで手に入るものになってしまったのです。
音楽産業の今後
本書を読みながら、これからの音楽産業はどうなっていくのかを考えさせられました。
音楽のマネタイズは、以下の5つがあります。
- 音楽そのものを販売。iTunes などから売ったり、CD 販売
- 広告モデル。YouTube や Vimeo など
- サブスクリプション。Spotify、Amazon Music など
- ライブ開催、グッズ等の関連販売
- 著作権による収益
1人のユーザーとして自分自身の状況を見た時に、1990年代後半は、CD のシングル版は1000円、CD アルバムは3000円で、年間に複数枚を買っていました。しかし今は、音楽メディアにお金は払っていません。日本で年間に最も CD が売れた1998年に比べ、上記の5つを全て合わせても、当時と同じだけの金額を支払っていない現実があります。
音楽ストリーミングサービスが定着したとしても、月額で980円程度の価格水準であり、CD シングル1枚分の金額です。その値段で聴き放題なのです。
音楽を日常的に聴くことはこれからも変わりませんが、マーケットを考えた時に今後の音楽産業がどうなっていくのかは興味深いです。
本書がおもしろく読める視点
この本を興味深く読める視点は他にもあります。
人間の欲望
1つめは、音楽を海賊版としてリークする登場人物の行動や心情に見る人間の欲望です。CD が発売される前に収録曲や最新曲をリークすることは、本来は 「手段」 です。
CD 生産工場から CD を盗み、リークをした主人公の一人は、当初は金儲けのためにやっていました。しかし、いつからかリークをすること自体が目的化したような印象を読んでいて受けました。
音楽技術の歴史
2つめは、mp3 という音声圧縮技術およびファイルフォーマットの開発の歴史を詳しく知ることができる点です。
当時、mp3 と mp2 という規格が標準規格となるために激しい競争が繰り広げられていました。技術的な優劣だけではなく、政治的な働きかけも加わり、開発や関わった人たちがどのような状況だったかをリアルに知ることができます。
著者の丹念な取材や情報収集
3つめは、著者であるスティーヴン・ウィットのジャーナリストとしての活動、特に調査や取材にどれだけの労力と時間をかけたかを、読んでいて垣間見ることできることです。
名前が出てくるインタビュー対象者の人数、訪れた国々のリスト、そのために確認した文書など、膨大な情報から小説が書かれたことがわかります。以下は本書の最後に書かれていた 「情報源の注意書き」 からの引用です。
その昔ある探偵が僕に調査のコツを教えてくれた。「まずは文書から。それを当人のところに持って行って話を聞く。その人が別の文書のことを教えてくれる。聞く人と文書がなくなるまで、それを繰り返す」
僕は、この本にも書いたオンライン雑誌のアフィニティに載ったインタビューから始めて、それから4年間このプロセスを繰り返し、何万枚ものページをめくり、何十人もの人に会った。
(引用:誰が音楽をタダにした? - 巨大産業をぶっ潰した男たち)