今回は、マーケティングリサーチと AI についてです。
この記事でわかること
- 世界初の 「AI クローンアンケート」 の衝撃
- インターネット調査に匹敵するパラダイムシフト
- AI クローンができそうなこと・難しいこと
今回の記事は、Nulltitude という 「AI クローンアンケート」 リリースのニュースからです。
とても興味深いと思ったので、可能性や何を意味するかなどの考えさせられたことを書いています。
AI クローンアンケート
あるリリース記事を見ました。
オルツ、世界初の AI クローンアンケート 「Nulltitude」 をアルファテスト公開 (2020年6月24日)
引用: オルツ
Nulltitude についての詳細はこちらです。
リリース内容をまとめると、次のようになります。
✓ Nulltitude (アルファテスト版)
- 人間個人の AI クローン群がアンケート調査に回答する 「AI クローンアンケートシステム」
- 人間の思考や個性の特徴量を抽出するモデリングエンジンが、実際の人間のライフログを学習素材に思考のクローンを生成
- AI クローンが本人に代わってアンケートに回答。元の人間の思考を反映した回答が得られる。複数 AI クローンに実施し集計を取り調査実施者に返す
- 人へのアンケート調査に比べ、コストは最大約100分の1、時間は約4万分の1
- 得られた収益は AI クローンのモデルを抽出した個人に分配還元
肝は、2つ目です。
「人間の思考や個性の特徴量を抽出するモデリングエンジンが、実際の人間のライフログを学習素材としてその思考のクローンを生成」 が、どこまでできるかです。
では、AI クローンによるアンケート回答が機能するなら、それは何を意味するのかをもう少し掘り下げてみます。
マーケティングリサーチのパラダイムシフト
かつてマーケティングリサーチは、郵送や訪問が中心だった時代からインターネット調査が普及し大きな変化を起こしました。
ネット調査に対するアンケート回答のデータ品質への議論は続きましたが、何よりもアンケート回収までのスピードとコストで従来の調査方法よりも圧倒的に優れていたからです。
インターネットが、マーケティングリサーチ業界にもイノベーションを起こしました。
そして、今回の AI クローンのアンケート回答です。
人ではなく AI クローンが人の代わりにアンケート回答する世界が未来の当たり前になれば、ネット調査の登場に匹敵するパラダイムシフトです。
AI クローンのアンケート回答の可能性
直感的な感想でしかありませんが、AI クローンが機能するのは設問に対する自由回答です。一方のアンケート回答を表示された選択肢から選ぶ形式は、まだハードルが高そうです。
AI クローンの回答傾向が、以下のリサーチでどうなるかは興味深いです。
✓ AI クローンのアンケート回答の可能性
- 機会発見
- コンセプト評価
- クリエイティブ調査
- 購買意向診断
- 広告効果測定
- 顧客満足度調査
- ブランド診断・ロイヤルティ調査
- BtoB 調査 (AI クローンが toB 調査回答者の役割も果たせるか)
2020年現在は、定量アンケートの主流はインターネット調査です。より深く知るためには、インタビューや訪問観察調査などの定性調査が残っています。
AI クローンが機能し、本人 (人間) になり代わって調査を答えるやり方が成立すれば、いずれは AI クローンによるアンケート回答が主流になっていくでしょう。
ただし、全てがAI クローンが代替するのではなく一部は人間本人が調査対象者になるでしょう。目的に沿って最適化されると考えます。
AI クローンの時系列分析 (やってみたいこと)
AI クローンができればやってみたいと思うのは、同一人物の過去の複数 AI クローンを使った時系列分析です。
過去の AI クローンを保存しておき、ライフステージの変化によって人の行動思考、価値観はどのように変わったかを、AI クローン回答の時系列を見ることによって分析をします。
例えば、同一人物の5年前のAI クローンと今のクローンに同じ調査をします。5年前クローンの回答と現在クローンの回答を比較すれば、その違いから人間本人も気づいていなかった行動や思考の違いが分かります。
対象者の実際のライフイベントと重ね合わせ、何がきっかけで、価値観・思考・行動が変わったのか。それによって、同じライフイベントをこれから迎える人へのマーケティングが、より的確にできるようになります。
このように AI クローンからのマーケティングリサーチには、今までできなかった生活者理解が期待できます。
* * *
AI クローン代替の考察を、もう少し続けます。
AI クローンと消費者インサイト
AI とは、元の学習データによって学習した領域のみ機能します。
裏を返せば、AI のための学習データがつくれない領域は対象外になります。
アンケート回答をさせる AI クローンに当てはめれば、元の人間の本人自身も自覚できていないような奥にある気持ち、マーケティングでは 「消費者インサイト」 と呼ばれるものです。
消費者インサイトを見い出せるかどうかは、マーケターにとって重要な能力です。
消費者インサイトという心の琴線に触れるような訴求ができれば、買ってくれるなどの行動、時には習慣すらも変わることがあります。
しかし、顧客インサイトは普段の生活では、消費者自身も意識できていません。しかしそうだと気づかされれば、初めて表に出てくる奥にある感情だからです。
この領域を学習データにし、AI クローンにすることは簡単ではないでしょう。
AI クローンがまずできることは、人間本人が意識できている・言語化できている顕在的な領域からです。
まとめ
今回は、AI クローンがアンケートに答えるという Nulltitude を取り上げました。
最後に今回のまとめです。
AI クローンアンケートの登場
- 世界初の AI クローンアンケート 「Nulltitude」 をアルファテスト公開
- 人間個人の AI クローン群がアンケート調査に回答する AI クローンアンケートシステム
パラダイムシフト
- かつて、インターネットが、マーケティングリサーチ業界にもイノベーションを起こした
- 人ではなく AI クローンが人の代わりにアンケート回答する世界が未来の当たり前になれば、ネット調査の登場に匹敵するパラダイムシフト
ライフステージ時系列の変容分析
- AI クローンができればやってみたいのは、同一人物の過去からの複数 AI クローンを使った時系列分析
- 過去の AI クローンを保存しておき、ライフステージの変化によって人の行動思考、価値観の変容を分析する
消費者インサイト抽出の可能性
- AI クローンが、消費者インサイトのような 「クローン元の本人も自覚できていない奥にある気持ち」 を掘り下げる調査までできるかは興味深い
- いずれ代替する可能性はある