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20年前のボールペンが人気に。「マーケティングとは知覚をめぐる戦いである」 のまさにの事例


今回は、マーケティングでの 「知覚 (パーセプション) 」 について、事例から解説します。

✓ この記事でわかること
  • 20年前のボールペンに再脚光
  • マーケティングとは知覚をめぐる戦いである
  • 商品そのものは変わらなくても、知覚が変われば人々の 「良い商品」 の定義が変わる
  • 学べること

おもしろいと思ったヒット商品の事例を取り上げ、人気の理由を掘り下げています。そこから、マーケティングに学べることを見ていきましょう。

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

20年前のボールペンが人気に


日経クロストレンドのある記事を読みました。

 "20年前のボールペン" に再脚光! フェーズフリーが変える売り方|日経クロストレンド

アスクルの商品開発の裏側に迫る連載記事です。

フェーズフリーとは


近年注目を集める、新しい防災の概念 「フェーズフリー」 に着目した商品開発の話がおもしろかったです。

フェーズフリーとは、平常時と災害時という社会のフェーズを取り払い、普段使用している商品やサービスが災害時にも役立ち、かつ安全を守るという概念です。

記事ではフェーズフリーという切り口から、災害時にも使える様々な人気商品が紹介されています。

加圧ボールペンの 「パワータンク」 に再脚光


中でも興味深かったのは、三菱鉛筆の加圧ボールペン 「パワータンク」 のケースでした。

出典: 三菱鉛筆

パワータンクの特徴は、上向きで書けたり、ぬれた紙や氷点下の環境でも書けることです。

以下は記事からの引用です。

フェーズフリー化でヒットにつながった象徴的な商品が、三菱鉛筆の加圧ボールペン 「パワータンク」 だ。

一般的なボールペンは重力でインクを上から下に落とすため、逆さ向きでは書きづらい。だが、同商品はインクを圧縮空気で押し出すため、ペンの向きにかかわらず筆記が可能だ。また、ぬれた紙の上で書けたり、氷点下でも書けたりと、フェーズフリーの条件を満たしていた。

 「20年以上前に発売された隠れたロングセラー商品だったが、近年は滑らかに書けるボールペンが主流となり、メインストリームから外れていた。しかし、フェーズフリーという軸を前面に押してアスクルのカタログに掲載したところ、売り上げが急激に伸長したという声をメーカーからいただいている」 (西原氏) 。

事実、アスクルではフェーズフリー商品としてカタログなどで訴求したタイミングで、販売が伸びるという現象も起きている。
* * *

マーケティングとは知覚をめぐる戦いである


だいぶ前の話ですが、売れるもマーケ 当たるもマーケ - マーケティング 22 の法則 という本を読んで強く印象に残っていることがあります。


今でもその時のことを覚えているのですが、次のような言葉でした。

Marketing is not a battle of products, it's a battle of perceptions.

マーケティングは商品の戦いではなく、パーセプション (知覚) をめぐる戦いであると。

ご紹介したペン 「パワータンク」 の事例は、まさにこの話です。


人々の 「良い商品」 の定義


パワータンクが再び脚光を浴びたことで興味深いのは、パワータンクという商品自体は20年前と変わっていないことです。ペンとしての機能やデザインは同じです。

フェーズフリーという新しい概念が注目され、フェーズフリーの観点からパワータンクが見直されました。つまり、商品は変わっていませんが、フェーズフリーによって人々の 「良いペンとは何か」 という認識が変わったわけです。「良い商品」 の定義が新しくアップデートされたのです

パワータンクは、「 Marketing is not a battle of products, it's a battle of perceptions. 」 が実際のマーケットでまさに起こったという事例です。


学べること


では最後に、パワータンクからマーケティングに学べることを整理してみましょう。

今回の 「マーケティングとは知覚をめぐる戦いである」 における知覚とは何でしょうか?

似たような表現を並べれば、ものの見方、切り口、着眼点、認識、価値観です。人は同じモノに対しても見る視点が変われば、価値への捉え方が変わります。人々のパーセプション (知覚) の変化により、極端な話として、今まで弱みだったことが一転して強みになることもあるのです。

パワータンクがそうでした。昨今の主流だった滑らかに書けるボールペンと比べれば、パワータンクの書き心地は劣っていました。しかし、災害時にも使えるというフェーズフリーからの視点では、パワータンクは 「良いペン」 や 「買いたくなるペン」 になったわけです。

マーケターとして覚えておきたいのは、「マーケティングとは知覚をめぐる戦いである」 です。自社の商品そのものは所与として変えられなくても、お客さんからの認識を変えて勝負に勝つことがマーケティングの役割です。


まとめ


今回は、フェーズフリーの概念によって再び脚光を浴びたボールペン 「パワータンク」 から、マーケティングに学べることを見てきました。

最後にまとめです。

マーケティングとは知覚をめぐる戦い
  • Marketing is not a battle of products, it's a battle of perceptions.
  • 商品そのものは変わっていなくても、人々の知覚や価値観が変われば 「良い商品」 の定義が新しくアップデートされる
  • 今まで弱みだったことが一転して強みになることもある
  • 自社の商品は変えられなくても、お客さんの認識を変え、勝負に勝つことがマーケティングの役割



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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。