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ヒトの本能から広告を読み解ける本。広告のプロが語るインサイトからの広告コピーのつくり方

#マーケティング #広告 #本

マーケティングにおいて、ターゲット顧客の心の深いところにある 「ターゲットインサイト (深層心理) 」 をつかむことは、マーケティングの成功のカギを握ります。

では、お客さんの本能的なインサイトを見つけ出し、インサイトにどのようにアプローチすれば良いのでしょうか?

今回は、この問いに示唆を与えてくれる本をご紹介します。


こちらの本、「欲しい ほしい ホシイ - ヒトの本能から広告を読み解くと (小霜和也) 」 から、ターゲットのインサイトをどのように理解するか、さらに、商品の価値を高め、消費者の購入意欲を引き出す広告をいかにつくるかの具体的なポイントを解説します。

ぜひ、一緒に学びを深めていきましょう。

本書の概要



この本は、本能から広告を読み解いた1冊です。

認知、記憶、購買、言葉やコミュニケーション、マーケティングについて、人の本能とどう関係するかを興味深く読めます。

この本で貫かれているのは、広告表現は理性だけではなく、「人間の本能や無意識の働きも見据えて考えるべきである」 という考え方です。

ヒトの本能や心のメカニズムに立ち返り、人の 「それを欲しくなってしまう心理」 や 「買いたいと思ってしまう理由」 を解き明かしていくことで、マーケティングの特に広告に示唆を与えてくれる本です。

ターゲットインサイト


広告コミュニケーションによって、ターゲットとする相手のインサイトをいかに刺激できるかが大事です。

理性のみで書かれた言葉や、数字だけを根拠にマーケティング戦略を立てしまうと、間違った方針をはじき出してしまいかねません。人は自分では自覚できない本能の命令に突き動かされていることがあり、理性や数字では本能的なインサイトに刺さらないのです。

ターゲット顧客のインサイトは1つではなく複数あり、変わり続ける存在です。

たとえば、他人と同じ流行を追いかけたいと思う自分がいて、一方で個性を追求したいという自分もいます。よって、商品やサービスのターゲット顧客を見る時に、その人たちのインサイトはこれだと1つに決めるのは危ういです。

人を動かす広告をつくるために


では、広告についても詳しく見ていきましょう。

広告の役割

広告表現というと 「しゃれたキャッチコピー」 や 「笑える CM」 などのイメージが真っ先に思い浮かぶかもしれません。しかし、広告で重要なのはコミュニケーションという手段で広告商品に付加価値をつけることです。

広告から価値を高めることで、商品を認知してもらい、その記憶が、店頭で商品を見かけるなどのトリガーによって呼び起こされ、商品を買いたい気持ちを生み出し、購入につながるのです。

そして購入に結びつけるためには、相手の無意識の情動に訴えかけ 「買いたい」 という気持ちを高める、または、「買わないほうがいい」 という心理的な抵抗感を押さえ込むことを狙います。

広告コピーは 「圧縮ファイル」 である

広告コピーへのたとえを、広告コピーとは 「圧縮ファイル」 という捉え方がおもしろかったです。圧縮ファイルとは Zip ファイルなどです。

その心は、広告コピーとは 「様々な意味をひとつにまとめて伝える技法」 というものです。

具体的なコピー事例で圧縮ファイルのイメージを共有しますね。

サントリー天然水ウォーターサーバーの広告コピー


出典: np. LLC

サントリー天然水のウォーターサーバーの広告コピーに、「わが家は、南アルプスです。」 というものがありました。

このコピー (圧縮ファイル) の中に込められた意味は、

  • ウォーターサーバーの水を生活 「環境」 を作るものだと考える
  • 水や空気は人間にとって重要な生活環境。健康のために田舎に引越す人もいる
  • ウォーターサーバーは飲用としてだけでなく、料理や赤ちゃんのミルクにも使うもの
  • そんなウォーターサーバーの水を新しくするということは、生活環境を変えるに等しい
  • 「サントリー天然水サーバー」 を自宅に置くのは、いわば南アルプスに引越すようなもの
  • そこでコンセプトをコピーに言語化したのが 「わが家は、南アルプスです。」 


こうした意味合いが、わずか13文字の 「わが家は、南アルプスです。」 という広告コピーの中にぎゅっと詰まっていて、圧縮されているわけです。

受け手の生活者文脈で解凍

そして、送り手と受け手の共同作業により圧縮ファイルが解凍されます。解凍には、お互いの共通の文脈 (生活環境や時代環境) がカギを握ります。

生活者の人間心理や親心の中の奥には、こんな気持ちがあります。

 「南アルプスのような自然豊かな環境に、本当は住むのがいいのはわかっているけど、そうはいっても今の家から簡単に引っ越すことはできない。だからといって身体や生活環境を良くするのを諦めたくはない」 と。

この生活者文脈に対して、「わが家は、南アルプスです。」 という言葉とサントリー天然水のウォーターサーバーが提案されることで、自分ごと化された反応が起こります。受け手にも送り手と同じ課題感が共有されている共通文脈があるからこそ、圧縮ファイルは解凍できるのです。

また、解凍するという受け手の積極的な関与によって仲間意識や愛着が生まれます。

注意を引く広告

広告の主役は商品であり、広告内の全ての要素が商品に向かっていることが大事です。

広告商品がなければ、すなわち仮に広告の中から商品だけを取り除けば、広告のストーリーが成立しないようになっていることが重要です。

広告を見る相手が、広告について自分ごと化すると商品のことがインプットされやすいです。

情報の中に意図的につくった余白や未完成な部分があると、人はそれが気になるものです。自分で完成させたくなり注意が向いたり、自分で完成できると快感が得られるわけです。

広告コピーの書き方

広告コピーを書いていくときのプロセスは次の通りです。

  1. まず、商品とターゲットの接点を探す
  2. メタファーの着せ替えなどによって、商品だけでなくターゲットである生活者の無意識をも多角的に探りインサイトを発掘する。インサイトを言語化する
  3. ターゲットの生活環境や時代環境と言った共通認識にもとづき、商品とインサイトからコピーとして圧縮ファイルにし、受け手と共同作業で解凍できるカタチにする
  4. ビジュアルが伴うなら、広告コピーと合わさって意味をなすようにする。広告表現だけがひとり歩きしないよう注意し、商品と組み合わさって全体で広告からのメッセージとなるようにする

広告クリエイターとして大事なこと

広告表現を開発するクリエイターにとって、重要なのは広告商品を信じることです。商品のことを本気で好きになり、まず自分が最初のファンになるというわけです。

広告に限らないことですが、コミュニケーションで重要なのは送り手がどれだけ確信を持っているかです。その確信が受け手に非言語からの訴求となり、言葉の力が増します。

本書での 「人」 と 「ヒト」 の使い分け


この本を読み進めていくうちに、著者の小霜さんは 「人」 と 「ヒト」 の文字をあえて使い分けていることに気づきます。

漢字で書く 「人」 は、消費者や生活者を指す場合です。それに対してカタカナの 「ヒト」 は、人間の本能や無意識のことを語る文脈のときに使われます。

この本の副題は 「ヒトの本能から広告を読み解くと」 です。

副題の言わんとしていることを言語化してみると、「ヒト」 の本能に立ち戻ってヒトを理解し、「人」 を動かす広告は何かを考えるということです。これが本書の趣旨です。

まとめ


今回は、書籍 「欲しい ほしい ホシイ - ヒトの本能から広告を読み解くと (小霜和也) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ ターゲットインサイト
  • ターゲット顧客のインサイトを理解し刺激することは、広告コミュニケーションにおいて重要
  • 理性や数字だけではなく、本能に訴えかけるアプローチが効果的
  • 1つのインサイトにとどまらず、インサイトは変わる。1つのインサイトに決めつけるのは危うい

✓ 人を動かす広告をつくるために 1
  • 広告の役割は、商品を宣伝することによって広告商品の価値を高め、消費者の購買意欲を喚起すること
  • この過程で広告は商品の認知を高め、記憶されたイメージが消費者の購買行動を引き起こすトリガーとなる
  • 広告から感情に訴えかけることで購買意欲を高めるとともに、買わない理由の抵抗感を減少させることを目指す

✓ 人を動かす広告をつくるために 2
  • 効果的な広告コピーは 「圧縮ファイル」 として意味が凝縮され短い言葉にまとめられている
  • 圧縮ファイルを消費者が生活者文脈で 「解凍」 することにより、広告の意図を理解する
  • 広告は商品が主役であり、すべての要素が商品に集約されるように構成する
  • 消費者が広告から商品を自分事として受け取りやすくするために、情報の余白や未完成な部分をあえて設け、消費者が自らの思考の中で補完しやすいようにするといい


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。