#マーケティング #売り手と買い手の認識ギャップ #売り物・売り方・使い方
売り手は自社製品については熟知していると考えがちですが、実はお客さんは使いにくいと思っているかもしれません。
今回は、ヤマサ醤油の新商品 「ヤマサ ぱぱっとちゃんと これ!うま!!つゆ」 の開発事例を取り上げます。企業と顧客の隠れた “認識ギャップ” がビジネスチャンスに変わる瞬間を解き明かします。
ヤマサ ぱぱっとちゃんと これ!うま!!つゆ
ヤマサ醤油は1645年 (正保2年) に創業した千葉県銚子市に拠点を置く老舗企業です。
醤油の国内消費量が年々下がる中、2020年2月に発売された新カテゴリー調味料 「ヤマサ ぱぱっとちゃんと これ!うま!!つゆ」 が、発売以来4年連続で売上2桁増を記録するヒット商品となっています (参考記事) 。
検索ワードから生まれた 「これ!うま!!つゆ」
では、「ヤマサ ぱぱっとちゃんと これ!うま!!つゆ (以下、これ!うま!!つゆ) 」 の開発背景から見ていきましょう。
ヤマサ醤油は 「ヤマサ 昆布つゆ」 など、麺つゆ類の製品をたくさん扱っています。
あるとき、ヤマサ醤油は自社商品のユーザーがどのようなニーズを持っているのかを把握するために、レシピサイトの検索ワードを分析していました。「麺つゆ ◯◯」 と検索されているワードで、最も多かったのは、「麺つゆ 簡単」 だったそうです。カツ丼や親子丼などの料理名と思いきや、 ”簡単” というワードの組み合わせは予想外の結果でした。
ヤマサ醤油としては、麺つゆを使えば料理が簡単にできると、ここで思考が止まっていました。しかし消費者にとって麺つゆには消費者はさらなる簡単さを求めていて、検索ワードに反映されていたわけです。これが新商品開発のきっかけとなりました。
料理での使いやすさを工夫
開発する 「これ!うま!!つゆ」 は、従来の麺つゆへの不満点を解消することを目指しました。
不満とは、従来の麺つゆを使用すると、料理がすべて同じ味になってしまったり、料理の色が濃くなってしまうことです。
「これ!うま!!つゆ」 は淡い色の濃縮つゆとし、色鮮やかな料理を簡単に作れるようにしました。たとえば献立のすべてに使ったとしても、同じ味にならず、それぞれよさが引き立つ味に仕上がります。
料理を出されて食べる人は、作った人に 「これ全部、麺つゆで作ったでしょ」 とはなりにくいでしょう。
さらに 「これ!うま!!つゆ」 、きっちり計量しなくても使えるようになっています。つゆを入れすぎても、少なくても、味が決まります。普通の麺つゆは、入れすぎると味が濃く塩辛くなりますが、「これ!うま!!つゆ」 はそうなりません。
使ってもらうきっかけをつくる店頭施策
このような新しい商品は新しく売っていくためには、消費者にどんな商品なのか、どのように使えるのかを理解してもらう必要があります。
そこでヤマサ醤油は、小袋の試食品で消費者のトライアルを促し、商品の良さを体験してもらうアプローチをとりました。
小袋入りの試食品を作り、スーパーマーケットなどの小売店におすすめの調理レシピと一緒に、たとえば鶏肉などの食材に付けてもらい、「これ!うま!!つゆ」 を売ってもらいました。ヤマサ醤油は長年にわたり小袋入り調味料の製造を手掛けていたので、この施策をスムーズに実施することができました。
学べること
では 「ヤマサ ぱぱっとちゃんと これ!うま!!つゆ」 から、学べることを掘り下げていきましょう。
企業と消費者の認識ギャップ
当然と言えば当然ですが、作り手や売り手は自社製品のことがよくわかっています。
ここで強調したいのは、自社製品のことがむしろわかりすぎていることです。それがときとして、お客さんにとっての商品に関する不便さや不都合なところを把握しにくい要因になってしまいます。
ヤマサ醤油は、麺つゆの特徴を 「これだけでいろいろな料理に手軽に使えること」 だと捉えていました。
しかし消費者は、実際はそうは思っていませんでした。
検索レシピで 「麺つゆ 簡単」 という検索が最も多かったことからも、麺つゆを使ってどうすれば簡単にできるかをもっと知りたいと思っていました。逆に言えば、麺つゆだけがあっても簡単に料理をする方法を知らなかったり、情報がなかったということです。
驚きを起点に自ら洞察し発見
ヤマサ醤油はこうした状況に気づきました。レシピサイトでの検索キーワードを分析し、洞察から消費者が感じている不便さを見出したのです。
最も多い検索キーワードが 「麺つゆ 簡単」 だったことに驚き、それを入口に掘り下げていくことによって、自分たち売り手と買い手の認識ギャップを発見しました。
そこで、もっと麺つゆを使って簡単に調理ができないかを検討した結果生まれたのが、ヤマサ醤油にとっては新カテゴリーの調味料 「ヤマサ ぱぱっとちゃんと これ!うま!!つゆ」 という新商品でした。
使いやすくする工夫
実際に料理に使うときに、使いやすくしている点も注目に値します。
もし献立のすべてを 「ヤマサ ぱぱっとちゃんと これ!うま!!つゆ」 で作ったとしても、同じ味にならず、それぞれのメニューのよさが引き立つ味に仕上がるようになっています。料理を食べる人からは 「これ全部麺つゆで作った」 とは思われないので、作る側にとって自信を持って料理を出せます。
さらに 「これ!うま!!つゆ」 は、使い過ぎても味が調整されるというのも使いやすいポイントです。きっちり計量しなくても使えるので、麺つゆを入れすぎても、少なくても、味が決まるという使い手にとってフレンドリーな商品です。
購入ハードルを下げる店頭展開
もう1つ注目したいのは、新商品の店頭展開です。商品を小分けにして、野菜や鶏肉などの食材とセットにして売場に並べました。
それまでの麺つゆ商品とは違うものを新たに作ったとしても、ただそれだけでは消費者には今までと何が異なるのか、具体的に調理にどのように使うかはわからないでしょう。消費者に伝わなければ、お店で手に取って買ってもらえることはありません。
売り物・売り方・使い方の連動
そこでヤマサ醤油は、それまでの他の小袋製品を扱ってきたノウハウを活かしました。お試し商品のようなトライアルがしやすい売り方を小売と協力をして実現したのです。
小袋にすることで、消費者にとっては買うハードルが低くなります。さらに、野菜や鶏肉などの食材がはじめからセットになりレシピも付いていることから、実際に自分が使うイメージが湧きやすいことでしょう。気軽に試してみることができます。
自宅で使ってみて、初めて 「これ!うま!!つゆ」 を使った簡単料理の手軽さを実感でき、良いと思えば、今度は小袋ではなく通常の量の商品を買うというトライアルからリピート購入につながります。
ヤマサ醤油の事例は、売り手と買い手の認識ギャップの発見をきっかけに、既存製品の "伸びしろ (まだ改善できる余地) " を発見し、新商品開発という 「売り物」 、小売と協力しての店頭展開という 「売り方」 、そして調理に使いやすいという 「使い方」 まで、一気通貫で結びつけた例として示唆に富む事例です。
まとめ
今回は 「ヤマサ ぱぱっとちゃんと これ!うま!!つゆ」 の事例から、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ヤマサ醤油の事例は、製品開発における企業と顧客の認識ギャップに気づき、解消することがビジネスチャンスになることを示す
- 新商品 「ヤマサ ぱぱっとちゃんと これ!うま!!つゆ」 の開発は、検索データへの予想外の発見がきっかけになった。違和感や驚きなどを入口に、自分たちが知らない製品の不満点や可能性を見出した。どんな料理にも使え、計量不要とするなど味に加え使いやすい商品を開発した
- ヤマサ醤油は購入ハードルを下げるために、製品の店頭展開において工夫を施した。新商品を小分けにし、鶏肉などの食材とセットにレシピも付けることで、消費者が新商品の使い方をイメージでき手に取りやすくした
- 今回の事例は、「売り物」 「売り方」 「使い方」 の3つにおいてきれいにつながっている。新しいカテゴリーの商品では、単に良いものをつくっただけでは必ずしもお客さんは手にとって買ってくれない。売り物だけではなく、売り方と使い方への配慮が大事
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