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ビックカメラ赤坂見附店 プロジェクター売場のお試し体験。購入前体験の充実で購入後の後悔をなくす方法

#マーケティング #顧客起点 #損して得とれ

店頭での 「お試し体験」 がお客さんの購入判断にどんな影響を与えるのでしょうか?

小売では店頭で商品を手に取ってもらうことで購入を促しますが、ビックカメラ赤坂見附駅店はこれをさらに進化させました。

ただし、実はこのアプローチは販売の機会損失を招きかねないものですが、ビックカメラはあえてやっています。

ビックカメラの狙いを紐解き、ビジネスへの学びを解説します。

ビックカメラ赤坂見附駅店の店頭展開


ビックカメラ赤坂見附駅店のプロジェクター売場が、「商品のお試しの場」 を強化しています。

部屋を模した空間で商品を比較


出典: 日経

たとえば、リビングルームや寝室を再現した小さな部屋の模型です。

1つ1つの商品が、リビングルームや寝室などを模した手作りの箱の中に置いて展示され、部屋の模型の壁部分に向けて、画像や映像を投映するようにしました。

こうしたプロジェクターを設置することを想定しての 「薄暗い環境」 を用意することで、お客さんには気になったプロジェクター商品をその場で比較できるようにしています。ここでは約50種類のプロジェクターを実際に試すことができます。

また、商品の使い勝手を試せる場所を作るだけではなく、商品の価格表示の隣に解像度や明るさなどの数値を詳しく入れることで、商品の使い勝手や品質の感覚的な比較だけでなく、数字にもとづいた製品の比較もできるようにしています。

狙いと成果

売場の担当者によれば、お客さんが商品を十分に試すことなく購入し、後から 「思っていたのと違った」 と後悔するケースが少くなかったとのことです (参考記事) 。

来店客は高価な商品を買う前に、プロジェクター製品の画質や明るさを直接比較することが可能となっており、購入後の不満を防ぐことが狙いでしょう。

売場展開をこのように変えてから、薄暗い空間そのものが来店客の目を引き、あらかじめ買うことを決めていた商品の目的買いのお客さんだけではなく、足を止めて興味を持ってくれる人が増えたそうです。

こうしたビックカメラ赤坂見附駅店の取り組みはビックカメラ内でも評価されました。

ビックカメラでは新生活商戦やボーナス直後など商戦ごとに、売上や集客などに貢献した売場を表彰するコンテストを社内で開いていますが、ビックカメラ赤坂見附駅店のプロジェクター売場は、2023年度の冬商戦時の中型店部門で1位に輝きました。

学べること


ではビックカメラ赤坂見附駅店の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

通常の売場での 「お試し」 

一般的に、店頭で商品を来店客に試してもらうのは、お客さんがその商品をその場で使ってみて確かめることで、購入へのハードルを下げるためです。購入を促すための一般的な手法であり、直接的な売上増加を狙ってのことです。

一方のビックカメラの取り組みは、この一般的な方法をさらに一歩進めたものです。

販売への機会損失が起こり得る

ビックカメラ赤坂見附駅店のプロジェクター売場では、薄暗い空間にした試用エリアを設けることで、実際のプロジェクターを使用する環境を店内で忠実に再現しています。

お客さんは気になったプロジェクター商品を自由に試せ、映像の画質や機能を確認できます。また、解像度や明るさなどの仕様の数値を商品ラベルに表示することで、お試しで使った感覚的な評価だけでなく、数字での客観的な情報も参考にトータルで商品を見比べられます。

このようにしてお客さんは自分が納得のいくまで店頭で商品を試し、確認したり理解できます。もし、自分の思っていたものではなかったり期待に合わないと判断した場合には、買うのを見送ることもあるでしょう。

お試しの機会をつくらなければ買ってもらえたはずなわけで、お客さんに手厚い対応をすることで、売り手にとっては販売への機会損失が起こっています。

購入後の後悔をなくす

ビックカメラ赤坂見附駅店は、店頭で商品をじっくり試せる機会を提供することで、買ってもらいやすくするためだけではなく、「購入後の後悔」 をなくすことにも焦点を当てています。

お客さんが商品を購入した後に 「 (買った商品が) 思っていたのと違った」 とならないことを優先しているわけです。

ビックカメラは、一時的には売上が減る可能性があることをあえてやっていますが、しかし長い目で見ればお客さんからの信用を蓄積し、これからの信頼を獲得することにつなげるという狙いです。

損して得とれ

ビックカメラ赤坂見附駅店のプロジェクター売場がやっていることは、「損して得とれ」 です。

見る時間軸を長くすることによって、目先の売上を取りこぼしたとしても、お客さんのことを本当に考え、お客さんが買った後の後悔という残念な買いもの体験が起こらないようにという思いからです。

購入者が満足できる購入方法を用意することで、お客さんからの信用を得られ、リピート購入につながることでしょう。信頼をつくり末永いお客さんになってもらうという 「後からの得」 を得ようとしているわけです。

ビックカメラの事例は、小売販売 (特に買回り品を扱うお店) やサービス提供者にとっても示唆を与えるものです。お客さんの立場に立った店頭展開は、販売促進を超え、お客さんとの信頼関係を深める方法であることを示しています。

まとめ


今回は、ビックカメラ赤坂見附駅店のプロジェクター売場の事例をご紹介し、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 購入後の後悔をなくす店頭でのお試し: ビックカメラ赤坂見附駅店のプロジェクター売場ではお試しの環境を充実させることで、購入検討客が商品を確認し理解でき、購入後の 「思っていた商品と違った」 と思う "後悔" を防ごうとしている

  • 機会損失と長期的な信頼の構築: 店頭で商品を入念に試すことで、お客さんは買わなくなるという、一時的な売上への期間損失になる可能性もある。しかしビックカメラ赤坂見附駅店は、お客さんにとって本当に良いことに取り組むことで、お客さんからの信用を得て信頼を築くことを優先している

  • 損して得とれ: お客さんが自分のニーズに合った商品をお店で見つけることができれば、買い物中や購入後の高い満足、リピート購入が期待できる。短期的には目先の損が生まれても、時間軸を長く見て後からの得を得る姿勢は、顧客満足と長期的なブランドロイヤルティの構築につながる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。