江戸時代の商人は、屋敷が火事になっても顧客台帳だけは抱えて逃げたといいます。それだけ、ビジネスにおいて顧客リストは大事だということですが、その重要性は現在のビジネスにおいても変わりません。
顧客リストを単なるリスト集として扱うのではなく、必要なのはリストを戦略的な資産へと進化させることです。
そこで今回は、BtoB 企業において顧客リストを効果的に構築し、継続的に改善、最終的には事業成果にいかに結びつけるのかを、5つのステップを解説します。
顧客リストをいかにしてビジネスの核心へと進化させるか、その秘訣をぜひ一緒に解き明かしていきましょう。
BtoB 企業での顧客リストの進化プロセス
BtoB 企業が顧客リストを充実させ、活用範囲を広げるプロセスはいくつかの段階を経て進みます。
大きく俯瞰すると、次のような5つの段階で顧客リストを進化させていくといいです。
- 顧客リスト構築の目的の明確化
- 顧客リスト項目のブラッシュアップ
- 顧客リスト情報の充実化
- 顧客リストの有効活用範囲の拡大
- 事業貢献顧客の可視化、顧客リストの継続的な改善と運用
では順番にそれぞれ見ていきましょう。
顧客リスト構築の目的の明確化
顧客リスト作成の最初のステップは、リストをどのような目的で使うかを明確にすることです。
たとえば、営業チームがお客さんへの直接的なコミュニケーションを取るためにリストを使用するのか、マーケティングチームがキャンペーンを展開するために活用するのかなどです。
リスト項目のブラッシュアップ
目的から逆算し、顧客リストにどんな情報が必要かを考えます。目的は、今後の運営をしていくときの方針や決定基準となります。
目的を明確にした上で、顧客リストに必要な項目を洗い出します。この時点では項目は仮説でも OK で、目的に沿ったつくっていきたい顧客リストイメージを描きます。
リストに含めるべき情報項目の初期仮説を設定したら、実際の顧客データを収集しながら、項目への仮説の検証を行います。顧客リストをつくっていくにあたって、顧客情報項目というフレームをまずは磨いていくわけです。
収集した顧客データを分析し、どの情報が実際に役立ったかを評価することで、リストの項目をブラッシュアップします。新規顧客の情報が中心となった場合でも、継続顧客から得られる情報も同じように分析し、リストを更新していきます。
顧客リスト情報の充実化
顧客リストの基本的な項目 (枠組み) ができたら、さらに詳細な顧客情報を追加していきます。
新規顧客だけでなく、継続顧客からの情報も積極的に収集し、各顧客の購入履歴や興味関心、反応などを詳細に記録します。たとえば、お客さんごとの購入検討や決定のプロセス、オンボーディングの状態、利用状況などが顧客リストに追加されていきます。
顧客リストは社内の様々な部署で共有され、一元的な顧客データベースとしての機能を果たすようになります。
有効活用範囲の拡大
顧客リスト自体はツールであり手段なので、重要なのは顧客リストを実際のビジネスの成果に結びつけることです。
顧客リストをリスト内の個々のお客さんへの理解促進やアプローチに使うだけにとどまらない、広く活用することを目指します。
たとえば、顧客接点が増えたことによるカスタマージャーニーの可視化です。個社ごとのジャーニーから共通点を発見し、顧客理解の深化につなげます。
事業貢献顧客の可視化、顧客リストの継続的な改善と運用
顧客リストの有効活用が進むと、直接的に事業の成果にどのように貢献しているかを顧客リストから可視化できるようになります。
顧客リストが現場だけではなく、事業長や経営層にも参考情報として社内で広く使われる状態です。社内で広範囲に共有される顧客リストがあることで、営業やマーケティング活動がお客さんとどのような関係構築につながっているかがわかるようになります。
各顧客との取引実態と売上・利益の数字がつながることで、顧客起点の事業運営や経営体制にできます。
なお、リストをつくったはいいものの社内では誰も使わずホコリを被った無用の長物にならないように注意が必要です。
顧客リストは継続的に改善し、更新を行い最新の状態を保っている必要があります。古くなった情報や正確ではないデータをアップデートし続けることが重要です。
BtoB 企業への当てはめ
では、顧客リストを構築するための5つのステップを、ある BtoB の企業のケースに当てはめてみましょう。
架空の事例ですが、化学成分を測定する装置をメーカーに販売する会社 「ケミカルアナリティクス社」 になぞらえることで、顧客リストをつくるイメージを深めます。
目的の明確化
ケミカルアナリティクス社では、顧客リストの構築と運用の目的を 「新製品のプロモーション」 と 「既存顧客のフォローアップ」 のためと決めました。
営業チームが具体的な顧客ニーズに合わせたアプローチを行えるようにすることを目指します。
リスト項目の磨き込み
顧客リストの初期項目案として、
- 顧客の社名や取引担当者名
- 顧客取引のフェーズ
- 顧客の業種・業界
- 年間売上
- 担当部署、その部署が求められている期待と役割
- 予算額、予算決定者、予算決定プロセス
- 想定される成分測定 (成分の種類, 測定回数, 1回当たり測定量)
- 現在使用している製品
- 現在製品への満足度
- 技術サポートの必要有無
- その他特筆すべき顧客ニーズ
これらを項目として顧客情報をリスト化していくことにしました。
情報の充実化
ケミカルアナリティクス社は想定のリスト項目のフレームに沿って、実際のお客さんの情報をもとに顧客リストをつくっていきました。
新規顧客だけでなく、継続顧客からの情報も積極的に収集し、顧客リストを充実させます。
ここで初めて、初期リストでは想定していなかった新たな項目を発見しました。成分測定装置を使う前後の工程などの 「利用シーン」 を解像度高く理解する必要があることがわかり、新たにリスト内の項目として利用シーンの追加を決めました。
次第に、顧客リストが社内の様々な部署で共有され、一元的な顧客データベースとしての機能を果たすようになりつつあります。社内各所に点在している顧客データが統合されていったのです。
有効活用範囲の拡大
顧客リストは単なる情報の集合体ではなく、リストは活用して具体的なビジネスの成果に結びつけるツールです。
ケミカルアナリティクス社では、顧客リストの活用範囲をリスト内の個々のお客さんへの理解促進やアプローチに使うだけにとどめませんでした。
顧客リスト作成の過程で顧客接点が増えたことにより、お客さんを俯瞰してとらえるカスタマージャーニーの可視化に活かすなど、視野を広げかつ解像度をより上げた深い顧客理解につなげました。
事業貢献顧客の可視化、顧客データの継続的な改善と運用
ケミカルアナリティクス社は顧客リストから得られるデータを分析し、営業成果を具体的に評価する体制を整えました。
各顧客企業がどれだけの売上と利益をもたらしているかを把握し、その情報を事業責任者や経営層とも共有します。これにより、現場、事業責任者、経営層で顧客リストをもとにした顧客情報が共有され顧客理解がそろいます。
また、顧客リストの存在が全社的な顧客起点での営業やマーケティングの強化につながることがわかり、顧客リストの継続的な更新の重要性も認識されました。
顧客リストは最新のものが社内で適切にアクセス可能な形で共有され、戦略的な意思決定に役立てられます。
まとめ
今回は BtoB 企業での顧客リストの構築と運用についてでした。
最後にポイントをまとめておきます。
- 顧客リスト構築の目的の明確化
- 顧客リスト項目のブラッシュアップ
- 顧客リスト情報の充実化
- 顧客リストの有効活用範囲の拡大
- 事業貢献顧客の可視化、顧客リストの継続的な改善と運用
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