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本当に役立つマーケティングリサーチにするための企画術

#マーケティング #マーケティングリサーチ #調査設計

ビジネスを成功に導くには、市場の変化を的確に捉え、顧客ニーズに合った施策を打つことが欠かせません。しかし、時として企業は想定する顧客像が曖昧で、的を射た戦略を立てられずにいるかもしれません。

そんな時こそ、マーケティングリサーチが重要になってきます。

マーケティングリサーチがビジネスに貢献するためのポイントは、リサーチを実施する前の企画段階にあります。「企画が8割」 と言ってもいい過ぎではないというのが、私自身の経験から言えることです。

そこで今回は、マーケティングリサーチの企画をどのように立てればいいのかについて解説をしていきます。

マーケティングリサーチの企画の前提をとらえる


企画をつくるにあたって、まずそもそもとしてマーケティングリサーチの前提をおさえることが大事です。

マーケティングリサーチの企画に入る前に、一段階や二段階上のより上位レイヤーから状況を整理します。マーケティングリサーチの1つ上のレイヤーはマーケティング、さらにその上にはリサーチから見れば2つ上のレイヤーにあるのがビジネスの状況です。

ビジネスレイヤーの例

たとえば次のようなケースで、ビジネスレイヤーでの状況を整理してみましょう。

事象として起こってのが目標としていた売上が未達だったとします。

なぜ未達だったのかの原因を掘り下げると、見えてきたのはお客さんが増えていないという客数の問題でした。それはほぼイコール、新規のお客さんが獲得できていないということです。

マーケティングレイヤーの前提

ビジネスレイヤーの状況を受けて、マーケティングリサーチの1つ上であるマーケティングのレイヤーの前提もとらえます。

先ほどのビジネスの状況からのマーケティング上の問題点は、たとえば、新規のお客さんとはどういう人を狙えばいいのかが不明確であることです。新規の見込客とはどういう人で、何を求めている人または企業なのか、どれぐらいの人数や社数があるかの規模感がわからないことです。

これらがあいまいなためマーケティングの戦略が立てられず、有効な施策が打てないというのがマーケティングレイヤーでの問題です。

このマーケティングの問題に対してマーケティングの課題 (問題を解決するために対処する方針) は、アプローチしたい見込み客の顧客像を解像度高く理解することです。

マーケティングリサーチという課題の対処へ

そこで、このマーケティング課題への対処としてマーケティングリサーチを実施することになるわけです。

ここまでがマーケティングリサーチの企画を作る上での前提の整理でした。

まとめると、マーケティングリサーチの2つ上のレイヤーであるビジネスの状況を把握し、リサーチの1つ上のレイヤーのマーケティングにおける問題点と課題を明確にします。

マーケティングリサーチの企画方法


それでは前提をおさえたところで、マーケティングリサーチの企画の進め方について見ていきましょう。

全体像は次のとおりです。

  1. 目的の明確化
  2. 調査課題の設定
  3. 調査課題への仮説立案
  4. 調査後のネクストステップの想定
  5. 企画書の作成


では順番に見ていきましょう。

目的の明確化

最初に明確にしたいのは、マーケティングリサーチを実施する目的は何かです。何のためにリサーチを実施するかの 「マーケティングリサーチの存在意義」 を定めます。

リサーチの目的は、上位レイヤーであるマーケティングやビジネスにおける問題を解決するためです。先ほどの例を続ければ、狙うべき新規のお客さんの理解を深め、マーケティング課題に対処するための示唆 (意識決定への参考情報) を提供するためにマーケティングリサーチをします。

調査課題の設定

目的が決まれば、目的に沿ったマーケティングリサーチの調査課題を設定していきます。

同じ例で続けると、調査課題とは次のようなものです。

  • 候補となる見込み客が抱える 「困りごと」 は何か
  • 困りごとから生まれたジョブ (本当に望んでいる欲求) は何か
  • そのジョブはどういった状況や瞬間 (モーメント) でよく起こるのか
  • ジョブを解消する商品・サービス (雇う候補となるワーカー) はどんなものがあるか (競合把握) 
  • 既存のワーカーにおける不満や不便さ、不都合なところ、使いにくい点は何か

  • 見込み客はどれぐらいの規模いるか
  • 彼ら・彼女らが普段見ているメディアやコンテンツは何か。スマホやテレビはどういった使い方をしているか
  • 普段の行動や習慣などのライフスタイル
  • 何に価値を見出すかの価値観や趣味嗜好

  • これらへの示唆がわかったとして、見込みの新規顧客は自社商品のどこに魅力を感じ、自分ごと化し、どんな価値を見出してくれるだろうか


こうした "問い" を1つひとつ洗い出し、体系立てて調査課題にします。

調査課題への仮説立案

調査課題ができたら、それぞれの課題に対する 「仮説」 を出します。

調査課題は疑問形で表すことによって、その疑問 (問い) への調査実施前の現時点で想定される仮の答えを仮説として言語化するのです。このように課題と仮説はセットで考えておくといいでしょう。

調査後のネクストステップの想定

ここまでをいったん整理をすると、目的を明確にし、目的から調査課題への落とし込み、課題への仮説出しでした。

次にやるのは、調査後のネクストステップの具体化です。

調査を実施する前に、調査結果や示唆が得られたとして、次にそれらをどのように活用するかのネクストステップのイメージを描いておくわけです。

具体的には、

  • 調査課題への示唆を得て、マーケティングレイヤーではマーケティングの問題点 (新規顧客の解像度が粗いこと) の解消につなげる
  • マーケティング戦略や打ち手の参考情報に活用する
  • 新規顧客獲得の施策立案に入り、施策の開始はリサーチ終了後から1ヶ月後とする

というリサーチ後のネクストステップとして、リサーチ結果や示唆がどこでどのように使われるかを想定しておきます。

企画書の作成

調査を実施する前に、マーケティングリサーチの企画書をつくります。企画書は調査を実施する前に関係者間で、調査への認識をそろえるためにも有効です。

企画書の項目は次のようになります。

✓ マーケティングリサーチの企画項目
  1. リサーチを実施する背景
  2. マーケティングやビジネスでの問題や課題感
  3. マーケティングリサーチの目的
  4. 調査課題
  5. 課題への仮説
  6. 活用イメージやネクストステップ
  7. リサーチが成功したと言える成功基準 (サクセスクライテリア) 
  8. 調査対象者条件
  9. 調査手法
  10. スケジュール
  11. リサーチ実施予算


これらを一枚のリサーチ企画書にしたためて、マーケティングリサーチの関係者だけでなく1つ上のレイヤーであるマーケティングの関係者、さらには必要に応じてビジネスレイヤーの関係者 (例: 事業責任者など) と認識を合わせます。

あとから認識が違うとならないように、リサーチ目的や活用イメージ、ネクストステップへの共通見解を持って調査実施に入ります。

マーケティングリサーチへの姿勢


今回はマーケティングリサーチの企画のつくり方ですが、リサーチに臨むにあたっての姿勢として、最後に1つ大切なことをつけ加えておきます。

それは、調査課題への示唆や答えは、その多くは直接回答者や見込み客から教えてもらえることはないということです。そのまま答えを教えてもらうことを期待しないことが大事です。

あくまでリサーチの結果情報を "材料" にして、リサーチャーやマーケターが自ら戦略や施策への示唆を出していくというスタンスが大切です。

アンケート結果やインタビューなどの対象者の言動を、ただマーケティングやビジネスにそのまま伝えるだけではマーケティングリサーチャーの役割を果たしているとは言えません。お客さんの言動を自分で考えるきっかけにし、ヒントや示唆を洞察し、そこからマーケティングへジャンプさせるのがリサーチャーの役割です。

調査から "食材" を得て、調理するのはリサーチャーやマーケターの役目です。調査回答者にできあがった料理まで作ってもらうことを期待してはいけないのです。

まとめ


今回はマーケティングリサーチの企画をどうつくるかについて解説しました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ 前提を明確にする
  • マーケティングリサーチの企画には、上位のビジネスレイヤーとマーケティングレイヤーにおける状況や問題、課題を整理することが大切
  • たとえばビジネスの売上未達の事象に対し、マーケティングの獲得したい新規顧客の顧客像が不明瞭だと特定できれば、マーケティングリサーチの目的は見込み客像を深く理解することとなる

✓ マーケティングリサーチの企画
  • リサーチの目的の明確化、調査課題の設定、各課題に対して仮説を立てる
  • 企画段階で、調査結果や示唆の活用イメージやネクストステップを描く
  • 目的、調査設計、ネクストステップ、調査成功基準などを企画書にして関係者と認識をそろえ実施への合意を得る

✓ マーケティングリサーチャーの姿勢
  • 調査対象者の言動をそのまま "答え" として受け取るのではなく、リサーチャーが自らが深く考え、マーケティングやビジネスへの示唆を洞察する
  • 対象者のアンケート回答やインタビューでの発言は、示唆を導き出すための "材料" とする
  • 主体的に示唆や洞察を発掘し、統合し、見つけ出そうと努める姿勢が大事


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。