#マーケティング #行動変容
広告を出してもなかなか反応がない、キャンペーンを打っても思ったような効果が出ない…。そんな経験はないでしょうか?
お客さんの行動を変えるのは、そう簡単ではありません。
実は、お客さんの行動を変えるためには、製品やサービスの魅力を訴求するだけではいいとはかぎらず、行動変容を促す具体的な仕掛けが必要なのです。
今回は、しゃぶしゃぶチェーンの 「しゃぶ葉」 が始めたあるプロジェクトをご紹介し、お客さんの行動を促すユニークな取り組みを見ていきます。
この事例から、行動変容を促す3つのポイントを解説します。
しゃぶ葉の 「こまめどりプロジェクト」
しゃぶしゃぶ食べ放題チェーン 「しゃぶ葉」 が、2024年4月からフードロス削減を目的に 「こまめどりプロジェクト」 を開始しました。
このプロジェクトでは、利用客が食べ残しをせずきれいに食べ終わったテーブルの写真を撮影し、会計時にスタッフに提示すると、次に使えるドリンクバー110円券がもらえるというものです (ドリンクバーは通常は299円なので割引券に相当) 。
従来の食べ放題店では、ついつい注文しすぎてしまうケースがあり、フードロスが発生しやすいという問題がありました。しゃぶ葉の 「こまめどりプロジェクト」 は、利用者が食べきれる量を少しずつ注文することで、フードロス削減を目指す取り組みです。
一般的によくある、食べ残しが多い場合はペナルティを課すというやり方ですが、しゃぶ葉のアプローチは、良い食べ方をした利用客に感謝を伝えることを重視しているのが特徴的です。お客さん自身に食後のテーブルの写真を撮ってもらうのは、従業員が残さず食べて終えたかを判断しやすく、かつ、利用客の手間もかからないバランスを探って、この方式を採用したとのことです。
プロジェクトに参加する利用客は、お店を利用する全組数の 3 ~ 4% 程度にとどまるようで (参考記事) 、今後さらなる周知活動や特典拡充によって、利用客の参加率が向上していくことが期待されます。
行動変容への示唆
しゃぶ葉の 「こまめどりプロジェクト」 は、人にどう動いてもらうかに示唆がある事例です。
人の行動を促すヒント
こまめどりプロジェクトでは、店内ポスターやメニュー表の中などで呼びかける程度でフードロスを実現するのではなく、お客さんへの簡単な行動によって食べ残しをなくすことを狙っています。
食べ終わったあとにテーブル上をスマホで撮影し、会計時に店員さんに見せるというアクションをすれば、その行動への報酬として割引券がもらえる仕組みがポイントです。
この仕掛けは以下の3つの側面から、人の行動を効果的に促すヒントを与えてくれます。
行動のハードルを下げる
お皿を積み、撮影し、会計時に見せるという行動は、だれでもできるくらい簡単で手間がかかりません。お客さんは手持ちのスマホで撮影するため、特別な準備や機材も必要ありません。
行動の報酬を用意する
次回の来店時に使えるドリンクバー割引券という報酬は、金銭的な価値だけでなく、良いことをしているという感情的価値も提供します。
次回来店時のドリンクバーの割引が渡すというのは、マーケティングの観点から見れば、リピートにつながる施策です。
行動を可視化する
食べ終わったお皿をきれいに積み、撮影することで、自分がどれくらいの食事量を取り、実際に食べ切れたのかを可視化できます。
これは、自身の食事内容を客観的に認識するきっかけになったり、食べ残しの量を減らす意識を高める効果もあるでしょう。
三方よし
しゃぶ葉の 「こまめどりプロジェクト」 は、来店したお客さん、店舗 (しゃぶ葉) 、地球環境 (社会全体) の三者にとってメリットがある 「三方よし」 の取り組みです。
- お客さん: フードロス削減による環境貢献を実感でき、次回割引券によるお得感
- 店舗: フードロス削減によるコスト削減、顧客満足度向上
- 地球環境: フードロスの削減による環境負荷低減
会計時にテーブル撮影写真を店員さんが確認する必要があり、会計時間が余計にかかるというデメリットもありますが、このプロジェクトは、人にどのように行動してもらうかという点において、示唆に富む事例です。
今後の課題と展望
こまめどりプロジェクトはまだ始まったばかりであり、今後の課題もいくつか考えられます。
今後への課題
課題を2つに整理すると、
- 参加率の向上: 現時点では参加率が 3 ~ 4% と低いため、参加率向上のための施策が必要となる
- フードロス削減効果の測定: フードロス削減効果を測定し、プロジェクトの効果を客観的に評価したい
これらの課題に対処し、さらに多くの店舗で導入され 「こまめどりプロジェクト」 が広がれば、フードロス削減への参加によって、来店したお客さんの満足度向上や地球環境保護に貢献していくことが期待できます。
では最後に、こまめどりプロジェクトへの参加率をどうやって上げていけばいいか、施策案を考えてみます。
参加率向上のための施策案
順番に思いついたものから挙げていくと、
- 店内ポスターやメニュー表に 「こまめどりプロジェクト」 のことを記載し、目立つように設置する
- 店員に積極的にお客さんへ声がけをしてもらい、こまめどりプロジェクトを案内する
- SNS やホームページでプロジェクトを発信する
- 地域のメディアやインフルエンサーに紹介してもらう
✓ 参加しやすい環境づくり
- 撮影方法をわかりやすく説明する。例: 注文をするタブレット画面に説明動画を流す
- 撮影用の台座やスマートフォンスタンドをテーブルに設置する (経費がかかり、食事中は邪魔になるようなら不採用)
- 必要に応じてスタッフが撮影をサポートする (ただしこれはホールスタッフの負担が増えるのでやらないほうがいいか)
✓ 報酬の充実
- 次回割引券の割引率をアップする。例: ドリンクバー無料券に
- ドリンクバー以外のデザート無料券や新メニュー割引券などの特典の対象を増やす
- こまめどりプロジェクト参加者限定のポイント制度を導入する
- 参加者のみ注文できる特別メニューをつくる
✓ ゲーム性を取り入れる
- 次回割引券の割引率がランダムで変わる (くじ引き)
- 参加者同士で競争できる仕組みをつくる。例: ランキング制度, バッジ付与
- 累計参加回数に応じて特別な特典を用意する
✓ 顧客データの活用
- 過去の来店履歴や注文内容を分析し、参加可能性の高いお客さんにアプローチする
✓ 国 (例: 環境省) や自治体との連携
- フードロス削減に関するイベントやキャンペーンを共同で実施する
- 啓蒙活動に協力してもらう
さらに、マーケティングの観点からは次のような人たちを 「ターゲット顧客」 として施策の検討をしてもいいでしょう。
- ファミリー層への訴求: 子どもの食育に良い影響があることをアピールする
- シニア層への訴求: 健康的な食生活に役立つことをアピールする
- 環境意識の高い層への訴求: 地球環境保護に貢献できることをアピールする
これらの施策を組み合わせることで、参加率を向上させ、プロジェクトの効果を最大限に引き出すことができるでしょう。
しゃぶ葉の 「こまめどりプロジェクト」 は、ユニークな取り組みであり、フードロス削減につながります。今後、参加率向上のための施策を積極的に推進していくことで、プロジェクトの更なる発展が期待されます。
まとめ
今回はしゃぶ葉の 「こまめどりプロジェクト」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 行動変容を促す仕掛けとして、
① 行動のハードルを下げる (こまめどりプロジェクトの例: スマホで撮影するだけなので誰でも簡単にできる)
② 行動の報酬を用意する (次回割引券でのお得感, 社会貢献への実感)
③ 行動結果を可視化する (食べ残し量を客観的に把握し、食習慣改善につなげる)
- 三方よしの視点を入れ、顧客・店舗・社会全体の利益を追求し、持続可能な取り組みにする
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