#マーケティング #価値創出 #SECIモデル
あなたの会社や組織では、どのように各メンバーの知識やノウハウが共有されているでしょうか?個々人のせっかくの経験やアイデアが埋もれてしまっているとしたら、それは大きな機会損失です。
今回は 「SECI モデル」 という、組織内で知識を効果的に共有し、活用するためのフレームワークを取り上げます。
食品大手の味の素と、D2C ビジネスで成功を収めるクラシコムの協業プロジェクトから、組織の知識創造プロセス 「SECI モデル」 の実践方法を解説します。
暮らしの素プロジェクト
食品大手の味の素と、ECサイト 「北欧、暮らしの道具店」 を運営するクラシコムが、異色の協働プロジェクト 「暮らしの素プロジェクト」 を立ち上げました。
このプロジェクトでは、両社の社員が共同で商品の企画・開発を行い、クラシコムの EC サイトで販売するという、従来の枠組みを超えた取り組みが行われています。
マスマーケティングに強みを持つ味の素と、D2C (ダイレクト・トゥ・コンシューマー (一般消費者と直接取引のビジネス) ) ビジネスを得意とするクラシコム。ビジネスモデルや顧客層が異なる両社が手を組んだ背景には、互いの強みを学び合い、新たな価値創造を目指す狙いがあります。
味の素はクラシコムの顧客密着型のアプローチから、より直接的な顧客との関係構築を学べます。一方のクラシコムは味の素の大規模展開のノウハウ獲得を目指します。両社のアプローチの違い、味の素とクラシコムからの商品開発手法の融合がどのように花開くのかは注目したいです。
味の素とクラシコムによる 「暮らしの素プロジェクト」 という協業事例は、異なる業界や企業文化を持つプレイヤー同士が協力することで、新たな価値をつくりだせる可能性を示しています。
ではここからは、両社の協業の意義と方法について、組織での知識創造プロセスである 「SECI モデル」 を用いて掘り下げていきましょう。
SECI モデルとは
SECI モデルは、暗黙知と形式知の間の相互作用を通じて、知識がどのように創出され、組織内で共有されるかを説明するフレームです。
暗黙知とは個人の経験や感覚に根ざした知識であり、まだ他人に説明ができるほどのレベルにはなっていない状態です。一方の形式知は言語化がされ、説明できる知識を指します。
SECI モデルは次のような図で表されます。
SECI モデルには4つの段階があります。
- 共同化 (Socialization) : 共同の場づくり
- 表出化 (Externalization) : 形式知にする
- 結合化 (Combination) : 形式知の結合
- 内面化 (Internalization) : 自分のものにする
SECI モデルのプロセスを順番に見ていきましょう。
共同化 (Socialization) : 共同の場づくり
共同化では、個々人の経験や感覚、技術などの暗黙知を共有する場をつくります。
直接の経験の共有、模倣や実演を通じて知識が伝達される仕組みがあり、たとえば、職人の人がその弟子に技術を伝授する機会をつくったり、ビジネスの場ではチームメンバーが集まる時間やレビューをする会議がこれに該当します。
表出化 (Externalization) : 形式知にする
表出化は、暗黙知を形式知に変換する過程です。
個人の中にあった暗黙知が、言葉や図表、文書などの形で外部に表現されることを指します。他にもメタファーやアナロジーなどの表現を用いることもあります。暗黙知が言語化されることで形式知に変わり、組織内でより広く共有されやすくなります。
結合化 (Combination) : 形式知の結合
結合化では、様々な形式知が集められ、分析や整理がされて新たな知識が生み出されます。バラバラにあった形式知が結合することで、形式知がさらに進化します。
文書化された情報を組み合わせたり、データベース内で情報を分類・再構成することで、新しい知識に発展します。ビジネスでは新しい商品への開発や、マーケティングや営業などのアイデアにつながります。
内面化 (Internalization) : 自分のものにする
内面化は、形式知が個々人の暗黙知として取り込まれる段階です。
文書や会議で共有された他者からの知識 (形式知) を各自が取り入れます。そこから実際に活用した経験から学び、得た知識を自分の暗黙知として吸収していきます。
経験や教訓が個人のスキルや価値観に組み込まれ、それがひいては組織全体の能力の向上に貢献します。
味の素とクラシコムの協業に見る SECI モデル
味の素とクラシコムの 「暮らしの素プロジェクト」 は、SECI モデルの各段階を効果的に活用しています。
SECI モデルへの当てはめ
では順番に当てはめていきましょう。
■ 共同化
共同化の段階では、両社の社員が直接顔を合わせて協働するプロジェクトを立ち上げています。
この 「暮らしの素プロジェクト」 という共同の場で、味の素の大規模マーケティングのノウハウとクラシコムの顧客密着型のアプローチという異なる暗黙知が共有される機会が整います。
■ 表出化
表出化の段階では、味の素とクラシコムの異なるアプローチが言語化されます。両社の暗黙知が形式知として共有可能になります。
■ 結合化
結合化の段階では、両社の形式知が結合されて新たな知識が創造されます。
味の素の大規模生産や販売のノウハウと、クラシコムのお客さんとの密な関係構築のアプローチが組み合わさることで、新しい商品開発プロセスや顧客アプローチの方法が生み出されます。
■ 内面化
内面化の段階では、プロジェクトを通じて得られた知識や経験が、味の素とクラシコムのそれぞれの社員個人の暗黙知として吸収されます。
味の素の社員はより顧客目線での商品開発を、クラシコムの社員は大規模展開のノウハウを自分のものとして取り込むことができるでしょう。
異なる企業による協業の意義
味の素とクラシコムによる協業の意義は、異なる強みを持つ企業が互いの知識やノウハウ、企業文化を共有し、新たな価値をつくりだせる点にあります。
味の素のような大企業が持つ豊富なリソースと、クラシコムのような新興企業が持つ柔軟性と顧客密着型のアプローチを組み合わせることで、両社にとって新たな成長の機会が生まれるのです。
この協業においては、SECI モデルの各段階を意識的に設計することで効果的に実施されています。共同プロジェクトを立ち上げ共有する場の構築 (共同化) 、異なるアプローチの明確化と共有 (表出化) 、新しい商品開発プロセスの創造 (結合化) 、そして個々の社員の学び (内面化) という流れが組み込まれています。
このような異業種間の協業は、新しい商品やサービスを生み出せるだけでなく、参加する企業の組織文化、思考や実践方法にも変化をもたらすことでしょう。それぞれの企業が持つ 「当たり前」 を問い直し、新しい視点を獲得することで、イノベーションの種が生まれやすくなるのです。
さらに、この事例は大企業と新興企業の協業モデルとしても注目に値します。
大企業が持つ安定性とリソース、新興企業が持つ機動性と革新性を組み合わせることで、両者の強みを活かしつつ弱みを補完し合うことができます。
このような協業は、変化の激しい市場環境において、企業の競争力を高める効果的な取り組みとなるでしょう。
まとめ
今回は、味の素とクラシコムの協同プロジェクトである 「暮らしの素プロジェクト」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- SECI モデルは、個々の暗黙知を形式知に変え、組織全体で共有するプロセス。共同化、表出化、結合化、内面化の4段階を通じて、暗黙知と形式知が相互作用し、新たな価値を生み出す
- 味の素とクラシコムの 「暮らしの素プロジェクト」 は SECI モデルを実践している。両社の異なるアプローチやノウハウを共有し、お互いの強みを組織全体に広げる
- 異業種間の協業は知識の交換だけにとどまらず、組織文化、思考や実践の方法に新たな視点をもたらす。両社が弱みを補完し、強みを活かし合い、それぞれが持つ 「当たり前」 を問い直することで新たなアイデアを生み出す
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