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1300年前の知恵 「貞観政要」 に学ぶ、顧客獲得と維持の秘訣

#マーケティング #トライアルとリピート #歴史

ビジネスの世界で、新規顧客の獲得と既存顧客の維持は、どちらが難しいと思いますか?

実は、この問いは1300年以上前の中国で、皇帝と賢臣の間で交わされた対話にも通じるものです。貞観政要に出てくる、「国を興すのと、国を守るのと、どちらが難しいか」 です。

では、古代中国の知恵は、現代のビジネスにどんな示唆を与えてくれるのでしょうか?

得られる示唆として、トライアル購入とリピート購入について、歴史の教訓からマーケティングのヒントを紐解きます。

貞観政要の 「創業と守成」 



 「貞観政要」 は、かつて中国大陸を支配した唐の名君であった第二代皇帝・李世民 (太宗 598 ~ 649年) の治世における、国を治めるための教訓を記した書物です。

李世民が側近の魏徴 (ぎ ちょう) たちと腹を割って議論をした政治論をまとめたものです。

貞観政要は日本には平安時代に伝えられ、第56代の天皇である清和天皇のときに 「貞観」 という年号 (859 ~ 877) もできたほど宮廷では重んじられました。

その後、鎌倉幕府の北条政子 (源頼朝の妻) もその重要性を知り、武家社会にも貞観政要は取り入れられました。鎌倉幕府のトップであった北条家は代々、貞観政要が説く 「上の者は威張ったり贅沢をしたりしてはいけない」 や 「民衆を重んじなくてはいけない」 という教えを実践する政治を執り行いました。

その後も徳川家康も貞観政要を学んだとされ、日本でも貞観政要は長きにわたり君主や政治家に大きな影響を与えました。そして、現代にも通じる内容が書かれているのが貞観政要なのです。

貞観政要には、君主の治世についてのさまざまな教訓や忠告が記されていますが、その中に 「初代と二代目ではどちらが難しいか」 という話が登場します。

この教訓は、李世民とその臣下たちの間で交わされた対話の中で語られていますが、特に、唐の名臣である魏徴が李世民に対して述べた言葉が重要です。

魏徴と李世民の対話

李世民が問いかけた 「創業と守成はどちらが難しいか」 に対して、魏徴は李世民に向かって次のように述べました。

    初代の君主が国を興すときには、多くの困難があり、危険を乗り越えなければなりません。しかし、二代目の君主は、すでに安定した基盤を受け継ぐため、初代ほどの困難はありません。しかし、初代の功績が大きければ大きいほど、二代目の君主に求められるものも大きくなり、その分、治世を維持することが難しくなります。


李世民は次のように返答しました。

    確かに、初代が国を興すことは困難であるが、二代目がそれを受け継いでさらに安定させることもまた困難である。初代は戦乱の中で民衆を救い、国を築いたが、二代目はその平和を守り続ける責任がある。


2人の対話から得られる教訓は、国の運営において、創業期の困難は大きいものの、安定期に入った後もまた別の困難が存在するということです。

二代目の君主は、一代目君主の功績をただ引き継いでいれば成功すると見られがちですが、決してそうではありません。とりわけ、初代の成功が大きければ大きいほど、その後を継ぐ者にはさらなる知恵と成果が求められます。

二代目の守成への教訓を整理すると、

  • 継承者としての責任の重さを認識する
  • 先代の功績を尊重しつつも、自身の時代に合わせた統治を行う
  • 権力者や富裕層の監視と統制が重要である
  • 平和な時代においても、常に警戒心を持ち、統治に励む


これらの教訓は、リーダーシップや組織運営においても現代に通じるものがあります。例えば、企業の創業者が立ち上げた事業を成功させた後、後継者がその成功を維持し、さらに発展させるためには、異なるスキルセットや視点が必要であることを示唆しています。

貞観政要での対話は、李世民が自身の立場を深く省みる機会となり、李世民の統治哲学に大きな影響を与えたとされています。また、後世の為政者たちにも重要な教訓として伝えられてきました。

マーケティングへの示唆


 「貞観政要」 における李世民と魏徴の対話は、初代と二代目の君主が直面する異なる難題を浮き彫りにしました。その教訓は現代のビジネス、マーケティングにも示唆をもたらします。

具体的には、マーケティングにおける 「トライアル購入 (初回購入) 」 と 「リピート購入 (継続購入) 」 です。

貞観政要での 「初代を初回購入」 、「二代目を継続購入」 と見立てれば、お客さんの購入段階の2つのフェーズにおいて、お客さんに対するアプローチや価値の提供方法に洞察を与えてくれます。

トライアル購入への 「期待価値」 の醸成

トライアル購入は、お客さんが初めて商品やサービスを買うことです。

貞観政要の文脈に当てはめれば、トライアル購入は創業者が新しい国を築くことに似ています。

李世民が魏徴に語ったように、初代君主が新しい国家を築くには多くの困難と挑戦が伴います。マーケティングにおいても、初回購入を促すためには商品を買う価値があるといかに思ってもらえるかという難題が待ち構えています。

トライアルの段階では、お客さんはまだ商品の実際の価値を体験していないので、商品を使って得られるであろう 「期待価値」 をもとに購入を決めます。

トライアル購入への期待価値をつくり出すためには、適切なターゲティングとマーケティングコミュニケーションがカギをにぎります。お客さんに商品価値を提案し、いかに自社商品のことを 「これは自分向けだ」 と思ってもらい、商品を使うことで得られる顧客価値に期待してもらうかです。

例えば、広告やキャンペーンなどのマーケティングコミュニケーションを通じて、お客さんが商品を使うことによってどんな価値や便益を得られるのかを訴求します。

リピート購入には 「価値再現」 の訴求

トライアル購入が成功した後に待ち受ける課題は 「リピート購入」 です。一度すでに商品やサービスを体験したお客さんが再び同じ価値を得たいと考え、再購入をしてくれるかです。

ここで重要になるのは 「価値再現」 の実現です。すなわち、お客さんがトライアル購入によって体験した顧客価値を、もう一度再現できるかがポイントとなります。

貞観政要で指摘されたように、二代目の君主が直面する課題は、初代の功績をどのように維持し、さらなる発展を遂げるかでした。

ビジネスでのリピート購入においても同様に、初回のトライアル購入で得たお客さんの満足度を維持し、再度の購入を促すためには、ただ同じ商品を提供するだけでは十分とは言えません。お客さんに再び選んでもらうためには、商品やサービスのさらなる価値を追加することが求められます。

リピート購入への施策

例えば、リピート購入を促進するための施策として、お客さんの購入履歴にもとづいたパーソナライズされたメニューや、リピーター向けの特典を用意することが考えられます。

また、二代目の君主が新たな発展を目指したように、既存商品の新しい使い方や価値を提案することが大事です。お客さんの潜在的なニーズを掘り起こし、商品やサービスの多様な利用方法を伝えることで顧客価値を高め、リピート購入を促します。

他には、購入後のサポートやアフターサービスを充実させることも有効です。迅速な問題解決、使用方法のアドバイスなど、購入後も継続的にサポートを図ることで、顧客満足度を高め、リピート購入につなげることができます。

そして、商品やサービスを中心としたコミュニティを形成するという施策もあります。企業とお客さんだけではなく、お客さん同士の交流の場をつくり、情報共有や相互サポートを促進することで、ブランドへの親近感や愛着を高め、リピート購入の動機をつくります。

貞観政要では李世民が二代目の君主には、初代君主とは違った二代目ならではの難しさを認識しつつも、国の安定を維持しようと努めました。

同じように、マーケティングにおいてもリピート購入の段階では、安定した価値実現とともに、お客さんの期待を超える取り組みが求められます。

トライアルとリピートの両方を成功させるためのバランス

貞観政要の教訓から学べるもうひとつの重要な点は、トライアルとリピートにおいてバランスの取れたアプローチが必要だということです。

初回購入を促進するためのマーケティングキャンペーンを行ったとしても、それだけではリピート購入に結びつくとは限りません。逆に、リピート購入を促すための施策に力を入れたはいいものの、新規顧客の獲得が疎かになることも避けるべきです。

トライアル購入とリピート購入のバランスは、初代と二代目の君主がそれぞれの役割を果たし、国を発展させるプロセスと似ています。どちらか一方だけに偏るのではなく、双方の役割を明確にし、適切に対処することが大事です。

歴史から学べるマーケティングへの示唆

 「貞観政要」 の教訓をマーケティングに適用すると、トライアル購入とリピート購入のそれぞれにおいて、「お客さんに対するアプローチが異なる」 と認識することが大切です

トライアルとなる初回購入時には 「期待価値」 というまだ使ったことのない商品やサービスへの価値への期待をいかに高めるかが大事です。そして、リピートをする継続購入時には商品への 「価値再現」 をいかに実現できるかが成功のカギとなります。

歴史からの教訓は、現代のビジネスにおいてもお客さんとの関係を築き、維持するための貴重な指針を提供してくれます。歴史から学ぶことで、マーケティングでの成功につながるための示唆を得ることができるのです。

まとめ


今回は 「貞観政要」 で語られた創業と守成のそれぞれの難しさから、ビジネスのマーケティングへの示唆を考察しました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • トライアル購入は新しい国家の建国に似ている。お客さんからの商品への期待を高め、商品の顧客価値を信じてもらうことが大事 (期待価値の醸成) 。適切なターゲティングと効果的なコミュニケーションから、お客さんが得られる具体的な便益を明確に伝えることで、初回購入につなげる

  • リピート購入は二代目の君主の統治に通じる。トライアル購入によって体験した商品価値を再現し、さらなる顧客価値の向上が求められる。パーソナライズ、商品の新しい使い方の提案、充実したアフターサービス、顧客同士のコミュニティ形成も有効。ブランドへの愛着を深め、お客さんとの継続的な関係性を構築する

  • トライアルとリピートのバランスが成功のカギ。新規顧客の獲得と既存顧客の維持の両立は、国家の成立と発展と共通する。どちらか一方に偏ることなく、適切なリソース配分を行う


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。