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ボイスフレンドの "音声マーケティング" 。推しの声を聞きながら店内をまわれる書店の顧客体験とは?

#マーケティング #音声ブランディング #顧客体験

お客さんにどれだけ深い顧客体験を提供できているでしょうか?

商品をお店で買ってもらうだけでなく、その場でしか味わえない特別な瞬間を演出することで、お客さんとの関係はもっと強いものになるはずです。

今回は、「推しの声」 を活用したユニークな書店のボイスマーケティング事例をご紹介します。

この事例から学べる五感を活用するマーケティングの可能性は、あなたのビジネスにも新たな視点をもたらすかもしれません。お客さんの心をつかみ、忘れられない体験を提供する方法とは?

ぜひ、一緒に学びを深めていきましょう。

ボイスフレンド



日本出版販売 (日販) と GATARI が共同で企画・開発したのが、「ボイスフレンド」 という新感覚の店頭集客ソリューションです。

ボイスフレンドを利用する来店客は、お店の中を歩き回りながらイヤホンから流れる音声を聞き、音からのストーリーを楽しむことができます。音声は、推し (ファンが応援する芸能人やキャラクター) の声が使われ、来店者に特別な体験を提供することを目指しています。

書店での導入事例

ボイスフレンドは 「文喫 (ぶんきつ) 六本木」 という書店で実施されました。これまで3回実施され、第1弾では元宝塚の七海ひろきさん、第2弾は人気声優の斉藤壮馬さん、第3弾では舞台俳優の梅津瑞樹さんによる音声ガイドでした。

利用者は20 ~ 30分間、ストーリーに沿って店内を歩き、特定の場所に移動するとその場所に連動した音声 (押しの声) が自動で流れる仕組みになっていました。

親和性と没入感

ボイスフレンドを使った企画では、参加する俳優や声優に関連した本との親和性を重視し、ファンが自然と没入できるように工夫されています。

具体的には、文喫のボイスフレンド企画の第3弾では、梅津瑞樹さんが自ら脚本を手がけた SF 風のストーリーが展開され、音声を聴いたファンがその場で笑ったり感極まって泣いたりするほどの強い感情移入が見られました。

また、ボイスフレンド企画ではノベルティーやグッズにも力を入れており、特典の紙のチケットや AR 機能付きアクリルキーホルダーなどが用意されました。

推しの声の成果

ボイスフレンドの導入により、文喫六本木には約3000人が訪れ、そのうち約2000人が有料ゾーンを利用しました (参考記事) 。

イベントに参加した約 89% が初めて文喫を訪れた人々で、新たな顧客獲得にも貢献しています。販売促進効果もあり、ボイスフレンドの体験者による本の購入は約1700冊に達し、推しとのコラボメニューやグッズの販売増にもつながったとのことです。

マーケティングへの示唆


では書店でのボイスフレンドの事例から、マーケティングへの汎用的な学びを掘り下げてみましょう。

通常の書店での体験

通常の書店において、お客さんが本を選ぶ際の購買体験は、主に 「視覚」 と 「触覚」 から生まれます。

お客さんはまず、本棚に並べられた本の表紙や背表紙を目で視覚的に確認し、興味を引かれた本を手に取るというプロセスです。

視覚による本の表紙や中身の情報と、手に取る際の紙の本の手触り (触覚) を通じて、その本の魅力を感じ取ります。本の内容を確かめるためにページをめくることで、さらに体験が加わることもありますが、このような購買体験はシンプルなものです。

第三の 「聴覚」 が加わる意味

一方、推しの声を効果的に使ったボイスフレンドの事例では、視覚と触覚に加えて 「聴覚」 という第三の感覚が重要な役割を果たしています。

推しの声というパーソナルで感情に訴える要素を取り入れることで、お客さんにはより豊かな体験をもたらします。自分の好きな推しの声を聞きながら本屋を歩き回るという体験は、通常の視覚と触覚の組み合わせとは異なり、聴覚を通じてお客さんに深い感情的なつながりを生み出します。

他では得られない没入感

聴覚という音の要素が加わることで、顧客体験には視覚と触覚だけでは得られない 「没入感」 が生まれます。

推しの声がまるで自分に直接語りかけているかのように感じることで、お客さんは引き込まれます。

音声を通じた情報伝達は、視覚的な情報にはない感情に強く訴えかける力を持ちます。声のトーン、リズム、間の取り方など、言葉以上の要素が聴覚を通じてお客さんに伝わり、それがより一層の没入感を生み出すわけです。

ブランディングへの効果

ボイスフレンドでの音声体験によって、店舗全体のブランド価値を高める効果も期待できます。

通常の書店では、視覚と触覚に依存する体験が中心ですが、ボイスフレンドのような新しい顧客体験は、本やグッズを買うという場にとどまらず、訪れるお客さんにとって特別な記憶となるでしょう。お客さんが店舗を訪れた際に、視覚、触覚、そして聴覚の3つの感覚が組み合わさることで、お店での時間全体が顧客体験として印象に強く残るのです。

ただ 「物」 を売るだけでなく、その場でしか味わえない 「体験」 までもたらすことで、一度来店したお客さんは、もう一回体験したいという気持ちが芽生えることでしょう。結果としてリピーターの増加や、同じ推しを持つ人同士での推し界隈での評判や噂を通じた新規顧客の獲得にもつながります。

五感を活用したマーケティング

今回の事例から学べる点として、五感を活用したマーケティングへの示唆があります。

お店に導入されたボイスフレンドによって、お客さんは視覚、触覚、聴覚という異なる感覚を同時に刺激されることで、お客さんの記憶に強く残る体験がつくり出されます。

今回は書店での事例でしたが、他の業界やビジネスでも応用が可能です。例えば、ファッション業界では、服を試着する際にブランドと紐づけた香りや音楽を加えることで、商品だけでなくその店舗やブランド自体のイメージを強化できます。

視覚と触覚だけでなく、聴覚や嗅覚なども加わるので、顧客体験の密度がそれだけ濃くなります。濃密になるほどお客さんの記憶に強く残り、ブランドや店舗への親近感や愛着が生まれやすくなります。

視覚、触覚、聴覚、嗅覚などの五感のそれぞれを効果的に組み合わせた 「体験型マーケティング」 は、お客さんにとっての体験価値を高めます。このような顧客体験は、ブランドの差異化や顧客ロイヤルティの向上につながります。価格競争に巻き込まれることなく、ブランド価値を高めることができます。

デジタル化が進む状況でのリアルな体験の価値が再評価される中で、五感をフルに活用したマーケティングは、お客さんへの特別な体験と価値をもたらす手段として重要性が増していくでしょう。

まとめ


今回は、書店 「文喫 六本木」 でのボイスフレンド (推しの音声ガイドサービス) を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ボイスフレンドの事例は、視覚と触覚に加えて 「聴覚」 という第三の感覚が重要な役割を果たした。推しの声が感情に訴えることで、お客さんに豊かな体験を提供し、視覚と触覚だけでは得られない没入感を生み出した

  • お店での体験に視覚・触覚・聴覚・嗅覚・味覚の五感の要素が組み合わさることで、お客さんにとって記憶に残る買い物体験となる。五感を活用した体験型マーケティングは、ブランドの構築や顧客ロイヤルティの向上につながる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。