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ぺんてるのボールペン 「FLOATUNE」 。オノマトペが切り開く製品開発とマーケティング

#マーケティング #ブランド #オノマトペ

新製品のコンセプトを社内で共有する際、言葉の壁に直面したことはないでしょうか?

ぺんてるの新しいボールペン 「FLOATUNE (フローチューン) 」 の開発では、音や聴覚を重視して進められました。日本語特有の 「オノマトペ」 を活用した感覚的なコミュニケーション方法です。

抽象的な概念を具体的な製品特性に落とし込む手法として、オノマトペがどのように活用され、どんな効果をもたらしたのかーー。マーケティングの視点から、ぺんてるのユニークな開発手法の可能性をブランディングの観点も入れて紐解きます。

ぺんてるのボールペン 「FLOATUNE」 


出典: ぺんてる

ぺんてるは2024年6月に新しいボールペン 「FLOATUNE (フローチューン) 」 を発売しました。

フローチェーンは、滑らかな一体感のあるシルエットと安定感のあるペン先を目指しました。また、グリップ部分も工夫し、全体をシームレスなデザインに仕上げています。

開発には各部門から100人以上の社員が参加し、7年をかけて完成させたとのことです (リリース) 。

製品名の FLOATUNE は 「FLOAT (浮く) 」 と 「TUNE (調和) 」 を組み合わせた名前です。フローチューンは 「浮遊感」 をコンセプトに、インクや機構、デザインを一新し、心地よい書き味を追求しました。

オノマトペを活用した開発


フローチェーンの開発プロセスでは、「オノマトペ」 を用いて感覚的なイメージを開発メンバーの間で共有し合い、具体的な技術開発に反映させていきました (参考記事) 。

オノマトペとは

オノマトペとは、音や感覚を言葉で表現するための日本語の言語形式です。擬音語と擬態語の総称であり、具体的な音や状態を模倣して表現する言葉です。

オノマトペを活用することで、音や感覚を具体的にイメージしやすくなります。例えば 「ザラザラ」 と言うと、粗い表面の感触が頭に浮かびます。

オノマトペによって抽象的な概念を感覚的に表現できるため、コミュニケーションが豊かになります。感覚や感情を伝える際に効果的です。

マーケティング視点でのオノマトペの役割

では、ぺんてるの新しいボールペン 「FLOATUNE (フローチューン) 」 の開発において、オノマトペを取り入れたことの意義を考えてみましょう。

オノマトペで具体的な音や状態を模倣して表現することで、開発プロセスにおいて感覚的なイメージを共有するための強力なツールとなりました。

開発初期段階から、デザイナー、マーケター、技術者、製造担当者、営業担当者など、多岐にわたる部門の担当者が一同に集まり、合宿を通じて意見交換を行いました。

ここで全員のイメージを統一するためにオノマトペが用いられました。具体的な数値や技術ではなく、まず最初に感覚的な言葉を用いることで、抽象的なコンセプトを共有しやすくなりました。

オノマトペで 「WOW!」 を言語化



ボールペンがもたらしたい 「WOW!」 という驚きが具体的にどんなものか。開発では、「ヌルヌル」 「ツルツル」 「しっとり」 「サラサラ」 「もっちり」 「ドバドバ」 といった感覚を優先しました。

これらを言語化し開発メンバー全員での認識がそろったことで、ボールペンで何を実現するかへの方向性が定まります。

例えば 「ヌルヌル」 や 「ツルツル」 といったオノマトペは、インクの滑らかな流れや書き心地を具体的にイメージさせます。これにより、インクの特性やペン先の設計、グリップ部分の素材選びなど、具体的な開発に反映させることができました。

オノマトペを用いることで、メンバー全員が共通の感覚的なイメージを持て、それを技術仕様に落とし込む開発プロセスが円滑に進みました。

ブランディングへの示唆


マーケティングの観点で注目したいのは、FLOATUNE の開発において特に五感の中でも 「聴覚」 に焦点を当てたアプローチだということです。

オノマトペはブランド構築においても重要な役割を果たします。

聴覚体験からのブランディング

五感の中でも、聴覚を重視するオノマトペは、ユーザー体験を豊かにすることにつながります。

オノマトペは、音を表す言葉によって感覚を表現するため、聴覚に直接働きかけます。音は視覚や触覚と異なるかたちで人の感情や記憶を喚起します。そのため、オノマトペを用いることは、ブランド構築において有効な手段となるのです。

ユーザー体験とブランド構築

ブランドは、良いユーザー体験の積み重ねによって形成されます。ブランドは良いユーザー体験がきっかけとなり、商品やサービスへの価値イメージが蓄積され、やがてはユーザーの頭の中にブランドができあがるわけです。

ユーザー体験は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚という人の5つの感覚、すなわち五感によって様々な感じ方で得られます。

ぺんてるの 「FLOATUNE」 の開発において、関係者間でのオノマトペを用いた感覚的なイメージの共有は、ユーザー体験を重視する姿勢を反映しています。書き心地を 「ヌルヌル」 などと言語化し表現することで、ユーザーは滑らかで心地よい書き味を期待し、実際にその期待が満たされると、ブランドへの信頼感が高まるでしょう。

ぺんてるの 「FLOATUNE」 の開発におけるオノマトペの活用は、感覚的なイメージの共有を通じて技術開発を進める上で有効でした。聴覚に訴えるオノマトペを用いることで、ユーザー体験を重視した製品開発が可能となり、それがブランドの価値向上にもつながります。

オノマトペという音によって感覚を共有し、具体的な製品仕様に落とし込むこのアプローチは、マーケティングのブランド構築からも興味深いです。

まとめ


今回は、ぺんてるのボールペン 「FLOATUNE」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ぺんてるの新ボールペン開発では、「ヌルヌル」 「ツルツル」 といったオノマトペから言葉で感覚を共有し、多部門のメンバー間でコンセプトや開発の方向性を統一した

  • オノマトペを使うことで、抽象的な概念を具体的にイメージしやすくなり、コミュニケーションを豊かにする効果があった

  • マーケティングにおいて、聴覚に焦点を当てたオノマトペの活用は、ユーザー体験を豊かにし、ブランド構築に貢献する

  • 音を通じて開発メンバー間で音によりユーザー体験への感覚を言語化し共有し、具体的な製品仕様に反映させることで、ユーザーは滑らかで心地よい書き味を体験できる。それがブランドへの信頼感や価値向上につながる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。