#マーケティング #セグメンテーション #ベネフィット
お客さんのニーズを捉えられているでしょうか? 「20代女性向け」 や 「30代男性向け」 といった属性だけでつくったセグメントは、マーケティング活動において有効なのでしょうか?
今回取り上げたい 「ベネフィットセグメンテーション」 という手法を使えば、お客さんが本当に求めている 「価値」 を見極められます。
では、どのようにして隠れたニーズを発見し、お客さんの心を掴むことができるのかーー。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
マーケティングの STP
マーケティングには STP というフレームがあります。
STP は次の3つからです。
- セグメンテーション: 同じ特徴でグループに分け、市場を細分化する
- ターゲティング: 分けたセグメント (グループ) から、自分たちが注力するグループを選ぶ
- ポジショニング: そのセグメント内で自分たちの存在感を高め、確固たるポジションを形成する
通常のセグメンテーション方法
一般的な STP でのセグメンテーションでは、お客さんの属性情報によって分類する方法がとられます。
典型的な例は、BtoC の一般消費者向けのビジネスであれば、お客さんの性別年代です。30代男性、40代女性のように市場を分けていきます。他には、家族構成、居住エリア、職業、年収などが代表的です。
BtoB の法人向けビジネスであれば、業種・業界、売上規模や従業員人数、所在地、ビジネスモデル、日本企業か外資系業かなどです。こうした企業の属性情報によってセグメントを分解します。
人や企業を分けることの前提
こうしたお客さんの属性によって分けるのは、ある前提があります。
それは、お客さんの種類が変われば、置かれている状況、抱えている困りごと、解決したい問題、対処すべき課題感、求めるニーズ、得たいベネフィットも異なるということです。
例えば、20代の一人暮らし若年女性と、同じ20代でも子どもがいる家族の女性 (母親) では、持っている価値観や考え方、趣味嗜好も同じとは限らず、自ずとそのカテゴリーに求めるニーズは変わります。
洗濯洗剤を例にとれば、一人暮らしの女性はおしゃれ着を丁寧に洗ってくれる洗剤を求め、小さい子どもがいる女性は子どもが食事中に汚したり、外遊びで砂や泥で汚れた子どもの服をきれいにしたいというふうにです。
ここまでを一度整理すると、セグメントは人や企業という Who によって分けられることが多いですが、本質的には 「誰が」 「何を求めるか」 という Who と What の両方で分解することが大事なのです。
それを実現するのが 「ベネフィットセグメンテーション」 です。
ベネフィットセグメンテーションとは
ベネフィットセグメンテーションは、人や企業を 「得たいベネフィット (便益) 」 によって行う方法です。
求めるベネフィットとは、商品やサービスが属するカテゴリーにおいてお客さんが何を重視して選んでいるかです。ベネフィット、別の表現をすれば選ぶ理由から、お客さんを分けるというアプローチをとります。
求めるベネフィットの例
身近な例で求めるベネフィットとは具体的に何かを考えてみましょう。今度は台所洗剤を例にすると、台所洗剤へのニーズや得たいベネフィットには、次のようなものがあります。
- 頑固な油汚れを落としたい
- 泡立ちが良い (洗剤をスポンジに染み込ませてすぐに泡立つ)
- 食器の水でのすすぎがさっと終わる
- 洗剤の香りでリラックスしたい・気分を変えたい
- スポンジやまな板の除菌をしたい
こうしたベネフィットや求めるニーズにおいて、似ている人同士でグループを作っていくのがベネフィットセグメンテーションのやり方です。
台所洗剤へのベネフィットを5つ挙げましたが、そのまま5つのセグメントになることもあれば、「油汚れを落とす」 と 「除菌」 の2つは多くの人に共通したニーズであれば、この2つのニーズをひとくくりにしたセグメントになります。
売り手の立場になれば、商品からの提供価値でセグメントを定義するということです。
STP は、自社が提供できる価値を明確に定義 (Definition of Value: DoV) し、その価値を求めるセグメントをターゲットに決めていくプロセスとなるのです。
ベネフィットセグメンテーションのメリット
では、ベネフィットセグメンテーションのメリットについて掘り下げてみましょう。
メリットは、作ったセグメンテーションから打ち手につなげやすいことです。
ベネフィットやニーズはお客さんが求めていることであり、商品やサービスを選ぶ理由です。選ぶ理由が自社商品に合っていれば、そのセグメントの人たちに自社の強みとして訴求することができます。
もし自社商品の特徴が求められるベネフィットに合っていなければ、そのセグメントは捨てる判断もあり得るでしょう。または、まずは選ぶ理由になってもらうような啓蒙活動からです。知られていないのであれば認知施策から、次に理解やお客さんが自分ごと化できることを促す打ち手です。
具体的には、先ほどの台所洗剤であれば、食器を洗うだけではなく見落としがちな食器洗いスポンジ・まな板の除菌にも使えることを訴求し、「除菌の必要性や課題感」 に気づいてもらいます。これにより、台所洗剤の商品を選ぶ判断軸に 「除菌」 を新しく入れてもらうわけです。
デメリットは?
一方で、ベネフィットセグメンテーションのデメリットはどんなものがあるでしょうか?
一言で言えば、ベネフィットセグメンテーションは作ること自体に難しさがあります。もれなくダブりがない MECE なセグメンテーションにすることが簡単ではないのです。
というのは、得たいベネフィットやニーズとは相手であるお客さんの頭や心の中にあるからです。顕在化し表面化しているニーズは見つけやすいです。例えばアンケートやインタビューで直接答えてくれます。
しかし、時にはお客さん本人も認識できていない潜在的な欲求や不満を知ることは、アンケートをやっただけでは出てきません。このような無自覚な気持ちや奥にある本音は、相手から言われたり提示されて初めて 「確かに言われればそうかも」 と気づくものです。
こうしたお客さんの奥にある気持ちという 「心のツボ (顧客インサイト) 」 を反映するセグメントをつくることは、そもそも簡単ではないのがベネフィットセグメンテーションの特性です。
マーケティングの醍醐味
マーケティングの意義は、市場を創造することです。市場にまだニーズとして明確に存在していないお客さんの不や欲求を見出し、それに応えられれば、新しい市場が生まれます。
まだ潜在的なニーズに対して、これから新しく実現されるであろうベネフィットをセグメンテーションに反映していくことは、いわば、「卵が先か鶏が先か」 の話です。
ここにマーケティングの難しさがあると同時に、市場創造というマーケティングの醍醐味があります。
まとめ
今回は、マーケティングの STP の中でも、特にセグメンテーションについて考察しました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ベネフィットセグメンテーションは、お客さんの求めるニーズや得たいベネフィットにもとづいて市場を分類する手法。同じ商品カテゴリーでも異なる顧客ニーズに応じたアプローチが可能になる
- 例えば台所洗剤では 「油汚れを落とす」 や 「除菌」 といった具体的なベネフィットからセグメントをつくる。それぞれへの顧客価値を定義し、ターゲット顧客を特定することで、より効果的なマーケティング施策が打てる
- ベネフィットセグメンテーションのメリットは、具体的なベネフィットやニーズにもとづくため、打ち手につなげやすい。商品がお客さんの求めるベネフィットに合っていれば、訴求力が増し、逆に合っていない場合はセグメントを捨てる決断もできる
- デメリットとしては、お客さんの潜在的なベネフィットやニーズを見つける難しさがある。心の奥にある本音や無自覚な欲求を反映させたセグメントを作ることは難しい
- しかし、ここにマーケティングの醍醐味がある。潜在的な顧客ニーズを見出し、新しい市場をつくるところにマーケティングの役割がある
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