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ゼブラの油性ボールペン 「ブレン U」 。 "ターゲット利用シーン" を明確にしての商品開発

#マーケティング #ターゲット利用シーン

自社商品は、本当にお客さんのニーズを満たせているでしょうか?

機能は充実しているのに、なぜかあまり売れない…。そんな悩みを抱えていませんか?

実は、見落としがちな重要なポイントがあります。それは、商品やサービスが使われる 「具体的な場面」 に注目することです。

ターゲット顧客というお客さんを絞るだけでなく、お客さんの 「利用シーン」 にまでフォーカスすることで、捉えきれていなかった顧客ニーズが見えてきます。

では、どうすればいいのか?その秘訣を、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

ボールペン 「ブレン U」 


出典: ゼブラ

ゼブラが新しい油性ボールペンを発売しました。名前は 「ブレン U (ユー) 」 です。

開発の背景

ゼブラは、自社で行ったウェブアンケート調査の結果から開発のヒントを得ました。

調査からわかったのは、普段の仕事や生活の中で最も多いボールペンの筆記シーンは、付箋にメモをする時が最も多く、続いて 「打ち合わせ中のメモ」 や 「スケジュールを記入する時」 など、文字をサッと書くというシチュエーションが上位に来ました。

付箋やノートへのメモ、移動中や外出先で書く時、会議や会話中のメモなど、日常のなかでは様々な書くシーンがあります。不安定な状態で、かつ急いで書いた時は力が入らず、乱れた字や薄い字になってしまいがちです。

ゼブラはこうした利用シーンにおいて書きやすいボールペンとなることを目指しました。机に座って仕事をする人だけではなく、不安定な状態で急いで書くシーンも多くある、たとえば飲食店、医療、外出の多い営業などの職業の人たちを利用者として想定しています。

以上のような経緯から、急いでサッと書くシーンでもストレスフリーに書ける 「ブレン U」 が誕生しました。

利用シーンを訴求するマーケティング



商品開発だけではなく、マーケティングにおいてもゼブラは利用シーンを活用しています。

一般的にはボールペンやシャープペンの訴求は、機能性が強調されます。それに対してゼブラが 「ブレン U」 で打ち出したのは、機能だけではなく 「利用シーン」 も訴求しています。具体的には 「不安定な場所でも濃く書けて使いやすい」 というシーンです。

たとえば、立ち仕事が多い看護師や接客業、ビジネスパーソンが急いでその場でメモを取ったり、急な電話が来て付箋に走り書きしたりするというシチュエーションです。ブレン U の公式サイトの商品紹介ページにも大きく掲載し、文房具店などに置かれる販売什器 (じゅうき) にも、紙を手に持ってメモを取る状況での試し書きを行えるようにしました。

学べること


ではゼブラの 「ブレン U」 の事例から、マーケティングの観点で学べることを掘り下げていきましょう。

シチュエーションまで絞る

一言で表現をすれば、学びは 「商品やサービスが使われるシチュエーション (利用シーン) を絞って明確にしよう」 です。

お客さんを絞ってターゲット顧客を設定することは、マーケティングではよく行われます。今回の事例から学べるのは、ターゲット顧客だけではなく 「ターゲット利用シーン」 まで絞ることの重要性です。

ターゲット利用シーンを設定する意味

なぜ重要なのかですが、利用シーンを絞ることによって、お客さんのそのシチュエーションについて解像度高くお客さんのことを理解ができるからです。

ボールペンに当てはめれば、よくある書くシーンで起こるボールペンでの書きづらさや不便なところ、使っている人の不満点が利用シーンを絞ることで見えてきます。具体的には、不安定な状態で急いで書くので手に力が入らず、乱れた字や薄い文字になってしまうことです。

このように、ターゲット利用シーンを絞れば、見過ごされてしまっている商品を使うときの不便さ、隠れている顧客ニーズの発見につながるわけです。

ボールペンというカテゴリーは目新しいものではなく、ありふれた文具というイメージがあることでしょう。このような商品カテゴリーでも、着眼点や方法次第で勝機を見出せます。

そのためには、次のような問いが有効です。

  • 今までは自分たちの商品はどのように使われていたのか
  • そこにはまだ解決されていない問題は潜んでいないか
  • その問題を解決するためにはどうすればいいか
  • 問題が解決されることは、お客さんにとって本質的にどんなうれしいことなのか


ターゲット顧客だけではなく、「ターゲット利用シーン」 まで絞り、理解への解像度を上げていくことによって、既存の商品では解決されていないニーズに気づけます。そして、解くべき問題がシャープになり、問題を解決することでお客さんにもたらすことができる顧客価値の定義ができるのです。

利用シーンという1本の軸を通す

買って欲しい人を決め、さらにいつ使って欲しいかの利用シーンまで明確にすることによって、コンセプト、商品特徴やネーミング、広告や宣伝が一貫性のあるものになります。商品開発、マーケティング、営業と販売までで1本の軸が通るわけです。

売り手の活動や施策に一貫性があると、買い手にはわかりやすく伝わります。これができるのは、ターゲット顧客だけにとどまらず 「ターゲット利用シーン」 まで絞り明確にしているからなのです。

まとめ


今回は、ゼブラの新しい油性ボールペン 「ブレン U」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ゼブラの 「ブレン U」 の事例から学べるのは、商品やサービスが使用されるシチュエーション (利用シーン) を絞ることの重要性

  • ターゲット顧客を特定することは一般的だが、シチュエーションにまで焦点を当てることで、お客さんが直面する具体的な問題や不便さ、顧客ニーズをより深く理解できる

  • お客さんの利用シーンを中心に据えることで、商品開発からマーケティング、販売に至るまで一貫した活動になる

  • ターゲット利用シーンを明確に絞ることにより、売り手の活動全体が統一感を持つようになり、顧客価値が買い手にわかりやすく伝えられる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。