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広告コピーから顧客インサイトへの示唆。心のスイッチボタンを押すマーケティングの秘訣とは?

#マーケティング #広告コピー #顧客インサイト

あなたが最近買った商品やサービスについて、買おうと思った時の気持ちは覚えていますか? 「これだ!」 と思った瞬間、何か心の奥底で響くものがあったでしょうか。

私たちの購買行動の奥には 「顧客インサイト」 と呼ばれる隠れた気持ちが大きく関わっています。普段は意識していないこの感情が、ある瞬間に呼び覚まされ、人の行動を左右するのです。

顧客インサイトを理解し活用することで、お客さんの心に深く響くマーケティングになりますが、ではどうすればいいのでしょうか?

今回は、広告コピーのつくり方をヒントに、顧客インサイトとは何か、インサイトを活かした効果的なマーケティングについて詳しく見ていきます。

広告が与える 「初めて見るような気がする」 感覚


糸井重里さんは、広告コピーをつくる際には 「初めて見るような気がするけど、ずっと前からあった気がする」 という感覚を持ってもらうことを意識しているそうです (参考記事) 。これは自分がいつもやりたいと思っていたとのことです。

 「そういえばそうかも」 を呼び起こす

この 「初めて見るような気がするけど、ずっと前からあった気がする」 という感覚をもう少し掘り下げてみましょう。

誰もが一度は感じたことがある 「懐かしさ」 や 「安心感」 をテーマにした広告があるとします。懐かしさや安心感があることで、消費者はその広告が示す内容に親しみを感じ、共感しやすくなるでしょう。

例えば、地元の風景や昔から続く家族の習慣などを取り入れた広告に人は共感をし、「ずっと前からあった気がする」 という感覚を生み出します。この感覚は、広告を見た人にとって、その内容がまるで自分の中にずっと存在していたかのように自然に響くものです。

こうした感覚が生まれる背景には、広告コピーが 「そういえばそうかも」 と見た人の潜在意識を刺激し、それを顕在化させる力があるからです。無意識の中に隠れていた感覚や、まだ言葉にできていなかった気持ちを、広告コピーが的確に言葉として表現することで、見る人は 「ずっと前からあった気がする」 と感じるのです。

 「おいしい生活。」 に見る潜在意識の顕在化

糸井重里さんのコピーの代表作である 「おいしい生活。」 を例にさらに考えてみましょう。

このコピーは、日常生活の中で感じる小さな幸せを表現したものです。糸井重里さんの 「おいしい生活。」 というコピーが多くの人々の心を捉えた理由は、誰もが日常的に体験している 「食べる喜び」 をシンプルで明快な言葉にまとめたことです。

人にとって、「おいしいものを食べると幸せだ」 というのは普遍的な価値観ですが、普段の食事において常にそれを意識することはあまりないでしょう。

しかし 「おいしい生活。」 と言葉にして表現されることによって、「確かにおいしい食生活を送ることは幸せなことだ」 と共感を呼び起こし、自分にとって大切なことであると心に強く残るわけです。広告コピーが潜在的な感覚を言葉にすることで、人々の心に響くのです。

顧客インサイトに響くマーケティング


糸井さんが、広告コピーをつくる際には 「初めて見るような気がするけど、ずっと前からあった気がする」 という感覚を生むのを重視している考え方は、マーケティングにおける顧客インサイトへの響き方に示唆があります。

顧客インサイトとは

顧客インサイトとは 「お客さんを動かす隠れた気持ち」 のことです。

普段は本人も意識していないものの、何かしらのきっかけで呼び起こされることによって、態度変容や行動変容につながる 「心のスイッチボタン」 が顧客インサイトです。お客さん自身が言葉にすることが難しかったり、自分でも気づいていなかったりする感情です。

顧客インサイトが何かのきっかけで顕在化することで、お客さんの心理と行動が変わります。例えば、特定の商品やサービスを見たときに 「これこそ自分が求めていたものだ」 と感じるのは、その商品の訴求内容が顧客インサイトにうまくマッチしているからです。

お客さんのインサイトを発掘し、インサイトに応える形でコミュニケーションを設計することが、マーケティングにおいて重要になります。

Apple の 「Think Different」 に見る顧客インサイトへの訴求

Apple の 「Think Different」 というメッセージも、普段人々が心の中で感じている 「自分は他の人とは違う存在でありたい」 という願望をうまく引き出したものです。


Think Different は、スティーブ・ジョブズが復帰した直後の1997年に Apple が発表しました。CM の冒頭で 「クレイジーな人たちがいる」 というフレーズから始まります。

メッセージは多くのクリエイターやイノベーターと言われる人たちにインスピレーションを与え、 「Apple の製品はただの道具ではなく、自分の個性を表現する手段だ」 と多くの人に感じさせました。

自分の個性や独自性を大切にしたいという気持ちを持っていたとしても、日常生活の中でその気持ちを表現する機会は多くはないでしょう。

Think Different という呼びかけには、人々の中にある 「他者と異なることを恐れない」 という気持ちを呼び覚ます力があります。

だからこそ、Think Different という言葉を目にしたときに、普段は忘れがちな 「自分の個性を大切にする気持ち」 、心の奥にあった 「自分らしさを取り戻したい切望感」 や 「新しいことに挑戦する意欲」 が呼び起こされます。そして、 「ああ、そうだ、自分は違う視点 (Think different) を持ちたいんだ」 と再認識させられるのです。

顧客インサイトに刺さるコミュニケーション設計

このように、顧客インサイトに触れるコミュニケーションから、人々の心に響き、共感を呼び起こすことができます。

マーケティングコミュニケーションにおいて、顧客インサイトに刺さる訴求をすることにより 「初めて見る気がするけど、ずっと前からそう思っていたような気がする」 という状態に導けます。

例えば、食品ブランドが 「家族みんなで囲むあたたかい食卓」 を訴求する場合、多くの人は自分の家族と過ごした思い出とリンクさせます。

忙しい生活の中でその感覚は埋もれがちなので、家族と一緒に過ごす時間の重要性や、家族との食事がもたらす心の温かさは、多くの人があらためて共感できる感情です。

潜在的に持っている 「家族との時間は大切だ」 という感覚を顕在化させることによって、相手は 「そうだ、家族との時間は大切だ」 と感じ、その結果として商品の購入や行動の変化につながるのです。

深層心理に触れるマーケティングのポイント

こうした顧客インサイトにもとづくマーケティングは、お客さんの深層心理や本音に近い心の琴線にいかに触れられるかがポイントです。

マーケティングで成功するためには、商品の機能や特徴を訴求するだけではなく、自社商品がもたらす顧客体験や感情的な顧客価値に焦点を当てることが重要です。「自分が求めていたのはこれだ」 と相手に感じてもらうことができます。

例えば、飲料商品のマーケティングであれば、 「このドリンクが喉の渇きを癒す」 という機能面にとどまらず、 「飲むことで感じる爽快感やリフレッシュ感」 を強調することで、感情に訴えかけることができます。さらに、ストーリーの要素として 「仲間と一緒に同じものを飲む瞬間の一体感」 や 「仕事終わりに飲む一口の解放感」 を描くことによって、お客さんにとっての特別な体験をイメージを持ってもらえます。

このように、お客さんに 「ずっと前からあった気がする」 と直感的に感じれ、心の奥に普段は眠っている顧客インサイトに響く訴求から、商品の持つ物語や顧客価値を伝えることで、お客さんの心に深く届くマーケティングになります。

まとめ


今回は、糸井重里さんの広告コピーの考え方を取り上げ、マーケティング全体に学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 顧客インサイトとは、人を動かす隠れた気持ち。普段は意識されないが、何かのきっかけで顕在化すると態度変容や行動変容を引き起こす心のスイッチボタン

  • 顧客インサイトにもとづくコミュニケーションは、お客さんに強い共感を与え、行動を促す効果がある。例えば、家族との時間の大切さを訴求することにより、普段は意識していない価値観を呼び起こし、お客さんの行動につなげることができる

  • お客さんへのコミュニケーションでは商品の機能的な説明だけでなく、感情的な価値や体験も訴求するといい。お客さんが魅力的な体験や得られる価値を想起できることによって、「自分が求めていたものはこれだ」 と感じてもらえる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。