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阪急電車 (有川浩) 。ローカル線の物語に学ぶ、顧客理解の旅

#マーケティング #顧客心理 #本

本当にお客さんの心をつかめているでしょうか?日々の業務に追われ、顧客理解が表面的になっていませんか?

今回は、小説 「阪急電車 (有川浩) 」 からのマーケティングへの示唆として、顧客視点になり、顧客理解を深めるヒントを紐解きます。


小説物語から学べる、顧客理解の奥深さと継続の重要性、ぜひ一緒に見ていきましょう。

小説のあらすじ



小説 「阪急電車」 は、阪急今津線のローカル線を舞台に、登場人物たちの日常を描いた物語です。

阪急今津線の始発駅から終点駅まで、片道15分ほどの8つの駅が順番に、それぞれ一章ずつ別々の登場人物を主役にしています。小説では路線を往復するので、全部で 8 × 2 = 16 の16章からなっています。

各章の話はつながっていて、前の章の主人公と関係する人が次の章の主人公になります。たとえば、同じ阪急電車の車両にたまたま一緒に乗っていた人、偶然声をかけられた人など、他人だった人たちが阪急電車を通じてつながっていきます。

登場人物には、会社員、大学生、女子高生、祖母と孫などが含まれ、それぞれの物語が軽やかに進行し、お互いに関連し合っています。短編でありながら、各章の話はストーリーがバトンを渡されるように連続して紡がれていく物語です。

甘酸っぱい青春や愛憎劇など、様々な人間模様を描いており、読者にはどこかほっこりとした気持ちを与えるような作品です。

おもしろく読めたこと


この小説の特徴は、次の章に入ると直前の章のことを 「別の登場人物の立場」 で知ることができることです。

章が変わると主人公が変わり、前の章での起こった出来事、かけられた言葉、された行為が別の人 (次の章の主人公) にはどのように映ったのか、何を思ったか、どんな影響があったのかを、異なる視点で理解できます。

例えば、最初の主人公の女性の OL の一見すると非常識な行動や服装が、一緒に乗り合わせていた大学生カップル、孫を連れていたシニア女性がどう思ったかというふうにです。

相手に伝えたかったことが、相手にはしっかりと伝わることもあれば、相手からは誤解されることもあります。人が他人の言動や振る舞い、出来事から何を思うか、どんな行動を起こすか、その奥にはどんな気持ちが潜んでいるかについて、登場人物たちの感情の変化や人間心理を興味深く読めます。

マーケティングへの示唆


では、「阪急電車」 の物語からビジネスに学べることを掘り下げていきましょう。

小説 「阪急電車」 からマーケティングへの学びとしてつながるのは、マーケティングでの顧客理解です。

マーケティングにおいて、顧客理解の必要性は避けて通れません。「阪急電車」 という小説で描かれる人間模様は、顧客理解を深めるヒントに満ちています。

マーケティングとは

あらためて、マーケティングとは何かを再確認しておきましょう。

マーケティングについては、様々な解釈や定義がありますが、ここでは私自身の考えを述べると、マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 です。この捉え方は、マーケティングは広範囲にわたる活動だということを意味します。

選ばれる理由をつくり、商品やサービスがお客さんから選ばれ続けるためには、顧客理解が欠かせません。

小説 「阪急電車」 に学ぶ顧客視点

小説 「阪急電車」 では、様々な登場人物が偶然や意図的に交わり合い、それぞれの視点から異なる物語が展開されます。

小説では、直前の章の主人公 A さんの心理と行動が描かれ、次の章の別の主人公 B さんの行動と心理が続きます。異なる2人の違う人の視点が合わさることで、「そうだったのか」 という気づきを読者に与えてくれます。

各章ごとに主人公が変わり、前章での出来事が別の人の新たな視点から再解釈される様子は、マーケティングで求められる顧客理解のプロセスに似ています。

たとえば、ある章の登場人物 (主人公) が取った行動や発言が、別の登場人物 (次の章の主人公) にどのように受け取られるかというのは、マーケティングにおけるメッセージングへの示唆があります。

マーケティングでは、こちらが意図して送ったメッセージがしっかりと伝わることもあれば、意図せぬ伝わり方になってしまうこともあります。そこで、相手の状況、どんなことに価値を見出すかの価値観を想像し、お客さんにはメッセージがどう伝わり、どのように受け止められるかを理解しようとする姿勢が大事です。

阪急電車という小説が教えてくれるのは、相手の立場に立ってものごとを考える重要性です。これはマーケティングにおいて、お客さんの視点になって自社の商品やサービスを見ることに通じます。

お客さんが何を求め、何を感じているのかを掘り下げることによって、顧客理解への深い洞察につながります。

継続的な顧客理解の必要性

マーケティングでの顧客理解は、一度やって完了し終わりになるものではありません。

時代や技術が進化する中で、顧客ニーズや行動も変わり続けます。デジタル時代、AI 時代、さらにはメタバース時代が到来しても、顧客理解の重要性は変わりません。むしろ、その重要度はますます高まるでしょう。

顧客理解の解像度は、ビジネスの成否を分けるカギを握ります。生活者環境が変化し、お客さんの置かれた状況、価値観やニーズが変われば、それに対応してマーケティングも適応させることになります。顧客理解が一時的によくできたとしても、継続を怠れば、すぐに市場の変化に取り残されてしまうでしょう。

終わりなき顧客理解の旅

顧客理解には終わりがありません。どんなにお客さんのことを理解したと思っても、環境が変わり、状況、お客さんの心理、行動や習慣が変われば、再びお客さんの理解をやり直す必要があります。

小説 「阪急電車」 における登場人物たちの交流、気持ちや価値観の変化が示唆するように、顧客心理は多面的であり、絶えず変化するものです。マーケティングでは 「顧客理解への終わりなき旅」 を続ける意思を持ち、常にお客さんとの対話を深めていくことが大切です。

市場がどれだけ変わろうとも、顧客理解の旅を続ける限り、お客さんから選ばれ続ける理由を見つけ出すことができるでしょう。

まとめ


今回は、書籍 「阪急電車 (有川浩) 」 をご紹介し、マーケティングに学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 小説 「阪急電車」 は、各章ごとに異なる人物の視点から物語が再解釈されていく。登場人物たちの視点の変化は、マーケティングにおける顧客理解に示唆がある

  • お客さんの立場に立ち、置かれた状況や持っているであろう価値観を想像し、お客さんが何を感じるのかを理解しようとする姿勢が大事

  • 顧客理解は 「終わりなき旅」 のようなもの。「阪急電車」 の登場人物たちの心理変化が示すように、お客さんの状況や心理も多面的で変わり続ける

  • 顧客理解は一度やって終わりではない。一時的な顧客理解に満足せず、お客さんとの対話を深め、常に最新の顧客理解に更新し続けることが大切


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。