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シニアの 「ココロの定年」 と 「カラダの定年」 を捉えたシニア向けマーケティング

#マーケティング #顧客理解 #ココロとカラダの変化

年齢を重ねるごとに、好きだったことや日常の楽しみが少しずつ負担に感じるようになることがあります。こうした 「ココロの定年」 や 「カラダの定年」 は、生活者の消費行動にも影響を与えます。

今回は、食事や旅行などさまざまな活動における 「心と体の変化」 に焦点を当て、その変化がマーケティングにどんな示唆をもたらすかを考えます。

料理に疲れはじめる年齢、大盛りがしんどくなる年齢


博報堂生活総合研究所が実施した 「食に関する生活者調査 2024」 から、興味深い結果が報告されています (参考記事) 。

調理寿命

この調査では、人々が 「料理を作ることに疲れを感じる年齢」 について分析し、精神的な面と体力的な面での 「調理寿命」 を示しています。

具体的には、「ココロの調理寿命」 が平均56歳5カ月で、精神的に料理が面倒になりがちな年齢がこの頃に訪れることが分かりました。一方、体力的に料理が辛くなり始める 「カラダの調理寿命」 は平均63歳1カ月です。

この約6年8カ月というギャップは、精神的な負担が先行し、その後に体力的な問題がより顕著に現れることが多くの人に共通していることを示しています。精神的な面で料理に対する意欲が先に減少し、その後に体力的な要因が加わることで、料理をやらなくなるという生活の変化です。

焼き肉寿命は50歳

また、食べることに関しても興味深い結果が調査からわかりました。

  • 大盛りを注文する意欲が尽きる【大盛り寿命】は44歳1カ月
  • 行列してまでラーメンを食べようと思わなくなる【行列麺寿命】は45歳3カ月
  • 焼き肉が重たく感じるようになる【焼き肉寿命】は50歳11カ月


これらから、精神的な変化と体力的な変化がそれぞれ異なるタイミングで訪れることが浮き彫りになります。

具体的には、大盛りを注文することができなくなる年齢が44歳と比較的若い段階で訪れることから、食べ物の選び方や食べる量が減少することが、料理を作る意欲の減少にもつながっていそうです。精神的な面での疲れが先に訪れ、それが体力や実際の行動に波及するという構図も見えてきます。

食以外の定年

博報堂生活総合研究所の調査では食生活についてでしたが、他の分野でもココロとカラダの定年はありそうです。

例えば、旅行です。シニア世代になると、旅行に出かけることへの意欲が低下し、遠出を避け近場を好むようになるのは、旅行におけるココロの定年のひとつです。身体的に長距離移動が辛くなり旅行を控えるようになるのがカラダの定年と言えます。

運動についても、動きの激しいスポーツに対する気力が薄れたり、体力の衰えからジョギングからウォーキングなど軽い運動に切り替えることもあるでしょう。これらは、心と体の変化が連動して生活の中で影響を与える例です。

他には、車の運転です。混雑した道路、狭い道、夜間運転に対する不安が増し、運転を控えるというココロの定年が現れます。加えて、視力の低下や反応速度の衰えにより、運転自体が難しくなるカラダの定年もあります。

また、読書に関しても、知的好奇心がなくなったり、文字を読み続けることへの集中力の低下により読書量が減る、そして老眼などの視力の衰えよって文字が読みづらくなるというのも起こります。

社交活動についても、イベントや人と会うことへの意欲が減り、体力的に遠くまで出かけて会いに行くことやお酒をともに飲むことが難しくなるなど、今までの人間関係から離れることが増えるという社交的な定年です。

マーケティングへの示唆


では、ここまで見てきたココロとカラダの定年という話から、マーケティングに学べることを掘り下げていきましょう。

ココロとカラダの変化に配慮した打ち手

年齢を重ねることで料理に対する意欲が減少するのであれば、そのターゲット顧客層に向けて調理済み食品や簡便な調理アイテムを訴求することが有効です。

その際に、ほんのひと手間を入れての料理する楽しみを提供することによって、完全に料理から離れることをやわらげ、お客さんに新しい価値を提供することが考えられます。例えば、調理済み食品を使いながらも、自分で少しアレンジを加えるような提案をすることにより、手軽さと自分らしさの両方をもたらすことができるでしょう。

料理に関する精神的な負担を軽減するために、料理を 「義務」 として捉えるのではなく、「楽しみ」 や 「リフレッシュ」 と感じてもらえるような顧客体験の提供も有効です。

例えば、簡単なレシピ動画や短時間で作れるアイデア料理を紹介することで、料理が負担ではなく、それでいて作る楽しみを併せ持った時間にできます。「10分でできるチーズリゾット」 や 「人気の卵焼きアレンジ」 などの具体的なレシピ動画を提供することによって、視聴者にとってより親しみやすく、実践しやすい内容になるでしょう。

そのときどきのライフステージに合った、つまり顧客文脈に沿った顧客価値を提案することにより、日常生活に前向きな気持ちを持ち続け、充実した生活をサポートすることができます。

顧客理解からの価値提案

注力顧客の 「ココロ」 や 「カラダ」 の変化を理解し、消費行動や価値観にどう影響するのかを見極めることが重要です。

精神的な疲れが購買意欲の低下を招く場合や、身体的な負担が特定の商品選択を左右する場合など、生活者の心理と身体の双方に注意を払うことが求められます。

例えば、お客さんが年齢や生活の変化によって感じる 「負担」 を減らす提案をすることや、その時々の気持ちに寄り添ったメッセージを伝えるというふうにです。

年齢を重ねることで料理に対する意欲が減少する注力顧客層に向けて、調理済み食品や簡便な調理アイテムを訴求することが有効です。ひと手間を加えて料理を楽しむ提案をすることによって、前向きに料理に取り組むきっかけを提供することも考えられます。

生活者のココロやカラダの変化に寄り添い、その変化を理解したうえで適切な商品やサービスを提案することこそが、ブランド価値の向上につながります。お客さんの人生のさまざまなステージに寄り添い、その時々で必要とされる価値を提供し続けることが、長期的なブランドロイヤルティを育むカギとなるのです。

お客さんの状況、心理、価値観、行動がどのように影響し合っているのかを深く理解し、その理解にもとづき生活者の視点でマーケティング活動を展開していくことが大切です。

まとめ


今回は、博報堂生活総合研究所の 「食に関する生活者調査 2024」 を取り上げ、マーケティングへの示唆を考えました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • シニア世代における 「ココロの定年」 と 「カラダの定年」 は、食事、旅行や運動など生活のあらゆる側面に影響を与える。事実、博報堂生活総合研究所の調査では、精神的な疲れが先行する 「ココロの調理寿命」 は56歳、体力的な限界を示す 「カラダの調理寿命」 は63歳だった

  • ココロの定年やカラダの定年が購買・消費行動にどう影響するかを理解し、商品開発やマーケティングに活かすことが大事。例えば、シニア世代の人にとって料理が心理的な負担になるなら、調理済み食品を提供するよりも、あえて料理でひと手間加えられる楽しみのある商品やサービスを提案する

  • お客さんの 「心」 と 「体」 の状態や変化を理解し、顧客文脈に沿った価値を提供することが重要。お客さんを起点に考え、相手視点でのマーケティング活動を展開する


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。