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アートな天然水 「トゥモロー・ウォーター」 。デザインとストーリーからの顧客価値のつくり方

#マーケティング #差異化 #デザインとストーリー

自社商品は、他の競合商品との違いを打ち出せているでしょうか?

競合との機能的な差異化だけで勝負するのは、もはや限界かもしれません。では、どうすればお客さんの心をつかむ独自性を生み出せるのでしょうか?

デザインやストーリーが商品に感情的な共感や愛着をもたらし、お客さんの選択を左右します。今回は、天然水ブランドの 「トゥモロー・ウォーター」 の事例から、違いをつくって顧客価値につなげる秘訣を紐解きます。

アート天然水 「トゥモロー・ウォーター」 


出典: PR TIMES

ティグリス・ジャパンが提供する天然水 「トゥモロー・ウォーター」 が、2024年10月から首都圏の NewDays 店舗 (一部店舗を除く) と、Amazon と楽天市場の EC サイトで販売が開始されました。

トゥモロー・ウォーターは、ヘラルボニーとの協力によるブランドです。ヘラルボニーは、知的障害のあるアーティストとともに新しい文化を創造することを目指している会社です。ヘラルボニーで契約する作家3名のアートがトゥモロー・ウォーターのボトルに描かれています。

売上の一部は作家に支払われ、作家の創作活動を支援する仕組みです。

トゥモロー・ウォーターのコンセプトは、日常の飲料である水を通じてアートを身近に感じ、社会的意識を高めることです。アート作品が印刷されたパッケージでは、水を 「ギャラリー」 と見立て、消費者がアートを手に取りやすくなるように設計されています。

トゥモロー・ウォーターの発売は、障害者のアーティストたちの社会的認知を広げ、障害に対する偏見を変え、また、アーティストが経済的に自立できるための取り組みの一環です。

差異化の3つの要素


では、トゥモロー・ウォーターから学べることを掘り下げていきましょう。今回の事例は 「差異化」 に示唆があります。

差異化の方向性には大きく3つがあります。

  • 機能: 性能, 商品としてできること (能力) 
  • デザイン: 見た目 (美しさ, かっこよさ, かわいさ) 。ユーザーフレンドリーなデザイン
  • ストーリー: 商品の持つ独自ストーリー。例: 開発秘話や苦労話, つくり手の込めた想い。好きな・あこがれのインフルエンサーが使っている


イメージで言えば、機能が真ん中にあり、デザインは 「表側」 、ストーリーは 「裏側」 です。

トゥモロー・ウォーターのデザイン

トゥモロー・ウォーターの特徴は、2つ目の 「デザイン」 と3つ目の 「ストーリー」 にあります。

デザインでは、知的障害のあるアーティストが手掛けたアートがボトル全体に施されています。

特別な色を持たない水をキャンバスと捉え、多彩な作家の作品を引き立たせる "ギャラリー" のようなパッケージにすることによって、ボトルそのものがアート作品の一部となるようなデザインです。

消費者は、他の飲料商品ではなくトゥモロー・ウォーターを手に取ることで、日常の中にアートを取り入れる機会を得られます。さらに、社会貢献の一環として作家を支援しているという肯定感や満足感も感じることができるでしょう。

トゥモロー・ウォーターという天然水がアートギャラリーのような役割を果たし、日常生活に色彩をもたらす商品に変わる瞬間です。

ストーリー

そしてストーリーにおいては、アートを手掛けた作家たちの背景となる経歴がストーリーのひとつです。

たとえば、3人の作家のおひとりである Juri さんの紹介は次のように書かれています。

姉の鉛筆やクレヨンを使い2歳から絵を描き始める。

小学校、中学校では美術の成績はいつも 「3」 、美術の時間が一番苦痛だった。勉強に明け暮れた中学時代を経て、私立皇学館高校に入学したが、人間関係、運動、勉強すべてに行き詰まり高校1年の冬不登校になり統合失調症、対人恐怖症を発症。何もすることがない中、再び絵を描き始める。

25歳で昆虫などを現在のスタイルで描くようになり、27歳からアトリエ・HUMAN・ELEMENT で制作を開始、NPO 法人希望の園と作家契約、2013年から毎年東京でのグループ展に参加、その他国内外の展覧会に出品している。

トゥモロー・ウォーターが持つストーリー性は、他にはヘラルボニーが目指す障害のある作家の支援という社会的意義、そして、文化創造です。これらが強く打ち出されています。

消費者は、トゥモロー・ウォーターの水を買うことで売上の一部がヘラルボニーを通じて作家に支払われることで、知的障害のある作家たちの創作活動を支援し、新しい社会のあり方を推進しているという意識を持つことができます。

トゥモロー・ウォーターの 「明日をちょっとよくする」 というブランドコンセプトは、日常での飲料水の購入によって社会変革に参加できるという顧客体験をもたらします。

こうしたストーリーの要素が、トゥモロー・ウォーターという商品そのものに深い意味と価値をつくります。

デザインとストーリーからの独自性

天然水というミネラルウォーターは機能面だけでの差異化は難しいジャンルです。飲料メーカー各社からさまざまなミネラルウォーターのブランドが出されていますが、ひとりの消費者からするとブランド名やパッケージデザインを除いた純粋な天然水の機能性で何が異なるかはわかりにくいものです。

また、ミネラルウォーターと他の飲料、たとえば、お茶、コーヒー、清涼飲料水などと比較すると、水は無味無臭なので機能的な差異化は打ち出しにくいのがミネラルウォーターの特徴です。

その中でトゥモロー・ウォーターの独自性は、アートと社会貢献を融合させた点にあります。この2つで、他のミネラルウォーターのブランド、さらにはお茶などの飲料ブランドとも差異化されています。

デザイン面では、障害のある作家のアートを活用することにより、他の飲料水ブランドとは一線を画す視覚的なインパクトを出しています。各ボトルが一点ものの芸術作品のような魅力を持つことで、消費者の購買意欲を刺激し、コレクション性も高めました。

ストーリーの面では、障害者支援という社会的意義を打ち出すことで、エシカルな商品展開を実現しています。消費者はただ水を買って飲むだけではなく、社会的な貢献活動に参加するという顧客体験も得られます。

二階建ての価値構造

差異化の3つの要素である 「機能, デザイン, ストーリー」 は、提供される価値につながるものです。

価値を構造化すると、次のような 「二階建ての価値構造」 になります。

✓ 二階建ての価値構造
  • 二階: 付加価値
  • 一階: 土台となる基本的な価値


トゥモロー・ウォーターに当てはめると、一階の価値は天然水としてのおいしさや栄養素です。

ただし、この部分は土台となるものの、他のミネラルウォーターと比べての大きな違いはありません。成分調査をすればトゥモロー・ウォーターの独自性はあるかもしれませんが、消費者からすればその違いはいわば "誤差" のようなものです。

そこで重要になるのは価値の二階部分です。トゥモロー・ウォーターならではの付加価値として、先ほど見たような 「デザイン」 と 「ストーリー」 が威力を発揮します。

トゥモロー・ウォーターのアプローチは、機能面での差異化が難しい商品カテゴリーにおいて有効です。消費者の価値観や社会的トレンドをうまく取り入れ、商品に新たな意味づけを行うことで、より高い価値をもたらすことができます。

まとめ


今回は、アート性と障害者支援にも貢献できる天然水 「トゥモロー・ウォーター」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 差異化の3つの要素: 「機能」 は商品の性能や能力、「デザイン」 は見た目や使いやすさ、「ストーリー」 は商品の背景や作り手の思い。3つの要素が組み合わさることによって、商品はお客さんに特別な体験を提供し、感情的な共感や愛着が生まれる

  • デザインとストーリーからの独自性: 機能面だけでは差異化が難しいカテゴリーでは、商品にデザインやストーリー (例: 社会貢献や応援の意味づけ) の独自の要素を入れることで、新たな価値をつくり出せる

  • 二階建ての価値構造: 一階は基本的な価値 (機能) 、二階は付加価値 (デザインやストーリー) 。トゥモロー・ウォーターの事例では、一階部分の天然水としての基本価値に加え、二階のアートと社会貢献という付加価値で差異化を図っている


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。