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選ばれる選択肢になる!カーペットの価値を再定義した堀田カーペットのカテゴリーブランディング

#マーケティング #リブランディング #価値訴求

自社商品やサービスは、お客さんから 「選ばれる選択肢のひとつ」 になっているでしょうか?

少なくない企業が、商品単体の改良や販促施策の強化だけでは、市場シェアの拡大に限界を感じているのではないでしょうか。

今回は、カーペット市場の衰退に直面しながらも、カテゴリー全体の価値を再定義することで活路を見出した 「堀田 (ほった) カーペット」 の事例を取り上げます。

この事例からは、市場環境が厳しい状況でこそ、見直したい 「価値の伝え方」 のヒントが得られます。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

堀田カーペットのリブランディング


出典: HOTTA CARPET

堀田カーペットは、1962年に創業した老舗カーペットメーカーです 。

当時の課題感

そもそもの市場環境として、カーペットは1980年代には新築住宅の床面積の 20% に敷き込みカーペットが採用されていました。しかし、2005年には採用率がわずか 0.2% と、100分の1にまで減ってしまったという状況でした。

カーペットは時代と共に採用されなくなり、堀田カーペットも時代の逆風の影響を受けました。カーペットの需要低下により売上がピーク時の 45% にまで減少していました (参考記事) 。

堀田カーペットが直面していた課題は、次のようなものがありました。

  • カーペットへのネガティブなイメージ: カーペットはダニや汚れなどがつきやすいというイメージを持たれ、消費者の間でマイナスイメージが広がっていた

  • 建築技術の進化と代替素材の台頭: 新しい素材や防音性が向上したフローリングの普及によって、カーペットの機能的優位性が薄れていた

  • 建築業界の内情: 敷き込みカーペットを採用するには工事が必要であり、カーペットの施工はゼネコンに外注することになる。ゼネコンからすると、別途カーペットに対応すると手間がかかることから利益率が下がる。機能面だけで見れば、カーペットを上回る素材もあり、入居者からカーペットの採用への指定がないかぎり、カーペットはわざわざお客さんに提案するものではなかった

リブランディングの実施

堀田カーペットは、消費者がカーペットに持つ誤解を解消し、カーペットの新たな魅力を伝えることを決意しました。

リブランディングの一環として、Web サイトを刷新し、カーペットを取り入れた生活シーンやユーザーインタビューを紹介するコンテンツを充実させました。

BtoC 向け商品である 「COURT」 や 「WOOLTILE」 を新たに導入し、消費者がより気軽にカーペットを取り入れられるようにしました。

さらに次の大きな一手として、堀田カーペットはホテル事業への参入を計画しています。2025年に大阪府和泉市にホテル 「Tactile House Osaka」 をオープンし、カーペットを体感できる場を提供する予定です。

カーペットそのものの価値の再定義


堀田カーペットのリブランディングの事例で興味深いのは、小手先のアプローチではなく 「カーペットそのものの価値の再定義」 を行った点にあります。

カーペットが持つ独自の魅力を生活者に伝えることによって、消費者の選択肢の中にカーペットが含まれることを目指したのです。

カテゴリーへのポジティブイメージの形成

堀田カーペットは、従来あった 「カーペットはダニや汚れがつきやすい」 という消費者からのネガティブなイメージの払拭を狙いました。

自社商品ではなく、カーペットというカテゴリーレベルでの訴求を強化したことには明確な意図がありました。

というのは、一般的にカーペットブランドとして想起されるブランドが市場にはほとんどなく、堀田カーペットも、消費者の中でのブランドに対するブランドイメージは存在しないと言って状態でした。だからこそ、堀田カーペット (商品レベル) に対する消費者の認識以上に、カーペットそのもの (カテゴリーレベル) に対する消費者のイメージを変えることが重要だったわけです。

カーペットへのネガティブなイメージを払拭し、価値を正しく伝えることで、住宅購入やリフォームの際に、カーペットが自然と選択肢に入るように想起率を高める。そうすれば、おのずと堀田カーペットの商品が選ばれやすくなるだろうという見立てです。

自社商品のある暮らしの訴求

堀田カーペットが打ち出した 「カーペットそのものの価値の再定義」 とは、言い換えれば、「敷き込みカーペットのある暮らし」 てす。

例えば、室内にカーペットがあれば、小さな子どもが床でも寝転べたり、椅子の数に関係なく自由な場所に座れたりする日常生活のことです。

堀田カーペットは、カーペットのある暮らしを消費者にリアルにイメージしてもらうために、実際のユーザーの体験談を用いた記事や、データにもとづいた説明を行い、カーペットがもたらす生活の豊かさを積極的に伝えました。

具体的には、カーペットがあることにより、子どもが安心して遊べる柔らかな空間や、リビングで家族みんなでリラックスできる居心地の良いスペースになっている様子などです。こうした、実際の生活シーンやシチュエーションの中に自社商品が存在することを物語のように再現することで、カーペットがあり心地よい空間や暮らしになるポジティブな印象を形成しようとしました。

機能的価値の提示

カーペットへのポジティブなイメージをつくることを狙って、堀田カーペットはカーペットの機能的価値も訴求しました。

堀田カーペットの製品であるウール素材のウィルトンカーペットは、耐久性が高く、汚れがつきにくい特性を備えています。リビングルームで日常的に使っても長期間で美しい状態を保ち、子どもがこぼした飲み物の汚れも簡単に取り除けるため、家族全員が安心して使えるカーペット製品です。

堀田カーペットはこの点を科学的根拠とともに示し、カーペットが持つ実用性を伝え、機能面での優位性を強調しました。

感情的価値の提案

さらに 「カーペットのある豊かな暮らし」 という情緒的な価値の訴求に重きを置きました。

具体的には、小さな子どもが安心して遊べる柔らかな足触り、ペットがリラックスしてくつろげるスペース、家族が床に自由に座ったり寝転がったりできることなど、カーペットがもたらす生活の心地よさを打ち出しました。

また、寒い季節にはカーペットの保温性によって、足元から暖かさを感じられるという居心地の良い空間を実現することも伝えました。こうしたカーペットからの情緒的な価値を打ち出すことによって、カーペットは生活をより豊かにする存在として、堀田カーペットはお客さんに共感される価値を訴求したのです。

このように堀田カーペットのリブランディングは、自社商品レベルではなく1つ上のレイヤーであるカテゴリーレベルからカーペットそのものの価値をあたらめて定義しなおし、機能的価値と感情的価値の両方から 「より良い暮らしになる」 という顧客価値を提案しました。

カーペットの新しいポジティブなイメージをつくり、ひいては自社商品のブランド化と選ばれる状況をつくるというリブランディングでした。

まとめ


今回は、堀田カーペットのリブランディングの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 堀田カーペットは、カーペットそのものの価値を再定義した。豊かな暮らしの象徴としてのカーペットの存在意義を見出した

  • 従来のカーペットに消費者からの対するネガティブなイメージを払拭し、カテゴリー全体のポジティブな認識を形成することを狙った。カーペットの利点を強化することで、住宅購入やリフォーム時に消費者の選択肢に加えられるように働きかけた

  • カーペットの機能面の耐久性や汚れにくさに加え、情緒的な価値である暖かく快適な日常を描き、カーペットがもたらす 「より良い暮らし」 を訴求した。機能的価値と感情的価値の両方を打ち出し、生活をより豊かにするカーペットを提案した


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。