#マーケティング #消費の失敗 #顧客価値
消費者は、忙しい日々の中で効率的に時間を使ったり、満足感を得たいと考えています。そんな心理は、自社商品や競合商品を選ぶ際に、どんな影響を与えているのでしょうか?
今回は、映画やショートドラマのエンタメに求める消費者心理を探り、マーケティングにどう活かせるのかを考えます。
ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
上映時間が長いことでの映画視聴のためらい
エンタメ業界に向けたデータ・デジタルマーケティングサービスを提供する GEM Partners が、映画鑑賞者調査の結果を発表しました (リリースは参考記事) 。
調査結果は、映画館で映画を観たいと感じた時、上映時間の長さが観客にとってどれほど影響するかを示しています。
映画の上映時間が長いと鑑賞をためらう人が多い
GEM Partners の調査によると、映画劇場鑑賞者の 74% 、つまり約4人に3人が、映画の上映時間が長いと鑑賞をためらうと答えました。多くの人が長時間の映画鑑賞に抵抗を感じていることを示しています。
上映時間が長くなるほどためらいが増す
映画館での映画鑑賞をためらうのは、上映時間が長くなるほど増すようです。
上映時間が120分 (2時間) を超えると 21% の人が鑑賞をためらい始め、時間が20分に増えるごとにその割合が約10パーセントポイントずつ上昇しています。特に、180分 (3時間) 以上になるとためらう人は約6割と急増します。
映画ライト層は特に長い上映時間に敏感
映画館での年間鑑賞本数にもとづく分析では、年間1 ~ 2本の映画ライト層は、上映時間が140分を超える映画について鑑賞をためらう割合が 36% で、これは年間3本以上観るヘビー層の 28% に比べて8パーセントポイント高い結果でした。
ライト層が長時間の映画に対する負担を強く感じやすい一方、映画鑑賞の習慣があるヘビー層は、長時間映画にも心理的な抵抗感が少ないことがわかります。
ショートドラマ人気に見る人間心理
では次に、映画とは対極的な動画コンテンツであるスマホで見る 「ショートドラマ」 について考えてみましょう。ショートドラマが人気を集める背景には、どういったユーザー心理があるのでしょうか?
消費者が求める 「分かりやすさ」 や 「効率の良い消費体験」 、そして 「消費失敗を避けたい心理」 が深く関わっています。
予想しやすい展開と分かりやすさ
ショートドラマは、視聴者がわかりやすい 「起承転結」 で構成され、スムーズにストーリーに入り込めるのが特徴です。
たとえば、義理の家族に貧乏人だと誤解された主人公が、最後には身分を明かして家族を見返すといったショートドラマの展開は、どこか 「水戸黄門」 のような勧善懲悪の要素を持ちます。視聴者が 「こうなるだろう」 と予測しやすいストーリーになっています。
ストーリー展開が予想しやすい内容は、視聴者に見ていて安心感を与えます。日常的にストレスを抱えている消費者にとって、先の読めない不安な展開や複雑なストーリーを追うのは見ていて心理的な負担を感じることでしょう。そのため、ショートドラマのような 「ベタなストーリー」 は、安心してリラックスできるエンタメとして支持され、サクッと楽しむのに最適なコンテンツとして受け入れられているのです。
短時間でのエンタメ消費はタイパがいい
ショートドラマが特に若年層から支持される理由には 「タイムパフォーマンス (タイパ) 」 が良いことがあります。
タイパとは 「短い時間で効率よく満足感を得られるかどうか (価値があるか) 」 を重視する考え方です。ショートドラマのように 「短い時間で完結する」 「手軽におもしろさを味わえる」 というのはタイパの観点では魅力的な要素になります。
たとえば、SNS でスクロールしながら、10 ~ 15秒の断片的なエピソードを目にし、少し見ておもしろければ 「また次も見たい」 という気持ちが生まれ、気がつけば1話分を視聴してしまうというわけです。日常の少しのすきま時間で満足感を得ることができるため、視聴者は短尺動画を 「タイパが良いエンタメ」 として認識し、ショートドラマの人気が高まっているのでしょう。
選択肢が多すぎる中で 「消費失敗」 を避けたい心理
今の時代は、膨大な情報が日々生まれ、エンタメだけに絞っても多すぎる選択肢に囲まれ、何を消費するか選ぶのも一苦労です。
こうした状況では 「選択を間違えて時間をムダにしたくない」 という心理が働きます。消費の失敗を避けたいという気持ちは、ショートドラマのような簡単で試しやすいコンテンツの人気に影響を与えます。
ショートドラマは無料エピソードが多く、さらに 「復讐劇」 や 「逆転劇」 など視聴者の好むテーマが盛り込まれており、視聴前からある程度内容が予測可能です。また、短い時間で終わるため、つまらなければ途中で見るのをやめやすいことから、視聴ハードルが低く、失敗を恐れずに気軽に楽しむことができます。
加えて、SNS 広告で少しずつ断片的にショートドラマの内容を予告的に見せるため、視聴者は 「試しに見てみたら、やっぱり続きが気になった」 となりやすいです。消費の失敗へのリスクを減らし、なおかつ簡単に満足感を得られるという点が、ショートドラマの人気を支える要因となっています。
マーケティングへの汎用的な示唆
ここまで見てきた、長時間の映画鑑賞へのためらい、そしてショートドラマの人気には、両者には共通する人間心理が見られます。
そこで最後のパートでは、汎用化できるマーケティングへの学びを掘り下げてみましょう。
顧客の 「コストパフォーマンス」 志向に応える
人は、「時間あたりの価値」 や 「支払い金額あたりの価値」 を最大化することを重視します。
例えば、映画鑑賞の場合、長時間拘束されると 「コストパフォーマンスが悪い」 と感じます。実際にそうなることを恐れて、映画の放映時間が長いというだけで観るのをためらう人が増えます。
この心理は、日常生活の消費シーンにも見られます。例えば、食事に出かけるときにも、同じ価格であれば、品数や料理の充実度、提供スピードが速い店が好まれることが多いでしょう。
マーケティングにおいて、お客さんのコストパフォーマンス意識に応えるためには、「短い時間でいかに満足感を提供するか」 が大事になります。
例えばの例を考えると、美容院での 「クイックコース」 の提供や、ファストファッションブランドが展開する 「短時間で選びやすい店舗レイアウト」 などが挙げられます。こうした工夫により、お客さんは 「効率的に価値を得られる」 と感じ、ブランドやサービスへの満足度が高まるでしょう。
「消費の失敗」 を避けたい心理に寄り添った価値提案
多くの消費者は、膨大な情報や選択肢の中からどれを選ぶか決めかねているため、「消費に失敗したくない」 という心理が強くなっています。
映画やショートドラマの場合でも、視聴時間が長いほど 「つまらなかったら損をする」 というリスクを感じやすく、短時間で完結するものが選ばれやすいわけです。
消費者の 「消費の失敗を避けたい」 という心理に応えるには、選択肢の内容をわかりやすく伝えたり、試しやすくする工夫が必要になります。
例えば、サブスクリプションサービスで 「1週間の無料トライアル期間」 を提供する、あるいはアプリのダウンロード時に 「最初の数話は無料視聴」 を設けるなどの工夫が有効です。
他には、飲食店のメニューで写真やレビューが豊富に掲載されているもののほうが、注文して失敗する可能性は低くなると感じお客さんは選びやすくなり、実際に足を運んでくれる可能性が高まります。
こうしたお客さんの 「買ってみたら思ったのと違った」 となることを防ぐ工夫を売り手がすることで、お客さんは失敗リスクを感じずに商品・サービスを試すことができます。これにより、安心して買ってくれることにつながります。
まとめ
今回は、映画とショートドラマへの共通の消費者心理に注目し、マーケティングへの学びを考察しました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 消費トレンドとして、時間や支払い金額に対してのパフォーマンスを重視する傾向が強まっている。特にタイパのニーズには、短い時間で満足感できるかが問われる
- また、「買いものに失敗したくない」 という心理があるため、選択肢の内容をわかりやすくしたり、試せる機会をつくるなどの工夫が必要
- お客さんに 「効率的に価値を得られる」 と感じてもらい、ブランドやサービスへの満足度を高めることが大事。提供する価値のわかりやすさやスムーズな体験を用意することで、お客さんは安心して購入を決定しやすくなる
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