#マーケティング #経済学 #顧客起点
今回は、19世紀の経済学者であるジョン・メイナード・ケインズの 「雇用・利子および貨幣の一般理論」 を取り上げ、現代のマーケティングに活かせるヒントを紐解きます。
経済学からの学びをぜひ一緒に深めていきましょう。
雇用・利子および貨幣の一般理論
イギリスの経済学者であったジョン・メイナード・ケインズの 「雇用・利子および貨幣の一般理論」 は、経済学に大きな影響を与えた著作です。特にマクロ経済学の基礎を築いたとされています。
1929年の世界恐慌を背景に1936年に発表され、当時の古典経済学が説明できなかった失業問題や経済不況に対する新しい視点を提供しました。
「雇用・利子および貨幣の一般理論」 のポイントをいくつか見ていきましょう。
有効需要の原理
古典派経済学では、供給が需要を創造すると考えられていました。しかしケインズは、需要が供給を創造するという 「有効需要の原理」 を提唱しました。有効需要とは、消費、投資、政府支出、および純輸出 (= 輸出 - 輸入) の合計で表されます。
需要は消費者や企業による商品購入の意思と能力から生まれますが、需要がない場合、いくら供給能力があっても経済は低迷し、失業が発生するとケインズは述べました。
雇用と失業
ケインズは、労働市場が常に清算される (全ての労働者が仕事を得られる) というそれまでは支配的だった古典派の主張を否定し、不完全雇用の状態が長期間続くことがあると指摘しました。
ケインズの考え方によれば、世の中の需要が不足している場合、企業は生産を縮小し、雇用を減らします。そのため失業が発生します。この状況への解決策として、政府が積極的に介入し、公共投資や社会保障政策を通じて総需要を刺激することが必要であるとしました。
利子率の役割
ケインズは、利子率 (利子の水準) が投資と貯蓄に影響を与えると強調しました。
利子率が低ければ企業はより多く投資し、また人々は貯蓄よりも消費を選ぶため経済活動が活発化します。一方、利子率が高い場合は逆のことが起こります。企業の投資は抑えられ、消費よりも貯蓄がされ、社会にお金がまわらず経済は低迷するとケインズは述べました。
政府の役割
ケインズの理論で画期的だったのは、政府の積極的な役割を主張したことです。
民間の経済活動だけでは十分な需要を生み出せない場合、政府が積極的な財政政策 (公共投資の拡大や減税) や、金融政策 (利子率の引き下げ) によって経済を刺激すべきだとケインズは提唱しました。財政政策と金融政策により、雇用の拡大や経済の安定化が達成されると考えました。
マーケティングへの示唆
ケインズの 「雇用・利子および貨幣の一般理論」 は、経済政策だけでなく、現代のビジネスにも示唆を与えてくれます。
ここでは、次の3つの観点からマーケティングへの応用を考えてみます。
- 供給ではなく 「有効需要」 への着目
- 現場重視のアプローチ
- 買いにくい要因を取り除いての購買促進
では順番に見ていきましょう。
供給ではなく 「有効需要」 への着目
ケインズが着目した 「景気に影響を与えるのは供給よりも "有効需要" である」 という捉え方は、マーケティングにおける顧客起点に示唆的です。
ケインズは、供給側の都合だけで市場が機能するわけではないとし、需要が供給を動かす力であると考えました。マーケティングでも同じです。
製品やサービスを作れば売れる時代は終わりました。売り手の視点だけで考えるのではなく、お客さんが本当に求めているものや、どのように価値を感じるかに注目することが大事です。
お客さんの置かれている状況、何に価値を見出すかの価値観、普段の習慣や取っている行動、その時の心理、顧客ニーズなどをお客さんの立場になって顧客文脈を捉えるという 「需要側」 への理解が大切なのです。
例えば、アップルの iPod 。「1000曲をポケットに」 という人々の潜在的な欲求に応えた当時唯一と言っていい音楽プレーヤーでした。需要を理解し、それに応える製品開発が成功を収めた好例です。
現場重視のアプローチ
ケインズが生きた当時の多くの経済学者は、街のいたるところに失業者があふれているにもかかわらず、経済学の学問上で定義される 「失業者」 は存在しないと主張するばかりでした。ケインズはこの状況に問題意識を強く持ちました。これはケインズが古典派経済学の理論的なアプローチを批判し、実際の社会状況を重視する姿勢につながりました。
ビジネスの世界においても大切な教訓となります。
マーケティングでも理論だけに依存することにはリスクがあります。消費者の行動や購買動機は、理論的なフレームワークだけでは必ずしも捉えきれるとはかぎりません。
お客さんの生の声、購買行動、競合製品との店頭での比較など、現場でしか得られない情報があります。お店やオンラインでの実際の購買行動、商品を手にしたときの表情や仕草など、直接お客さんを観察したり対話から得られた一次情報をもとにした意思決定が不可欠です。
例えば、無印良品は IDEA PARK というお客さんの声を集める専門サイトを、ドン・キホーテはマジボイスという自社アプリを導入し、お客さんからのフィードバックを得る仕組みを積極的に取り入れています。お客さんとの直接のやり取りから得られる洞察が、製品開発やマーケティングに活かされているのです。
買いにくい要因を取り除いての購買促進
ケインズが提唱した政策のひとつに、世の中が不況の時には利子率を引き下げ、企業の投資や貯蓄よりも投資を促し、需要を喚起するというものがあります。
この考え方は、マーケティングにも応用できます。
マーケティングに置き換えると、お客さんが欲しいと感じていても、物理的または心理的な障壁により、せっかく買いたいと思ってもらえたのに、結局は買うことを妨げている状況です。物理的または心理的な障壁とは、例えば、詳しい商品情報や使い方が載っていない、お店で売られていない、ウェブサイトが見つかりにくい・使いにくい、高い価格などです。
そこで、マーケティング施策によって、こうした障害を取り除き、購入しやすい環境を整えることが大事です。価格の見直しやポイント還元、購入のしやすさや利便性の向上、商品に対する明確な説明や価値訴求が、需要を高めるための効果的な方法となります。
例えば、アマゾンの 「1-Click 注文」 は、購入プロセスを極限まで簡素化することで、ユーザーの購買障壁を減らしました。また、無料返品保証はネット注文の不安を払拭し、購入へのハードルを下げます。
以上のように、ケインズの経済理論は、現代のマーケティングにも多くの示唆を与えてくれます。
需要側という顧客起点の思考、机上や論理だけではなく現場を重視する姿勢、そして購買への障壁のなくすこと。これらの視点を取り入れることによって、より効果的なマーケティング活動にできるでしょう。
まとめ
今回は、ケインズの 「雇用・利子および貨幣の一般理論」 を取り上げ、マーケティングへの示唆を考察しました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ケインズの 「有効需要」 の概念は、マーケティングでの顧客起点の重要性に通じる。市場は売り手主導ではなく、お客さんが求めるものによって動かされるという当てはめができる。お客さんが本当に必要としているもの、何に価値を見出すかを理解し、需要側の顧客理解にもとづいた商品やサービスを提供することが大事
- ケインズが実際の社会状況を重視したように、マーケティングでも現場重視のアプローチを入れる。理論だけでは消費者行動や購入動機などの人間心理を十分に捉えきれない。お客さんの生の声や購買行動の観察や対話など、現場から得られる一次情報をもとに洞察をし、意思決定と実行につなげる
- ケインズの利子率引き下げによる需要喚起の考えも、マーケティングに応用できる。物理的や心理的な購買障壁 (商品情報の不足, お店で売られていない, ウェブサイトの使いにくさ, 高い価格) に対応することで、お客さんに商品を買ってもらいやすくする
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