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「使わない時間」に価値を生む。キングジムの A4 防災用品セットの新たな価値提案

#マーケティング #使わないとき #顧客価値

お客さんが商品を 「使う瞬間」 に目が行きがちですが、実は 「使わない時間」 にもビジネスチャンスが眠っています。

今回は、防災用品の事例を取り上げます。

オフィス文具メーカーならではの視点から生まれたユニークなアイデアから、マーケティングへの学びを、ぜひ一緒に深めていきましょう。

キングジムの防災セット


災害時に使う防災用品といえば、非常時の備えとして購入し、いざという時のために保管しておくものです。理想的には、一度も使うことなく役目を終えてほしい存在です。

防災用品は、保管してある 「使わない時間」 がとても長いというのが特徴です。

防災セットは、棚の奥や倉庫などの目立たない場所に保管されるため、非常時に見つけにくかったり、すぐに取り出しにくいという問題があります。いざという時に必要なものをすぐに手に取ることができず、非常時に混乱をきたす可能性があります。

キングジムの防災用品



オフィス文具を主力事業とするキングジムが、防災用品を扱っています。

キングジムが展開する防災セットは、A4 ファイルボックスサイズのパッケージに収納されています。書棚や机の引き出しといったオフィス内の限られたスペースでも効率的に収納できるのが特徴的です。

キングジムの防災セットは、オフィスのキャビネットやデスクの引き出しといった 「目の届くところ」 に置いておくことも可能です。いざというときにすばやく取り出せる利便性があります。社員全員がすぐに取り出せる場所に防災セットを置くことで、緊急時の行動を早く行え、混乱を最小限に抑えることができます。

キングジムの防災セットは従来の防災用品とは一線を画し、 「収納のしやすさ」 「いざという時にすぐ取り出せる」 という顧客価値を打ち出しています。

 「使わない時間」 での価値創出

防災用品は、非常時に活躍することが期待されるもので、「使わない時間」 が圧倒的に長い存在です。キングジムは 「使わない時間」 をいかに価値あるものにするかに着目しました。

オフィス文具を長年扱ってきたキングジムは、オフィス内の限られたスペースを効率的に活用するための知見を持っています。この知見を防災用品にも応用し、「収納性」 という新しい価値を防災セットに付与しました。

オフィスで働く社員が普段から目にする場所に防災セットを置けることにより、非常時に慌てずに取り出せるという心理的な安心感が得られます。通常の倉庫に保管されている防災用品にはない利点です。

また、オフィスの限られたスペースを有効に活用できるため収納効率が向上し、普段の業務においても邪魔にならないというメリットもあります。

自社ならではの価値


今回のキングジムの防災用品の事例から学べるのは、お客さんが商品を使うシーンだけでなく、 「使わないとき (保管しているとき) 」 の使い勝手にも配慮することの重要性です。

使わない時間に機会を見出す

防災用品は、使う機会がないことが理想とされる商品です。保管している状態でどれだけ便利であるか、いかに安心感を与えられるかが防災セットの評価につながります。使わないときにお客さんにどんな価値を提供できるかが大切になるわけです。

キングジムは 「オフィスの引き出しに収められる防災用品」 という形で、使われていない状況という見落としがちな機会を捉えました。

これはオフィス文具メーカーであるキングジムだからこそできることです。主要ビジネスであるオフィス用品開発の経験を活かし、オフィス内で自然に馴染む防災用品にすることで、使わない時間にも利便性などの顧客価値を持たせることができたのです。

自社にしかできない顧客価値を見出し、それをお客さんに提供することにより、選ばれる理由をつくる――。これはキングジムの事例から学びたいポイントです。

保管場所に困らないデザイン

今回のキングジムの事例は、製品開発やマーケティングにおいて、お客さんが使う瞬間だけでなく、使わない時間や保管している状態にも目を向けることの大切さを教えてくれます。防災用品のように 「使わないことが望ましい」 商品において、保管性や利便性を向上させることは、お客さんにとって価値となります。

キングジムの防災セットは、保管場所に困らず、オフィスの限られたスペースに簡単に収まるため、常に目の届く範囲に置くことができます。これにより、緊急時に必要なものをすぐに手に取ることができる安心感を提供します。また、デザインがシンプルでオフィスの雰囲気に馴染むため、日常的に視界に入っても違和感がなく保管できます。

キングジムの防災セットのように 「保管している物の取り出しやすさや収納性」 を追求することで、お客さんにとっての安心感や利便性を高めることができます。

見落としがちな価値の掘り起こし

キングジムの防災セットは、普段からオフィスの一部として自然に存在し続けることができるデザインとすることによって、他との違いを顧客価値として実現しました。

見落としがちな価値を掘り起こし、価値を実現するために自社の技術や経験を有効活用し、顧客価値を自社の強みとして打ち出すこと。キングジムのように使わないときにも便利な存在であれば、お客さんからの 「選ばれる理由」 につながります。商品やサービスの使用頻度が低い場合でも、使わない状況においての利便性や安心感があることで、お客さんの満足度を高められるのです。

まとめ


今回は、キングジムの防災用品の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • キングジムは防災用品という 「使わない時間が長い商品」 に注目し、自社のオフィス文具開発の知見を活かして A4 サイズの防災セットの収納性を実現した

  • 商品の 「使われていない時間」 にこそ差異化のチャンスが潜んでいることを示唆する事例。保管時の利便性や使いやすさを追求することで、既存商品との違いを生み出せる

  • 商品開発やマーケティングにおいて、商品の機能以外の付随価値に目を向けることが大事。自社の強みを活かし、見落とされがちなビジネス機会を見出し、顧客価値をつくる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。