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古事記と日本書紀に学ぶ、マーケティングの who, what, how の顧客起点の神髄

#マーケティング #ターゲット設定 #歴史

マーケティングでは、お客さんに合わせたアプローチの重要性は誰もが知っていることでしょう。しかし、その原則が古代の日本で実践されていたことをご存知でしょうか?

実は、日本の古代史を知ることができる 「古事記」 と 「日本書紀」 には、現代のマーケティングに通じる知恵が隠されているのです。同じ内容を伝えるのに、なぜ2つの記紀が必要だったのでしょうか?

その理由を掘り下げると、私たちの令和のビジネスに活かせる学びが見えてきます。今回は、古事記と日本書紀から、マーケティングへのヒントを紐解きます。

古事記と日本書紀


日本の古代史を語る上で欠かせない文献である古事記と日本書紀。日本の文化や思想の形成に多大な影響を与えています。

古事記と日本書紀は、日本の成り立ち、神話や伝承、天皇の系譜を記録しており、いにしえの日本人にとっての宗教観や歴史を現在に伝える貴重な資料です。歴史書としての記録にとどまらず、当時の政治的意図や文化的背景も色濃く反映されています。

古事記とは



古事記は、第40代・天武天皇が作ることを命じて編纂されました。712年に完成し、第43代・元明天皇に献上されました。

古事記は国内向けに作られました。日本国内の人々に、天皇家や大和朝廷の正当性を伝えることを意図してのものです。

編纂者は太安万侶 (おおのやすまろ) です。そして、類まれなる記憶力を持っていた稗田阿礼 (ひえだのあれ) が古くからある歴史書や伝承などを記憶し、それらを口述した内容を元にしたと言われています。

古事記は日本語の口承を漢文で表現したもので、読みやすさと物語性が重視されており、万葉仮名が使われています。

古事記は上・中・下の三つの巻 (まき) に分かれており、天地開闢 (天地の始まり) や神々の誕生といった神話、そして初代天皇である神武天皇から第33代推古天皇までの系譜が記されています。

日本書紀とは



日本書紀は、古事記と同じく第40代・天武天皇が編纂を命じました。720年に完成し、第44代・元正天皇に献上されました。舎人親王 (とねりしんのう) を中心とした学者たちによって編纂された日本書紀は、日本の歴史を中国などの外国に対して示すことを目的としていました。

日本書紀は全30巻からなり、神話から第41代の持統天皇までの歴代天皇を網羅しています。

日本書紀は漢文体で書かれており、これは中国の歴史書の形式に倣ったものです。当時、中国・唐は東アジアにおいて圧倒的な政治的・文化的影響力を持っていたため、日本書紀は中国の知識人層に理解され、受け入れられることを意図して編纂されました。

現代で言えば、日本書紀は英語のような国際語で書かれた外交文書に相当し、日本の地位を国際社会に示すために書かれた資料です。

共通点

古事記と日本書紀は、どちらも日本の古代史を記録するという共通の目的を持っています。古事記と日本書紀はいずれも7世紀の天武天皇が作成を命じました。

神話や伝承を通じて天皇家の正統性を証明し、国家としての日本の起源を説明する役割を果たしています。天皇家の系譜を明確にすることによって、国内外における政治的安定と国家の一体性を強調しています。

古事記も日本書紀も、天皇家が神々の直系の子孫であることを強調し、天皇制の神聖さを説く点において一致しています。当時の日本において、天皇が絶対的な権威を持つことを確立するために貢献し、日本の国家の安定と発展に寄与しました。

相違点

一方で、古事記と日本書紀には相違点が存在します。

古事記は国内向けに編纂されており、主に日本の民を対象としています。

物語性を重視した古事記は、天皇の神聖さをストーリー性のある感情豊かな内容で伝えることにより、天皇家の権威を国内に浸透させることを狙っています。

古事記は、正式な漢文を崩した変体漢文で書かれています。これは日本語の発音を漢字の音に当てはめた表記法です。読み手や聞き手にとって理解しやすく、親しみやすい形式で書かれています。

日本書紀は海外、特に中国を意識して編纂されました。漢文体が採用され、中国の歴史書に倣っています。日本書紀では、代々の天皇が詳しくつづられ、それぞれの出来事がいつのことだったかも明記されています。日本書紀は、古事記よりも歴史書としての体裁が強いです。

当時の国際社会における日本の地位を示し、中国に対して日本が独自の文化と歴史を持つ国家であることを示すことを目指しました。現代に当てはめれば、これは自国の政治や経済の状況を海外に向けて発信する際に、国際的に通用するフォーマットや言語を使用することに相当します。

古事記と日本書紀は補完関係にあり、現代のビジネスに当てはめれば、古事記は社内向けの文書、日本書紀は社外向けの公式資料のようなイメージです。

海外の神話と比べた日本の神話の特徴

海外の神話と比べると、日本の古事記と日本書紀にはどんな特徴があるのでしょうか。

注目したいのは、日本の神話では古事記も日本書紀も神と人間が子孫としてつながり、他国の神話では神と人間は別々の存在で語られている点です。

古事記と日本書紀では神々と人間が直接的な血縁関係を持ち、天皇が神々の子孫として万世一系 (ばんせいいっけい) でつながっていることが強調されています。

一方、他の国の神話、例えばギリシャ神話や北欧神話では、神と人間は異なる存在として描かれることが通常です。神は人間の上に君臨し、人間に影響を与える存在であり、直接的な血縁関係や同一視されることはありません。

マーケティングへの示唆


ではここからの後半のパートでは、古事記と日本書紀からビジネスに学べることを考えてみましょう。

古事記と日本書紀の違いから、マーケティングにおいて示唆が得られます。

ターゲット顧客の違い

古事記と日本書紀は、想定する読者に違いがあります。マーケティングに当てはめれば、「ターゲット顧客」 が明確に異なります。古事記は国内向け、日本書紀は海外 (主に中国) 向けに作られました。

注力顧客が変われば、コンテンツやコミュニケーションの方法を変える必要があります。

古事記は国内の人々に対して、親しみやすい言葉や物語性を重視した表現を用い、天皇家の正当性を訴求しました。それに対して日本書紀は、中国を中心にした国際社会に向けて、信頼性や格式を重んじ、漢文体という現代で言えば英語に相当する国際語で書かれています。

古事記と日本書紀について、マーケティングのフレームである who (ターゲット顧客) , what (伝えたいメッセージ) , how (伝え方) で整理すると、次のようになります。

項目 古事記 日本書紀
ターゲット顧客 (Who)  国内の日本人 (特に当時の一般民衆や貴族)  国際社会、海外 (主に中国) の知識人層
伝えたいメッセージ (What)  天皇家の神聖な系譜と正当性、天皇の権威性 (国民に向けたメッセージ)  日本の国家としての正統性と独自の文化 (政治的・外交的な地位を確立するため) 
コンテンツと伝え方 (How)  - 神話や伝承を中心に、和文体 (万葉仮名) で表現
- 感情豊かで物語性を重視した記述
- 日本語の音韻に合わせた読みやすい形式
- 神話から歴史的事実までを網羅した形式で、漢文体で記述
- 中国の歴史書に倣った格式高い文体
- 事実重視で年表形式の構成


日本の最古の歴史書に学ぶ顧客起点

このように、同じメッセージを伝えたい場合でも、ターゲット顧客の特性に応じて、コンテンツの内容や伝え方を工夫することが大事です。

マーケティングに当てはめれば、例えば、同じ商品を販売するにしても、若者向けとシニア向けではアプローチが異なります。

若者向けには SNS や動画コンテンツを活用し、視覚的に魅力的でトレンドを反映したり、あえてくだけた雰囲気でメッセージを発信することによって共感を得られるでしょう。一方、シニア向けには、信頼性のある固めの表現で、紙のチラシやパンフレットを用いた大きめの文字による丁寧な説明や、使いやすさを強調するコンテンツが有効です。

市場が異なればアプローチは異なり、マーケティングもターゲットとするお客さんに合わせて柔軟に変えるべきです。古事記と日本書紀という2つの文献は、まさにこの点を示しています。国内の民を対象にした古事記は、感情に訴える物語性と親しみやすさを重視し、海外向けを意識した日本書紀は、信頼性と格式を持たせた漢文体で記されました。

注力顧客に応じたコンテンツとコミュニケーションの最適化は、現代のマーケティングにおいても重要です。古事記と日本書紀の事例は、歴史的な側面だけではなく、現代における顧客起点のマーケティングに通じる教訓を与えてくれるのです。

まとめ


今回は古事記と日本書紀から、マーケティングに学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 古事記は国内向けに親しみやすさを重視し、日本書紀は海外向けに格式を重んじた。古事記と日本書紀の違いは、マーケティングにおけるターゲット顧客の設定の重要性を教えてくれる

  • マーケティングのフレームワークである 「Who (ターゲット顧客) 」 「What (メッセージ) 」 「How (伝え方) 」 を古事記と日本書紀に当てはめると、顧客セグメンテーションからターゲティングとポジショニングに示唆がある

  • 古事記と日本書紀の事例は、顧客に寄り添ったマーケティングの大切さを示す。注力顧客が変われば、コンテンツやコミュニケーションの方法も適切に合わせる必要がある


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。