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トロピカーナのリブランディング大失敗。3つの過ちに学ぶ、パッケージデザイン変更とブランド構築への教訓

#マーケティング #リブランディング #識別記号

成功しているブランドが、たった一度の判断ミスでお客さんが離れていってしまうこともあります。

2009年、アメリカの大手飲料ブランド 「トロピカーナ」 は、長年親しまれてきたパッケージデザインを一新しました。しかし、わずか2ヶ月で売上が 20% も落ち込み、急きょ元のデザインに戻すことを余儀なくされたのです。

ブランドの 「見た目」 を変えることは、想像以上にリスクを伴います。お客さんの商品認識を混乱させ、長年築いてきた信頼をも一瞬にして損なう可能性があるからです。

トロピカーナの失敗から、私たちはブランディングの本質的な課題と向き合うことができます。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

トロピカーナのリブランディング


リブランディングの失敗で有名な事例のひとつがアメリカのトロピカーナです。

トロピカーナは、100% 果汁にこだわったフルーツジュースのブランドです。生まれたのは1947年で、品質とともに、オレンジの果実を全面に打ち出したパッケージで長くアメリカの消費者に親しまれてきました。

そんなトロピカーナが2009年にパッケージやロゴなどの全面的リブランディングを敢行しました。


ロゴはシンプルな書体に変え、それまでの横文字ではなく縦にあしらいました。また、オレンジの果実のイラストをなくし、その代わりにオレンジジュースとするデザインに変更しました。

このリブランディングでは、ジュースの中身自体は変わらなかったのですが、パッケージの変更だけでリブランディング後のわずか2ヶ月で売上が約 20% も落ちてしまいました (参考記事) 。

もともとトロピカーナの味は消費者から支持されていたわけで、ジュースの中身が変わっていないなら、パッケージを変更しても売れ続けてもよさそうですが、そうはならなかったのです。

その後、トロピカーナは元のパッケージデザインに戻すと発表し、数ヶ月のうちにすべてのスーパーマーケットの棚にリブランディング前のトロピカーナが復活しました。

* * *

ではなぜ、トロピカーナのリブランディングは失敗に終わってしまったのでしょうか?

リブランディング失敗の要因


いくつか考えられるリブランディングの失敗要因を順に見ていきます。

識別記号の消失

ロゴ、イメージ写真、色合いなどはブランドに紐づく要素です。ブランドでは専門用語で 「識別記号」 と言ったりしますが、ログやパッケージがあることによって、人はお目当ての商品かどうかを視覚的に瞬時に識別するものです。

トロピカーナの2009年のリニューアルでは、ブランドの識別記号の多くの要素が一気に変更され、お客さんからのブランド認識に混乱が生じました。消費者は色やロゴ、パッケージ全体のイメージなどの視覚的な情報を頼りに商品を識別しますが、リブランディングによる全面刷新をしたために、「いつものトロピカーナ」 を見つけられなかったことでしょう。

多くのトロピカーナのお客さんは、トロピカーナのことを馴染のあるいつものパッケージデザインとして覚えていますが、パッケージ変更によってスーパーなどのお店でいつものトロピカーナに気づきにくくなってしまったことが、売上不振の要因です。

感情的なつながりの喪失

さらに、新しいトロピカーナに気づいても、デザインの大きな変更で消費者からは 「安っぽい」 とか 「自分向けではなくなった」 と感じたことも影響したのでしょう。

お客さんは長い間にわたって親しんできたトロピカーナのパッケージに、無意識的にも感情的なつながりを持っていたはずです。しかし、突如として愛着のあるものを一方的に変更されたことが、お客さんからするとトロピカーナに 「裏切られた」 という感情を抱かせたことも考えられます。

広告的なパッケージへの無理強い

パッケージとは、消費者が商品を購入する直前の 「無言のセールスパーソン」 のような存在です。消費者が商品を見つけ、手に取る最後の瞬間に効果を発揮します。

この文脈で、広告とパッケージは期待される役割が異なります。広告は時間をかけて商品の特徴や価値を伝えることができますが、パッケージは即座に認識可能な要素で構成されている必要があります。

パッケージは一目で明確かつ直接的にブランドを表現することが求められますが、トロピカーナのリブランディングはこの点でボタンのかけ違いが起こりました。トロピカーナは広告的なアプローチをパッケージに適用してしまったために、期待される役割を果たせず、リブランディングの失敗につながりました。

失敗からの教訓


トロピカーナのパッケージデザイン変更によるリブランディングの失敗からは、リブランディングへの教訓を学べます。

最後のパートでは、特に3つの観点から詳しく見ていきましょう。

識別記号の役割

トロピカーナは、ロゴ、フォント、パッケージのデザインといったブランドの主要要素を一度に変更しました。

多くの消費者が、新しいデザインを目にしても 「この製品はトロピカーナである」 と直感的に認識できなくなりました。

消費者は日々多くの情報に囲まれており、商品を瞬時に判断・認識するために、慣れ親しんだブランド要素に頼ります。その最たる例がロゴやパッケージの色、写真やイメージ画像です。これらのブランドへの 「識別記号」 を大きく変えることは、特に長らく浸透していたブランドにおいてはお客さんからの誤認や見逃し、ひいては混乱をも招き、結果として購買意欲を消してしまうわけです。

すでにお客さんからのブランドイメージを持たれているブランドのリニューアルでは、お客さんが付いてこられるスピードや段階を経ての変更が望ましいでしょう。急な大幅なリブランディングはハイリスクハイリターンです。高いリスクをとってでも、得られる果実を大きくするという意図的な挑戦であればいいですが、リスクを認識しない中での大胆な変更には不確実性が伴います。

お客さんが既存のデザインに対して愛着や識別性を持っている場合、ブランド要素を徐々に変えることで、お客さんは新しいデザインに順応しやすくなります。一度に全ての要素を変えることは、認識と信頼の両方を失わせる危険性を含んでいることに注意が必要です。

消費者の感情的な価値

トロピカーナの事例では、消費者からのトロピカーナへの感情的なつながりが、リブランディング後の売上減少に影響しました。

トロピカーナは、数十年間維持してきた 「オレンジにストローが刺さったデザイン」 や 「トロピカーナのロゴ」 を変更しましたが、こうした要素は、実は消費者にとって愛着のあるものでした。

オレンジのイメージやロゴは、トロピカーナというブランドと消費者を結びつける象徴的な存在だったわけです。大幅な変更によって多くの既存顧客は、急にブランドが自分とは遠い存在になったと感じ、突然の変更により裏切られたと感じた人もいたことでしょう。その結果、親近感や愛着を失い、既存顧客の中でトロピカーナは特別なブランドではなくなったのです。

私たちが学べる教訓は、お客さんにとって親しみや信頼感を持たれるブランド要素やブランド資産は慎重に取り扱うべきであり、売り手都合による一方的な変更にはお客さんからの感情的な反発を招くということです。

ブランドは、流行りのデザインをただ追求すればいいというわけではなく、お客さんからの愛着や信用を重んじ、お客さんに寄り添った姿勢や活動が大切です。お客さんからの感情的なつながりや価値イメージを過小評価すると、お客さんは離れていってしまう可能性が生じることを、トロピカーナの事例は示しています。

パッケージデザインと広告

トロピカーナの失敗には、パッケージと広告の役割の違いが発揮されなかったであろう点もあります。

広告は、お客さんの感情を時間をかけて構築し、新しい価値観やメッセージを伝える方法です。一方で、商品パッケージは購買直前の最終判断に影響し、また、接触機会が一瞬であるというのも特徴です。

広告と比べたときに、パッケージデザインには瞬時にブランドを認識できるシンプルさと視覚的な明確さが求められます。

トロピカーナは 「果汁から絞る」 というメッセージや、「天然のジュース」 を伝える意図で新しいパッケージデザインを導入しました。しかしこれはどちらかと言えばパッケージよりも広告からのマーケティングコミュニケーションで効果的に働くアプローチです。

しかしトロピカーナは、広告でやるべきことをパッケージに役割を持たせたために、パッケージからの視覚的な識別性や信頼性を損なう結果になりました。広告とパッケージにそれぞれどんな役割を持たせるかという、トータルでのデザイン戦略が重要になるのです。

まとめ


今回は、アメリカのトロピカーナのリブランディング事例を取り上げ、失敗からの教訓として学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ リブランディングの失敗要因
  • 識別記号の消失: トロピカーナは、ロゴと色使いなどの識別記号を一気に変更したため、消費者が商品を認識できず売上が大きく減少した
  • 感情的なつながりの喪失: 長年親しまれてきたパッケージへの消費者の愛着を過小評価してしまい、既存顧客からの 「裏切られた」 という感情を生み、ブランドへの親近感や信頼感が損なわれる結果に
  • 広告的なパッケージへの無理強い: パッケージは購買時点での瞬時の認識が重要だが、パッケージに時間をかけて価値を伝える広告的アプローチを持ち込んでしまった。認識しにくいデザインとなり、パッケージ本来の 「無言のセールスパーソン」 としての役割を果たせなかった

✓ 教訓
  • 識別記号の慎重な扱い: ブランド要素は段階的に変更し、消費者が混乱せず、徐々に新しんデザインに慣れる環境を整えることが重要。確立されたブランドの視覚要素を変更する際は、消費者の認知や受容度を見極めながら段階的に進める
  • お客さんの感情への配慮: ブランドの成功は、長年かけて構築されたお客さんとの感情的なつながりに支えられている。お客さんが持つブランドへの感情的な価値や愛着を尊重し、変更の際にはその影響を十分に考慮する
  • 役割の使い分け: 広告とパッケージの役割を明確にし、パッケージは即時の認識と商品価値の体現、広告は時間をかけた価値伝達という、それぞれに適したアプローチをとりブランド価値を正しく伝える


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。