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お客さんからの 「選ばれる理由」 のつくり方。 状況・ジョブ・ワーカーを活用するマーケティング術

#マーケティング #選ばれる理由 #状況とジョブとワーカー

マーケティングの本質は、お客さんからの 「選ばれる理由」 を生み出すことにあります。

自社商品が選ばれる理由は、商品の機能や性能だけでは語れません。お客さんの置かれた状況、その状況で求めていること、そして商品との出会いや使用によって生まれる体験価値が、選択の決め手となるからです。

今回は、お客さんの状況を深く理解し、価値ある顧客体験をお客さんにもたらすために、マーケティングの 「ジョブ理論」 を紐解きながら、選ばれる商品やサービスをつくるためのマーケティングの本質に迫ります。

選ぶ理由と顧客価値


マーケティング活動の肝になるのは、「お客さんから選ばれる理由」 をつくることです。

とはいえ、お客さんがそのカテゴリーの商品、その中でも特に自社商品やサービスを選ぶときの気持ちを知ることはそう簡単ではありません。お客さんが何を感じているか、何を欲しているのかを言い当てることは、お客さん本人でさえも言語化していなく、他人がそれを読み取ることは容易ではないからです。

選ぶ理由とは価値があること

そもそもとして、なぜお客さんがその商品やサービスを選ぶかというと、商品・サービスを使うことにより得られる価値があるからです。

体験価値に対して、商品・サービスの価格が妥当だと感じれば、つまり算数の不等号の式で表せば 「価値 > 価格」 と思えば、その価値が選ぶ理由となり、商品を欲しいと思ってもらえるわけです。

顧客価値について、忘れないようにしたい捉え方は、価値があるのは商品・サービスそのものではないということです。商品自体が価値を持っているのではなく、お客さんが商品を使ったり保有することではじめて価値が生み出され、お客さんが頭や心の中で価値を感じるものだからです。

お客さんの 「状況」 をとらえる

では、どのようにお客さんからの選ばれる理由をつくるか、別の言い方をすれば顧客価値を提示するかですが、ヒントになるのは 「お客さんの状況」 を知ることです。

お客さんが置かれた状況をとらえることによって、顧客体験についての言語化と理解が進み、お客さんの気持ちを推測できるようにもなります。商品を使うシーンやその背景となる文脈 (コンテクスト) 、状況を事前に理解することにより、お客さんから選ばれる理由への仮説を立てられるようになります。

状況を捉え、お客さんにもたらしたい顧客価値を定義するためには、次のような項目をひとつずつ整理していくといいです。

  • 現在のお客さんの状況
  • 理想状態
  • 目指したいお客さんの状況
  • 商品の機能や特徴
  • お客さんに提供したい体験コンセプト


上記の項目の構造を言語化すると、「現在のお客さんの状況」 を出発点とし、お客さんが望んでいるであろう 「理想状態」 を描きます。理想状態から逆算した 「目指したいお客さんの状況」 を理想からの現実解として捉えます。

ここまでの今の状況と、理想や目指す状況のギャップをいかに埋めるかが自社商品の存在意義になります。「商品の機能や特徴」 から 「お客さんに提供したい体験コンセプト」 に落とし込むことで、もたらしたい顧客価値を定義します。

お客さんの状況を共創からアップデートしていく

目指すのは、お客さんの 「現在の状況」 から、叶えたいと思う 「理想状態」 へと、お客さんとともに共創しながら近づいていくことです。

自社商品をお客さんに提供することで目指すのは、「お客さんの "状況をより良くする" こと」 にあります。

これをカメラに当てはめれば、「より良いカメラをつくるのではなく、お客さんによりうまく撮影できる状況になってもらう」 、「より良い写真家になれる手段や環境を提供する」 ということです。

理想状態と目指すお客さんの状況に向かって、買い手と売り手が一緒になって模索しながら、その進歩を共に歩んでいくことを目指すという考え方です。

ジョブ理論からの示唆


ここで、さらに考察を深めるためにマーケティングの 「ジョブ理論」 とつなげて掘り下げていきます。

ジョブ理論とは

ジョブ理論 (Jobs to Be Done Theory) は、クレイトン・クリステンセンによって提唱された理論です。

ジョブの定義は 「人がある特定の状況で遂げたい進歩 (progress) 」 です。ジョブとは人が片付けたい用事や達成したいタスクのことを指します。

ジョブ理論で特徴的なのは、商品やサービスのことをお客さんのジョブを達成するために 「雇われる存在」 という視点で見ることあります。つまり、お客さんは商品のことを、自分のジョブを片付けるために働いてくれる 「ワーカー」 として選び雇用し、利用するのです。

ジョブの背後にある 「状況」 まで理解する

ジョブ理論を効果的に活用するために大事なのは、お客さんのジョブはどういった顧客文脈で生じているかの 「お客さんの状況」 まで理解をすることです。

ジョブの定義は 「人がある特定の状況で遂げたい進歩」 でしたが、お客さんの置かれた特定の状況を捉えることで、ジョブへの因果関係が見えてきます。「置かれた状況 → ジョブ」 という構造的な顧客理解ができるわけです。

ワーカーの役割

ここで前半の話ともつなげると、ジョブはお客さんの 「現在の状況」 から 「目指したい状況」 に行き着く進歩です。そしてジョブを完了させるために雇う 「ワーカー」 が、理想状態に向かって目指す状況を実現する役割を担います。

ジョブ理論における 「ワーカー」 とは、商品やサービスそのもので、これはお客さんが自身の状況をより良くするために雇う存在でした。お客さんが商品・サービスを選ぶ理由は、ワーカーが自分のジョブをどれだけ効率的に片付けてくれるか、また自分が求める 「進歩」 をどれだけ実現してくれるかにかかっています。

このように商品やサービスをワーカーと位置づけることによって、お客さんの 「現在の状況」 と 「目指したい状況」 の中で果たす役割を明確にできます。

例えば、カメラであれば、特定のシーンでの撮影のしやすさやユーザーが求める写真の仕上がりをサポートすることが価値になります。この場合の 「特定のシーン」 というのがお客さんの置かれた状況で、お客さんが求める仕上がりの良い写真撮影や現像ができている状態、写真家としてひとつレベルが上がったのが実感できることが、目指す状態になるわけです。

そのために雇われるカメラがワーカーとしての役割を的確に果たすことで、お客さんのジョブの達成に貢献できます。

ジョブと状況からお客さんの行動を解明する

このように、お客さんが商品をワーカーとして雇う背景には、解決すべき問題や達成したい進歩という 「ジョブ」 があり、そのジョブが生じている 「状況」 があります。ジョブ理論の観点から、お客さんの行動や選択を紐解くと、商品がどのような状況下で最も効果的に活躍できるかが見えてきます。

例えば、平日の朝の忙しい時間に、朝食がサッとてきるように作られた飲料や食品は、おいしさや栄養面という理由から選ばれるだけではなく、「余裕のない朝でも一日のはじめにしっかりと栄養とカロリーをおいしく摂取する」 という平日の朝のジョブに適したワーカーとしての役割が評価されるでしょう。

お客さんが置かれた状況 (平日の時間がない朝のシチュエーション) と、その状況で生じるジョブ (おいしく栄養もある食事をサッと済ませい) をセットで理解できれば、お客さんの行動、特に商品を特定のシーンで雇う理由 (選ぶ理由) を解明できます。

ジョブ理論を活かした商品開発の可能性

ジョブ理論を取り入れ、お客さんのジョブとワーカーの役割を明確にすることは、新しい商品やサービスの開発においても有効です。

お客さんの置かれた状況を起点に、お客さんが達成したい進歩 (ジョブ) を中心にお客さんのことを理解し、ジョブを済ませるワーカーとなる条件やスペックを持つよう商品をデザインすることによって、商品が雇われる可能性が高まります。

例えば、自宅学習をサポートする子ども向けの学習教材サービスで当てはめてみましょう。

親の目線では 「学校以外に自宅でも子どもの勉強時間を確保したいが、子どもはなかなか自分からは勉強はしないし、そうかと言って自分が子どもにつきっきりで教える時間もない。教えるのもうまくなく、すぐに子どもとケンカになることもある」 という状況です。こうした状況下でのジョブは 「親の最小限のサポートで、子どもが自分から進んで勉強に取り組むような勉強習慣をつくりたい」 「欲を言えば、学校のテストの点数がもう少し上がり、通知表の "よくできました" の評価が今よりもっと (倍ぐらい) 増えてほしい」 というものです。

この状況とジョブのためのワーカーとして選ばれるためには、学習教材サービスは子どもが一人でも楽しく飽きることなく学べるような工夫がされ、かつ親も一定の関わりをする役割があり、親子での勉強習慣が定着できるサービス設計が重要になります。最近の定番はタブレット端末によるデジタルを使った勉強教材ですが、あえてアナログでの紙ベースの通信教材にするというのも手です。

このように、状況とジョブ、そしてワーカーをつなげて企画することによって、子どもの学習をサポートし、なおかつ親の負担も過度にならないという親と子の両方に価値となるものは何かという視点で商品開発に注力できます。

状況、ジョブ、ワーカーのセットで考える意義

状況、ジョブ、ワーカーの三者をセットで捉えることで、マーケティングや商品開発はより的確かつ効果的なものになります。

スタート台となるお客さんが置かれた状況を理解し、その状況で達成したい進歩 (ジョブ) を支援するいちばん良いワーカーになることが、お客さんから選ばれる理由をつくり出すカギを握ります。

あらためてマーケティングで大切なのは、お客さんの 「現在の状況」 から 「目指したい理想の状況」 への進歩に向けて、自分たちが一番のパートナーになることです。

お客さんがその商品やサービスを選ぶのは、自分が達成したいジョブに最もフィットし、価値に見合った価格でその進歩に寄り添うワーカーとしての価値を見出しているからです。状況・ジョブ・ワーカーという3つの視点を持つことで、お客さんから選ばれる理由をつくることができます。

まとめ


今回は、あらためてマーケティングで大切にしたい視点を考えました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ お客さんから選ばれる理由を生み出す重要性
  • マーケティングで大事なのは 「お客さんから選ばれる理由」 を明確にすること
  • 選ばれる理由は、商品やサービスが提供する価値。顧客価値はお客さんが商品を実際に利用し体験する中で感じるもの。商品を使う状況や背景、得られる体験が重要となる
  • 特に 「価値 > 価格」 という感覚が生まれる場合に、商品が選ばれる可能性が高まる

✓ 状況、ジョブ、ワーカーを活用したマーケティングや商品開発
  • ジョブは 「特定の状況で人が達成したい進歩」 。ジョブを解決するために商品やサービスが 「ワーカー」 として雇われる
  • お客さんの状況とジョブの因果関係を理解することが大事。商品がどのようなシチュエーションで最大の価値を発揮するかが見えてくる
  • 状況を捉えるために、① 現在の顧客の状況、② 理想状態、③ 目指したい状況、④ 商品の機能・特徴、⑤ 提供したい体験コンセプトを理解する
  • マーケティングや商品開発では 「状況」 「ジョブ」 「ワーカー」 の3つをセットで考えることによって、より具体的かつ効果的な価値提供が可能となる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。