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インフレ時代を生き抜く戦略。デフレ時代の 「ポイント還元」 から、インフレ時代の 「価値向上の施策」 へ

#マーケティング #価格設定 #価値向上

ポイント還元セールなどのポイント特典に頼るだけで、本当にお客さんは満足してくれているのでしょうか?

価格を抑えてお得感を出すだけでは、これからの時代は十分ではないかもしれません。消費者は 「安さ」 だけではなく 「価値」 を求めているからです。

今回は、ただ安いだけの商品では生き残れない、そんなインフレ時代に突入した今、環境変化に適応するマーケティングとは何かを考えます。

どうすれば本当にお客さんから選ばれる商品・サービスを提供できるのか――。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

デフレ時代からインフレ時代への転換


デフレ時代におけるポイント還元は、「商品の金額を実質的に下げる手段」 として消費者心理を捉えるのに有効でした。

デフレ時代のポイント特典

例えば、家電量販店はポイント還元を積極的に活用することで消費者に対して 「お得感」 を打ち出しました。もらえるポイントは、消費者に対して価格以上の価値をもたらし、継続的な購入を促進する役割を果たします。

デフレの時代は、ポイント還元は有効な施策でした。消費者はお得感を優先する傾向があり、企業はポイントを付与することにより、即時的な価格競争に陥るリスクを回避できます。

消費者へのポイント特典は、コストパフォーマンスの式である 「価値 ÷ 金額」 の分母である 「金額」 を付与するポイントによって小さく見せ、コスパを引き上げる施策でした。

インフレが変えるポイントの位置づけ

しかし、インフレ時代において、この分母を小さくするアプローチは限界を迎えつつあります。物価上昇に伴い、商品の価格を抑え続けることが難しくなり、消費者は単なる 「安さ」 ではなく、支払った対価に見合う 「価値」 を求めるようになってきているからです。

インフレという環境下では、消費者の価値観や購買行動が変化し、安さだけで選ばれる時代から、品質や付加価値が重視される時代へと移っています。

物価が上がることで、消費者はお金を使う対象に対してより厳格な基準を設けるようになり、「本当に必要で価値があるかどうか」 にもとづいた意思決定をするようになります。

このような消費者の変化に対応するため、企業はマーケティング戦略の軸を 「価値強化」 へとシフトさせる必要があります。

価値に注力するマーケティングへの示唆


では、具体的にどのように価値創出や価値強化をやっていけばいいのでしょうか?

インフレ時代のコスパ向上戦略

インフレ時代のマーケティングにおいて、価値 ÷ 金額の 「分子」 である価値を高める方向に注力することが求められます。これが意味するのは、商品・サービスそのものの魅力や特徴を磨き上げ、「消費者から選ばれる理由」 をつくるということです。

価格の抑制が難しい環境においては、消費者がその金額を払っても 「価値がある」 と感じる商品・サービスを提供することが重要になります。

具体的な事例

たとえば、アウトドアブランドの 「パタゴニア」 は、耐久性や機能性に優れる商品を提供するだけでなく、環境保護活動への積極的な取り組みをブランドの姿勢として打ち出しています。

具体的には 「1% for the Planet」 というプログラムを通じて売上の 1% を環境団体に寄付したり、製品の修理サービスを提供することで長く使えるようにし、廃棄物を減らす取り組みを行っています。

パタゴニアはアウトドアウェアの枠を超え、サステナビリティに共感する消費者にとって価値のある選択肢になります。商品の物理的な特性だけでなく、ブランドの理念や社会的な価値を訴求することによって、消費者に 「価値ある投資」 と感じてもらうことができます。

また、高級チョコレートブランド 「ゴディバ」 の例も見てみましょう。

ゴディバはチョコレートを捉え直し、「特別な瞬間を彩る贈り物」 として自社ブランドを位置付け、価値を高める戦略をとっています。

商品そのものの味や品質だけでなく、贈る喜びやもらう喜びといった感情的価値を強調することで、消費者に 「ゴディバというこの商品でなければならない」 という特別な理由を提供します。こうしたエモーショナル (感情的) な価値の訴求は、自社商品がほかの商品にはない存在になるために有効です。

価値強化型マーケティングの設計ポイント


価値を高めることに注力するマーケティングを設計するにあたって、汎用的なポイントを整理しておきましょう。

お客さんにとっての価値を理解する

まず、消費者が商品やサービスに何を求めているのか、つまり 「本質的な価値」 を深く理解することが大事です。

例えば、商品の機能的な良さだけではなく、「自己投資」 や 「ライフスタイルの一部」 として商品をポジショニングしています。消費者は自分の生活や健康への投資と捉え、ブランドに共感し支持してもらえることが期待できます。

ロイヤル顧客への対応

次に、ロイヤル顧客にフォーカスすることの重要性があります。

あらゆるお客さんに向けてではなく、特に自社の商品やサービスに強い価値を感じるロイヤル顧客に焦点を当て、彼ら・彼女らにとっての 「特別な価値」 をさらに強化をしていきます。

限られたリソースを効果的に活用し、より持続的な LTV (顧客生涯価値) の向上を図ることができるでしょう。ロイヤル顧客に対する価値提供を徹底し、ブランドへの信頼と愛着を高め、他の選択肢 (競合ブランド) への流出を防ぐことにつながります。

価格と価値のバランス

また、価格設定の見直しと価値の再定義もポイントです。

例えば、化粧品ブランドであれば、プレミアム商品を導入し、価格を引き上げる一方で、成分の高品質化やパーソナライズされたカウンセリングサービスを用意するなど、価格に見合う価値を提供するといいでしょう。

本質的な顧客価値を実現するマーケティング活動

インフレ時代におけるマーケティングは、お客さんの 「支払う対価」 に対してどれだけ納得感をもたらせるか、もっと言えばお金を払ってでも欲しいと思える 「本質的な価値」 を提供できるかにかかっています。

コストパフォーマンスの数式である 「価値 ÷ 金額」 の構造を念頭に置き、分子である 「価値」 を高めるための独自の施策を展開することが、競争優位を築くために大事になります。

企業は、価格競争の泥沼にハマることを避け、価値の競争に目を向け、お客さんからの 「選ばれる理由」 をつくることが求められます。そのためには、商品やサービスの独自性を際立たせ、利便性などの便益を持ち、感情に訴えかける価値を創出しながら、全体的な顧客体験を豊かにすることが大事です。

お客さんは価格以上の商品価値を得られ、一方の企業は長期的な顧客関係を構築しながら自社の成長と成功につなげることができるのです。

まとめ


今回は、お客さんへの価値提供と価格をセットで考え、どのようなマーケティングができるかを考察しました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • デフレ時代におけるポイント還元は、値下げのような効果を発揮し、お客さんを増やす手段として有効であった。しかしインフレ時代ではその効果が薄れつつある

  • インフレ時代において、消費者は 「安さ」 よりも 「価値」 を重視する傾向が強まっている。企業は価値向上を軸にした戦略への転換が求められる

  • ビジネスで大事なのは 「価値 ÷ 金額」 のコスパの式において、分子である価値を最大化すること。限られたリソースで、お客さんに他にはない顧客価値を提供し、お客さんとの持続的な関係を築くことを目指す

  • 価格競争の呪縛から解放され、価値競争へ挑む姿勢と実行力が大事になる。お客さんが 「お金を払っても欲しい」 と思う本質的な価値をつくり強化していく


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。