#マーケティング #顧客インサイト #価値提案
ミツカンの 「味ぽん」 は、消費者の潜在的なニーズを捉え、顧客心理を理解したマーケティングで成功を収めています。
今回は、消費者の望みをどう掘り下げて理解し、消費者への商品価値の訴求方法を味ぽんの事例から探ります。
売上を増加させた秘訣とは?ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
味ぽんが CM で売上を拡大
発売から60年となるロングセラーブランドである、Mizkan (ミツカン) の 「味ぽん」 。1964年に発売された鍋専用調味料です。
そんな 「味ぽん」 の販売が好調です。
売上を伸ばすきっかけになったのは、2024年5月に新しく放映されたテレビ CM です。CM では、味ぽんが幅広く利用できることを訴求するという今までにない切り口を打ち出しました。
CM 投下後の2024年5月下旬には早くも成果が表れはじめ、売上が前年比 10% 増になったとのことです (参考記事) 。
見出した顧客理解
CM による売上拡大の成功の要因は、ターゲット顧客のニーズと行動を深く理解し、効果的な訴求を行ったことです。
ミツカンはお客さんの声を丁寧に分析し、売り手である企業側が見過ごしがちな自社商品の強みを再評価しました。お客さんの意見を積極的に取り入れ、企業内の既存の常識にとらわれず、お客さんの視点に立って自社の商品価値を見直すことで、新たな展開につなげました。
では、具体的にどんな顧客ニーズをミツカンは発掘したのかを詳しく見ていきましょう。
消費者の 「料理を楽しみたい」 という望み
ミツカンが得た洞察は、忙しい生活の中でも 「料理を作ることで楽しみや満足感を得たい」 という願望が、多くの消費者に共通していたことです。
料理の負担を軽減しつつも、おいしい料理を作りたいという心理が背景にあります。
消費者は 「効率」 と 「満足感」 を両立させる調味料を求めており、味ぽんがその役割を果たしています。味ぽんを使えば手間がかかったり複雑な味付けをしなくても、簡単に味が決まり、料理の失敗を避けられるという認識を消費者は持っていました。
味ぽんは、手軽さと満足感の両立を実現し、楽しく料理をするという体験をつくりだしていました。消費者が料理を楽しむことがストレスを解放し、ポジティブな体験として捉えられていたのです。
若い世代のニーズと料理の位置づけ
若い世代や料理の初心者は、手軽さを重視しつつも 「自分で作った料理を楽しみたい」 と考えていました。
具体例には、一人暮らしの人や共働き世帯で、短時間でおいしい料理を作りたいニーズがあり、それと同時に、いつも同じようなメニューからマンネリ感を出したくなく、さらに料理をするのに失敗したくないという心理もあります。
この文脈で、忙しく時間がないときでも、味ぽんが 「簡単に本格的な味を再現できる調味料」 として重宝されていることがわかりました。若い世代にとって、味ぽんは料理を補助する調味料にとどまらず、日常の中で料理をより楽しむための存在として機能していました。
料理への 「幅広い用途」 での利用状況
味ぽんは 「鍋料理専用の調味料」 としてだけでなく、日常のさまざまな料理で使用されていることが判明しました。
味ぽんには 「かける」 「つける」 「加熱調理する」 など多様な用途があります。例えば、焼き魚や唐揚げにかける調味料として、他には和え物の風味付けや炒め物のアクセントとして、さらには煮物の隠し味やサラダのドレッシング代わりとしても使われているなど、消費者が自分なりに工夫して使いこなしている様子も見られました。
消費者が味ぽんを多機能な調味料として認識し、料理のさまざまなシーンで活用していることを示しています。
メニューの 「味の幅」 を広げる楽しみ
消費者は 「料理のマンネリ化を防ぎ、日常に変化を加えたい」 という欲求を持っています。このような欲求は、家庭での料理において 「毎日同じ味では飽きてしまう」 と感じることから来ています。
味ぽんは利用用途が多様な分、メニューの 「味の幅」 を広げ、食卓を豊かにする楽しみを提供していました。和風、中華風、酸味を活かしたさっぱり味など、さまざまな味を簡単に再現できるというものです。
家庭でのひと工夫で料理のレパートリーを増やす楽しみが得られるなど、同じ食材でも異なる味付けで新しい体験を楽しむことができる点が評価されていました。
さらに、味ぽんを使うことによって 「今日はどんな味にしようか」 と考える楽しみが生まれ、料理が家族とのコミュニケーションの一環となることも期待されているようでした。
味ぽんの 「味のバランスの良さ」 への評価
ミツカンは、味ぽんのロイヤル顧客をより深く知ろうとしました。というのは、現状の課題を丁寧に整理し、ロイヤル顧客が味ぽんを選び続ける理由を探ることに、今後のブランド成長へのヒントがあると考えたからです。
味ぽんのロイヤル顧客が高く評価しているのが、酸味・塩味・かんきつのバランスが良いという味わいでした。「酸っぱすぎない」 「塩辛すぎない」 「香りが強すぎない」 などの絶妙なバランスが、多様な料理に使えることにつながっています。
こうしたバランスが取れた味わいは、どの料理にも自然に合うため、家庭の定番調味料としての地位を確立しています。
これは他の調味料では代替できない、味ぽんならではの特性だと認識されていました。家庭料理においては 「どの料理にも使える汎用性」 と 「いつも同じ味で安心できる安定感」 が重要であり、味ぽんはこの両方を兼ね備えていることが高く評価されています。
一方、ミツカンは、味ぽんの 「バランスの良さ」 を長らく当たり前と捉えていました。ミツカンはあえて訴求していませんでしたが、お客さんにとっては、実はこれが味ぽんを選び続ける大きな理由であることがわかりました。
バランスの良さによって、味ぽんは家庭料理の中で信頼されるパートナーのような存在になっていたわけです。
こうした消費者からの声をもとに、ミツカンは味ぽんのメニューの 「味の幅」 を広げ、色々なメニューにも合うというバランスの良さなどの強みを再認識しました。
消費者心理にもとづく消費者理解を深め、訴求ポイントを明確化。既存顧客に対する再購入の促進や、新規顧客への訴求力を高めることを目標に、テレビ CM を展開したのです。
味ぽんは他の調味料とは一味違うポジションを確立し、長く支持され続けるブランドを目指しています。
顧客理解からの価値提案
ここまで見てきたように、マーケティングにおいて大切なのは、消費者やお客さんがどのような環境に置かれ、その状況においてどんな行動や心理を抱えているかを深く理解することです。
データを分析して数値的な傾向を捉えるだけではなく、背景にある消費者・顧客の生活状況や感情を洞察し、そこから顧客価値を見出すことが重要になります。
ミツカンの味ぽんの事例からは、データと洞察をうまく組み合わせることにより、自社商品の価値を再定義し、消費者やお客さんのニーズに合った提案を行う道筋が見えてきます。鍋専用という既存の消費者からのイメージを良い意味で覆し、消費者が忙しい日常の中でも手軽に料理を楽しめるように訴求することで、多彩な使い方と新しい価値を提案しました。
こうした取り組みは、ビジネス全般に活かせるヒントを含んでいます。自社が提供する商品やサービスを「顧客文脈」の中で捉え直し、顧客理解にもとづいた顧客視点での心に刺さるメッセージや訴求点を練り上げることが、より効果的なマーケティングにつながります。
まとめ
今回は、ミツカンの味ぽんを取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ミツカンは、消費者やお客さんの心理まで掘り下げ、忙しい生活の中でも料理を楽しみたいという消費者の望みを捉えた
- マーケティングで大事なのは、お客さんの置かれた状況、その状態での行動や心理まで理解すること
- ミツカンの味ぽんの事例は、データと洞察を組み合わせ、顧客価値を再定義し、顧客文脈に合った提案につなげる方法として示唆がある
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