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逆風を突破し、逆転の発想で成功した資生堂 「ファンデ美容液」 に学べること

#マーケティング #逆転の発想 #顧客価値

これまでのやり方が、今後もうまくいくと思っていないでしょうか?

市場が成熟したり、顧客ニーズが目まぐるしく変化する中、従来の戦略や方法では生き残れない時代が来ているのかもしれません。

ご紹介したい資生堂が仕掛けたマーケティングは、これまでの 「常識」 を覆し、見事に市場を再活性化させた成功例です。では、一体どのような逆転の発想で、市場の常識を打ち破ったのでしょうか?

あなたの日々の仕事に活かせるヒントをお届けできればと思います。一歩先を行くマーケティングへのアイデアをぜひ一緒に見つけにいきましょう。

資生堂の 「ファンデ美容液」 


出典: 資生堂

資生堂が2024年に発売した 「エッセンス スキングロウ ファンデーション」 は、ファンデーション市場の逆境を打破し、ヒット商品となりました。

コロナ禍以降、スキンケア意識の高まりによって肌に負担をかけるイメージがあったファンデーションでしたが、市場が縮小する中、資生堂はスキンケア効果を高めつつ、メークもできるという 「いいとこ取り」 を実現し、ファンデから離れた女性たちの心をつなぎ留めました。

新たな需要を創出し、発売後8カ月間で累計50万個を超える出荷数を達成。SHISEIDO ブランドのファンデーション年間売上は前年比約3.4倍に拡大しています。

資生堂の成功の背景には、コロナ禍で変化した消費者の価値観を深く理解し、スキンケア重視や肌への負担軽減というトレンドを捉えたことがあります。

消費者の従来のファンデーションに対するイメージ

まずはそもそもの市場環境から抑えておきましょう。

コロナ禍以降、マスク着用が日常化し、肌荒れやトラブルが増加したことで、肌の健康やスキンケアへの意識が高まり、消費者は 「肌に負担をかけたくない」 というニーズを持つようになりました。特に、ファンデーションは 「肌に負担をかけるもの」 というイメージが強く、敬遠されがちになったわけです。

ファンデーションは、肌の表面を均一にカバーするため密着性が高い設計になっており、「肌が呼吸できない」 「毛穴が詰まる」 といった感覚を与え、消費者に負担を感じさせていました。また、ファンデーションを落とすために必要なクレンジング剤が肌の油分や水分を奪い、乾燥や肌荒れの原因となることも、消費者がファンデーションに抱くネガティブなイメージの一因でした。

消費者の間で 「ファンデーションは肌を痛めるもの」 や 「ファンデを使うと肌が疲れる」 といった認識が広がっていました。

逆転の発想をした 「ファンデ美容液」 

こうした消費者の認識に対し、資生堂は逆転の発想をとりました。

通常の 「ファンデーションに美容液成分を配合する」 という設計とは逆にし、資生堂は美容液にファンデ成分を閉じ込める新しい技術である 「セラムファースト技術」 を採用しました。スキンケア効果とメイクを両立する 「色付きの美容液」 を実現しました。

また、訴求メッセージにおいても、当初の 「美容液ファンデ」 から 「ファンデ美容液」 へとキーワードを変更しました。前者の美容液ファンデという表現は、あくまでファンデが主役で美容液はおまけ的な印象を与えます。ファンデーションがメインなので消費者にとっては肌への負担を連想させるものでした。

一方で、順番を逆にした 「ファンデ美容液」 と変えることによって、美容液がメインでファンデはサポートという立ち位置を明確にしました。肌への優しさを強調することで、スキンケア重視の消費者心理に訴求することができたわけです。

テレビ CM では 「さようなら、ファンデーション。」 という挑発的なキャッチコピーを展開しました。消費者から 「これまでのファンデとは違う」 や 「新しいカテゴリーの商品」 と思ってもらうことを狙い、ファンデーションを敬遠していた層にも 「美容液なら試してみたい」 と思わせる心理的な態度変容を生みました。

資生堂はテレビ CM に加え、SNS を活用して話題性を作りました。

エッセンス スキングロウ ファンデーションの 「色付きの美容液」 というユニークなコンセプトが SNS で話題となり、「美容液で肌をケアしながら自然な仕上がりが楽しめる」 といったポジティブな投稿が多数見られ、商品の認知拡大に貢献しました。多くのユーザーが 「肌に優しいのにカバー力もある」 と評価し、SNS での投稿や拡散がさらに多くの消費者の興味を引くきっかけとなったのです。

こうした商品設計やマーケティングコミュニケーション戦略は、消費者の持つ 「美容液 = 肌を守るもの」 というイメージに合ったもので、肌への配慮を第一に考えた商品という安心感を消費者にもたらしました。消費者は 「スキンケアとメイクが両立できる商品」 という使用価値を感じ、従来のファンデーションとは異なる魅力を見出しました。

学べること


では、資生堂の 「ファンデ美容液」 の事例から、マーケティングにおいて汎用的に学べることを掘り下げていきましょう。

主役を切り替えることで顧客ニーズに寄り添う

商品やサービスの主役となる要素は一度決まると、そのあとは固定化されがちになりますが、生活者の価値観やニーズは時代とともに変化するため、その時々に合った 「主役」 を見極めることが重要です。

資生堂の 「エッセンス スキングロウ ファンデーション」 は、消費者ニーズの変化に合わせた主役の切り替えを見事に成し遂げた例です。

従来のファンデーションは 「メイクの仕上がり」 を主役に据え、その補助的な役割として 「美容液成分」 が配合されることが一般的でした。しかし、コロナ禍を経て消費者のスキンケア意識が高まり、肌への優しさが重視される状況においては、従来の主従関係 (ファンデーションが 「主」 で美容液が 「従」 ) では消費者に響かなくなりました。

そこで資生堂は発想を逆転し、美容液を主役に変え、その中にファンデーション成分を閉じ込める設計を採用しました。美容液成分を製品のメインとし、美容液の機能から肌に優しいスキンケア効果を提供しながら、同時にファンデーションの要素により自然なメイク効果をつくります。

消費者は 「肌への負担が少なく、さらにスキンケア効果が期待できる」 という気持ちになり、資生堂は従来のファンデーションでは満たせなかったニーズに応えることができたのです。

これまでファンデーションでは取り込めなかったスキンケア重視の層を引きつけることに成功し、ファンデーション市場全体の再活性化に寄与しました。多くのユーザーからは 「美容液としての保湿効果を実感しつつ、自然な仕上がりになる」 といった評価が寄せられ、肌に優しいという点が好評でした。

このように、主役を時代やターゲットに応じて柔軟に切り替えることで、顧客ニーズに寄り添うことができます。商品やサービスの顧客価値を再解釈する際には、今までは主役の影に隠れがちな存在だった要素の中から、「お客さんが実は求めているもの」 を抜擢し、センターに据えることによってこれまでとの違いや価値をつくりだせます。

ネガティブな認識をポジティブに転換する

消費者は、商品やサービスに対するネガティブな認識を持っていることは少なくなく、もし放置すれば購買意欲を阻害する要因となってしまいます。しかし、逆にそのネガティブな認識を巧みに転換することにより、新しい価値を提案し、購買意欲を喚起することができます。

資生堂の事例では、ファンデーションに対する 「肌に負担をかける」 というネガティブなイメージが存在していました。ファンデーションが肌を覆うことによる物理的負担や、毛穴が詰まったり肌荒れを引き起こすといった不安要素です。

このような懸念を解消するため、資生堂は 「美容液が主役」 という商品設計を採用し、「肌をケアするための美容液であり、同時にメイクができるもの」 というポジティブなメッセージを伝えました。多くの消費者から 「まさに求めていたもの」 や 「肌が疲れないのに仕上がりが良い」 といった評価を得ており、特に肌への優しさを重視する層に響きました。

また、テレビ CM での 「さようなら、ファンデーション。」 というキャッチコピーもこの転換に貢献しています。従来のファンデーションのイメージに対して 「さようなら」 とはっきりと決別し、消費者に 「これまでとは違う新しい価値」 を持ってもらうことを目指し、ファンデーションに対する抵抗感をポジティブな期待感に変えました。

ネガティブな認識をポジティブに転換するには、お客さんが抱く課題を理解し、問題の解決策を明確かつ魅力的に提示することが大事です。商品やサービスが 「お客さんの問題を解決する存在」 として位置付けられるチャンスとなります。

お客さんの言葉で価値を伝える

どんなに優れた商品やサービスでも、お客さんにその価値を正確に伝えられなければ選ばれることはありません。価値を伝えるときに大切なのは、売り手である企業側の視点ではなく 「お客さんの立場で考えた言葉」 を使うことです。

資生堂は、商品発売の当初には 「美容液ファンデ」 という訴求を行っていましたが、これでは 「ファンデーションが主役」 という印象が強く、ファンデーション離れが進んでいる市場環境において消費者には十分響きませんでした。

そこで、「ファンデ美容液」 という逆にした名前に変更することで、美容液が主役というメッセージをわかりやすく端的に伝えました。

消費者にとって商品の本質的な価値が一目でわかるようになり、「肌に優しくて使いやすい」 といったポジティブな反応が SNS で見られました。また、多くの販売店で売り切れが相次ぎ、市場での成功を示す具体的な結果も得られたのです。

消費者の心理に寄り添った言葉遣いは、共感や信頼感を生む効果があります。

マーケティングにおいて、お客さんの言葉で価値を伝えるためには、まずターゲット顧客の価値観、言葉や感覚を深く理解し、顧客理解と顧客文脈にもとづいて伝え方を設計することが大事です。また、訴求ポイントやキャッチフレーズを時代や市場の反応に合わせて柔軟に調整することも、商品の魅力を最大化するために有効です。

まとめ


今回は、資生堂のファンデ美容液である 「エッセンス スキングロウ ファンデーション」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 既存の常識に固執せず、ターゲット顧客の価値観や時代に合わせて、お客さんが本当に求めているものを発見し、ときには今までの商品特徴の主役を柔軟に見直すことで、新たな需要をつくり出すことができる

  • ネガティブだったことへのお客さんが抱いていた懸念や不安を受け止め、問題を解決する価値を示すことによって、お客さんの心理的障壁を取り除く

  • ネガティブな認識や問題を逆手に取り、お客さんの期待を裏切らない前提でポジティブな発想に転換できれば、商品の新たな価値を打ち出せる

  • お客さんの言語で価値を伝える。企業の視点ではなく、理解したお客さんの感覚や価値観に寄り添った言葉選びが重要。商品価値を効果的に伝え、お客さんからの共感や購入意欲を喚起するコミュニケーションを目指す


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。