#マーケティング #戦略 #マーケティング4P
魅力的な商品やサービスさえあれば成功する――。そう考えてはいないでしょうか?
もしかしたら、成功を阻む見えない壁が、商品・サービス以外の部分にあるのかもしれません。
今回は、この文脈でクールジャパンの事例を、マーケティングの 4P に当てはめて考察します。
製品力だけでは越えられない課題と、お客さんに価値を届け、ビジネスを成長させるために不可欠な顧客起点のマーケティングについて、具体的なポイントを掘り下げます。
クールジャパンのこれまで
「クールジャパン」 は、日本の魅力ある商品やサービス、文化を海外に発信していこうという官民一体の取り組みです。
アニメ、マンガ、ゲーム、ファッション、食など、日本には世界に誇る文化やコンテンツが数多く存在します。これらを海外へと届け、経済的にも文化的にも大きく成長させる――。そんな目標を掲げて、官民連携で行ってきたのがクールジャパンの取り組みです。
しかし 「クールジャパン戦略」 からは、必ずしも思い描いていたほどの成果が出ていないというのが現状でしょう。実際には、日本国内で人気のあるクリエイティブが海外ではなかなか広がっていかない、多言語対応や流通網の構築など、さまざまな問題が露呈しているように見えます。
マーケティング 4P への当てはめ
では、クールジャパンの事例から学べることを掘り下げていきましょう。
この事例をマーケティングの観点で捉えると、マーケティング 4P に示唆があります。
Product (製品・サービス・クリエイティブ) は問題ではない
まず前提として、日本のコンテンツそのものの魅力に欠けているかと言えば、そうではありません。
アニメやマンガ、ゲーム、さらには日本の食べ物や食文化など、多くのコンテンツが海外で高い評価を受けています。日本への旅行にこれらを目当てに訪日する外国人もコロナ禍以降で V 字回復をしました。
国内で制作された映画がアカデミー賞を受賞するケースもめずらしくなくなり、海外版コミックの売れ行きが日本以上に伸びているという話も耳にします。
にもかかわらず、十分な成果に結びついていないのはなぜなのでしょうか?
この論点を掘り下げるにあたって、マーケティング 4P を当てはめることで議論が深まります。
結論から言うと、マーケティング 4P において、Product (日本のコンテンツ) が問題ではなく、4P の残り3つの中の特に Place (流通・ディストリビューション) が解決すべき問題なのです。
Place (流通・ディストリビューション) の未整備が主な原因
日本のコンテンツが海外に広がらなかった背景として、ボトルネックとなっているが流通の課題です (参考情報) 。
映画であれば、海外の映画祭に合わせて開催される見本市に出展をして、海外バイヤーに対する試写会を実施します。試写会が終わった後に、個別の商談を設定して売り込みを行いますが、その場で商談がまとまるケースは少なく、別途、時間をかけた商談が必要になります。
またコンテンツ素材 (映画の場合には上映するためのフィルム) を手配するのも大変です。各国の通関手続きなどを経て、現地の代理店を通じて配給会社の手元に届き、そこから劇場にフィルムが配布されるというプロセスが必要でした。マンガなどの出版物、グッズなどの商品化も同様です。
地理的・言語的な障壁のある日本は、これまで日本コンテンツを海外に展開するための流通や配信網を確立しきれていませんでした。できたとしても、煩雑でコストのかかるプロセスでした。結果、流通経路が限られ、数多くの国や地域の多くの海外ユーザーにはコンテンツを届けることができなかったわけです。
しかし、ここ数年で状況を変えたのが、Netflix や Amazon プライムビデオといった動画配信サービス (OTT (Over-the-Top) : インターネットを通じてコンテンツを配信するメディアサービス) の台頭です。
以前なら配信権の交渉や代理店の確保が難しかったのが、OTT が一括で世界各国に向けて配信できるようになりました。一気に海外ファンを獲得できる土壌が生まれたわけです。
アニメが海外で認知されるきっかけの多くが、動画配信サービスでたまたま視聴したというユーザー体験に移り変わりつつあります。これまで届きにくかった国や地域にも、OTT による世界同時配信という形で作品が世界デビューできるのです。
日本のコンテンツの魅力そのものは高く、問題は届く仕組みが弱いという部分にありました。今後、他の分野 (食品・工芸・ファッションなど) の物理的な製品ジャンルでもプラットフォームや流通網を充実できれば、アニメ等と同じようにコンテンツが広がっていくことが期待できます。
Price (価格設定) の課題
海外展開を考える上では、価格設定の課題も避けては通れません。
コンテンツビジネスでは、販売価格やライセンス料の設定、映画やドラマの制作費をどこまで許容できるのかといった、費用対効果のバランスが論点になってきます。
例えば、動画配信プラットフォームがコンテンツの配信権を買い取る際、その価格交渉の基準は日本での人気度だけでは決まりません。プラットフォームにとっての視聴者数の見込みや新規ユーザー獲得への貢献度など、別の尺度で判断されます。
どの作品を、どの価格レンジで、どの市場に届けるかをトータルで考え、期待できる成果に見合った価格設定や制作コストを組み立てていくことが課題です。それも短期的な視点だけではなく、中長期での時間軸での収益モデルの構築が大事になります。
Promotion (認知向上やブランディング) の課題
いくら流通や価格面を整備しても、そもそも人々に知ってもらえなければクールジャパンは成功したとは言えません。
日本コンテンツは国内での知名度が高くても、海外ではその存在を知られていない場合も多々あります。そこで、現地のネットワークやコミュニティにいかに浸透できるか、SNS や現地語での広告、海外向けイベント出展など、オフラインとオンラインを組み合わせての海外の消費者の目に触れる仕組みをどう築くかが重要です。
また、アニメやファッションなどを筆頭に、ブランドイメージを高めるブランディングも大事になってきます。
コンテンツをただ消費することだけにとどまらず、日本のカルチャーを体験したいというニーズを海外の人たちに持ってもらうような、共感・憧れ・応援したい気持ちを醸成するわけです。そして作品単体の成功だけではなく、関連商品やグッズ展開、さらには旅先としての日本への誘導にもつなげることも大事です。
クールジャパンによるプロモーション戦略をつくり、作品そのものだけでなく、日本の文化や価値観への共感を生み出し長期的にファンをつくる効果が期待できます。
注力顧客を中心に 「誰に、何を、どう届けるか」
では最後のパートでは、クールジャパンの事例から汎用的なマーケティングへの学びを掘り下げていきましょう。
一貫性のある総合的な戦略を
ここまで見てきた内容を整理すると、マーケティング 4P の Product, Place, Price, Promotion のうち、これまでクールジャパンの展開はコンテンツというプロダクトの魅力が先行しているきらいがありました。
しかし、実際にビジネスとして拡大するためには、プロダクトという売りモノだけでは成立しません。注力顧客を明確にし、「誰に、何を、どう届けるのか」 を総合的に計画して、実行していくことが大事です。
例えば、大きく見てもハイエンド層を狙うのか、マス市場を狙うのかによって、コンテンツに加え配信方法や料金設定は変わってくるでしょう。国や地域によっても受容度や価格感覚が異なります。どの国のどの層に向けてアニメや映画を発信するのか、作品の世界観やキャラクターをどうブランディングするかも問われます。
顧客起点でのマーケティング
注力顧客を中心に置き、マーケティング 4P 全体で一貫性をもって設計することが大事です。
クールジャパンの今後の課題は、日本のコンテンツに限った話ではありません。
海外展開を目指す企業や事業にとっては 「どこをターゲットに、誰を注力顧客として、何を、どのチャネルで、どの程度の価格設定で、どうやって伝え届けるか」 という顧客設定とマーケティング 4P の最適化が常につきまといます。
日本のアニメなどのクールジャパンの構想は、魅力的な商品があればそれだけで勝てるわけではありません。流通やコミュニケーションという土壌が整った時点で、はじめてコンテンツの魅力が世界中に認知され見てもらえたり使われます。
自社の製品・サービスが国内で一定の評価を得ていても、海外で受け入れられるとは限らない一方で、適切な Place と Price 、Promotion を設計すれば海外でも受け入れられる可能性があるということです。
逆に、優れたクリエイティブや技術力を持っていても、流通チャネルが整備されておらず、現地の需要や価格設定を誤れば、機会を逃す可能性は大きいままでしょう。
マーケティング 4P は使い古されたようなフレームワークに映るかもしれませんが、これからの時代もお客さんを中心に据えるなら有効です。お客さんを中心にして、顧客起点でのマーケティング 4P からの戦略と実行が、ビジネスでの成否を分けます。
まとめ
今回は、クールジャパンの事例をケーススタディとして、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- Product (製品) の魅力だけでは十分とは言えない。優れたプロダクトであっても、届け方や伝え方が整っていなければ成果にはつながらない
- Place (流通) は届ける仕組みのカギを握る。注力顧客に届く流通や配信の整備があってこそ、プロダクトの価値が世の中にもたらされる
- Price (価格) は市場や顧客に合わせて最適化する。短期的な収益だけでなく、中長期的に持続する収益モデルを構築することも重要
- Promotion (プロモーション) は、価値観への共感を生むコミュニケーションとする
- 注力顧客を起点にしてマーケティング 4P 全体を設計する。「誰に、何を、どう届けるか」 に一貫性を持たせ、戦略と施策を組み立てる
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